派手な乱入者
ここは街の大通り。やはり二人の美少女(+僕とネリュ)は注目のまとになっている。見慣れない華やかな衣装の効果で、歩いているだけで誰もが振りかえっていた。
「おっ……冒険者ギルドの副ギルマスだぜ。またキレーな姉ちゃん達にくっつかれてら。しかもいつもの狐人の子や、ドワーフ娘達じゃねえのか。どんだけモテてんだあの人……」
「当たり前だろう? 若くして国から短期間に勲章を二度も授与されるようなお人だぞ……。俺達とは別物なのさ。見るからにまとう空気が違ってるだろう」
「あれが、この街で有名なフィルシュ・アルエア氏なのね……町の議会で、この街を救った彼らの銅像を設置しようって議題が持ち上がったらしいけど……どうなったのかしら」
町長……僕そんなこと全然知らないんだけど。今度会ったら問いただしておかなければ。
そして見て欲しいのは彼女達なのに……どうして僕関係のうわさばかりしてるんだよ、もう……。
しかし、やっぱりこの格好だと目立つのか、結構いろんな人が握手を求めたりとか、お店の人がプレゼントをくれたりするので、頭を下げながら丁寧に対応してゆくとあっという間に人だかりができてしまう。
こういうのは苦手だけど、悪意を向けられているわけじゃないし……魔物の群れよりかはマシ、っていけないいけない。冒険者生活が長いせいでついダンジョンでの出来事を比較対象にしてしまうこんな僕を許して下さい、街の皆さん。
「あまいのいっぱい! ぜんぶ、ぜんぶたべる!」
「お腹こわすから一個ずつにしとこうね……」
そんな中、一番楽しんでいるのはネリュで、沢山のお菓子によだれを垂らしてご満悦だ。小さなプチケーキ、クレープなどなど、屋台の食べ物なんかをたくさんいただいて……持ち帰ることもできないのでその辺りのベンチに座りで皆でわけて食べる。
「シュミレ、ほら、口を開けて。自分だと持ちにくいでしょ?」
「えっ……う、うん」
つい、前にした食事の手伝いと同じ感覚で、まだ手がうまく使えないシュミレの口に運んであげると……彼女は大人しくそれを頬張る。するとどこから口笛が聞こえ、僕らは二人して顔を赤くした。
「うぅ……さすがに人前だとちょっと照れちゃうわね」
「そんなに気になさらなくても、大丈夫ですよ。主様、私にも、私にも」
「ネリュにもちょうだい!」
おねだりするアサにも一口。そしてネリュにも。
確かに人目がある中でこれはちょっと恥ずかしいよね……速く食べきってしまいたいな。
「ごめんね、こんな風になるなんて……」
「ううん、でも美味しいし賑やかで楽しい。フィルシュってこんなに人気があったのね、すごいわ」
「いやいや、この格好だからだよ……いつもこんな地味な僕なんて、歩いてても誰も気づかないよ」
「そんな謙遜されなくても……私達、主様が皆様に認められていてうれしいのです」
アサは僕の腕を抱え込むようにして肩口に頭を寄せ……キモノに焚き染められたお香か何かの匂いが鼻をくすぐり、すっかり浮ついた気分になってしまう。
外を出歩くのも、皆と一緒ならやっぱり楽しいな。
「そろそろ行こうか。皆なにか、欲しいものはある? たまには買い物もいいでしょ?」
あらかたを食べ終えて立ち上がると、僕はこうして一緒にいてくれる彼女達に形にして何か渡したくて、そんな提案をする。
「ネリュ、もうおなかいっぱい……」
「うふふ……私はこうして出かけられただけで満足してしまいました。シュミレさん、せっかくですから主様の気持ちに応えてあげて下さい」
「えぇ、私? ええと……どうしよう、ええと」
「焦らなくていいから、何か見つけたら伝えてよ」
僕らは再び通りを歩きながら、店先を眺めはじめる。
すると、シュミレがあるところで立ち止まった。
「あ……」
一件の装飾品店の軒先。丁寧に磨かれたガラス窓の奥にはこまごまとしたアクセサリーが並んでいる。
そこで彼女はぼんやりと固まってしまった。
「気になるの? 店に入ろうか……?」
後ろから声をかけても彼女はどことなく空っぽな視線で窓を凝視して動かない……。
やがて彼女は、ポツリと消え入りそうな声でつぶやいた。
「……私って、こんなだったっけ? こんな普通の、女の子だったんだっけ……?」
窓に写るのは美しく着飾った一人の少女。
それに何か違和感を感じたように、彼女は不思議そうに首をかたむけていて……僕の心臓はぎくりとした。
どう答えたらいいのか……心の中で生じた迷いを殺して、僕は嘘を吐く。
「そ、そうだよ! シュミレは昔から可愛い女の子だったよ……今と、変わらないよ」
「そうなのかな……。うん、フィルシュがそう言うのなら、きっとそうなんだよね! 変なこと言ってごめんなさい……」
彼女は明るい顔に戻って振り返り、うれしそうな笑みを浮かべる。
罪悪感はよぎったけれど……でも、嫌なことを思いださせて、彼女を苦しませたくはない……。僕は、曖昧な笑みでそれに答える。
「私も、皆と……フィルシュがいてくれれば、それで……」
そこでだった――向き合ったシュミレの瞳が暗くかげったのは。
「主様ッ――!」
振り向く暇もなく、アサの悲鳴が聞こえる前に僕はシュミレを突き飛ばして後方に身を投げ出す。
ガシュウッ――!!
叩き割られた窓から硝子が散るはずが、それらは砂のように崩れた。
背後から跳びかかったのは、獣のように喉をならす赤黒い髪の男。
彼が見ていたのはしかし僕では無く……倒れたシュミレの腕をつかんで強引に引っ張り上げる。
「――ヒャハハハハハ! いたよ、オメェ何してんだぁ! 何だよその服はよォ、それじゃ戦えねぇだろ! 剣はどしたァ!?」
「痛い……放して!」
「あぁ? 『放して』だぁ? 違ぇだろが! こういう時は問答無用で、ぶった切るのがオメェのスタイルだったろ!? なぁどこに行っちまったんだ、俺の大好きなイカレたおめぇはよおぉぉぉぉお!」
「彼女を離せッ!」
「あぁ!?」
風魔法で加速した、《ウィンドブレード》。それをやすやす避けて距離をとり……男は初めてこちらに目を向ける。
赤ら顔の男はどこか蕩けたようにぼんやりした瞳をしているが、放っているのは禍々しい殺気だ。
「オォィ、坊ちゃんよぉ……そりゃーねぇ、そりゃーねぇんじゃねぇの? やぁっと探してた弟子に巡り合えた感動の再開によぉ、他人様が水を差してんじゃねぇっつうんだよ……なぁ、わかんだろ?」
「知るもんかそんな事情。たとえ話が本当だとしても……お前みたいな異常者に彼女は触れさせない! 皆さん、下がって!」
未だ周りは騒動に驚いた野次馬が取りまいており、僕は周囲を巻きこまないよう声を張りあげた。
蜘蛛の子を散らすように離れてゆく人々。
「――おとさん!」
「ネリュちゃん、危険です、離れて! シュミレさん!」
そんな中、勇敢なアサが二人を連れて引き下がり、僕は目線で感謝を伝える。
……うん、それでいい。こいつのそばは危険だ。
それを目で追う男の前を体で塞ぐと、彼は億劫そうに手を広げて喉を震わせる。
「クク……関係ねえ奴が好き勝手いうよなぁ……。まぁでも、いいぜオメェ。こないだのチンピラどもより、全然マシだなぁ! そんじゃちょっとばかし……遊んでくれるかァ!!」
――ジャッ!
振りかぶった剣が円を描くようにそのまま降ろされる。
速度の乗った強烈な斬撃だが……多分それだけじゃない!
僕はその一撃をよけると同時に、横合いから風の刃を叩きつける。
「《ウィンドカッター》!」
「っとぉ!?」
男はしかし、スキルも使わず剣の一振りでそれを打ち消した。
片刃の白刃。しかしその刃はひどく細かい凹凸が敷きつめられ、まるで鋸のような形状をしている。
「魔剣……!?」
僕の言葉に、ぼんやりと魔力で灰色に光る刀身をちらつかせ……男は口元を歪めてそれを肯定した。
「ご名答ォオ! ……しかし腕のいい《風魔法》使いなんてのは、珍しいなァ! こいつはラァッキィ……存分に楽しませてもらうとするぜェ!」
片足で踏み切った男が、踊るように僕へと刃を振りかざす――!
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