クロウィ街の危機
ギルド内に足を踏み入れた僕達は、その汚れた室内に驚く。
ろくに掃除もされていないのか、受付のテーブルには薄くほこりがつもっていた。
「誰も……いないのかな?」
いや、そんなことあるか、普通?
冒険者ギルドは国営の団体なんだ……普通、つぶれるなんてことは有り得ないはずなんだけど。
「おや……お客様かな?」
奥から一人の男が姿を現した……白髪を撫でつけ目を細めた、どこにでもいる老紳士と言った感じの人物。
「ど、どうも。僕はフィルシュ・アルメアと言います。こちらはリゼリィ・ミューラ。受けられる仕事が無いかと思って来たんですが、ここの冒険者ギルドは一体どうしたんですか?」
すると老紳士は、ガバッと被りつくように僕の手を握る。
「ほ、本当ですか!? そっちのお嬢さんも? 歓迎しますよ! 実はこの街は今、危機に瀕しているんです!」
「は、はぁ……?」
◆
僕らは今、老紳士の出してくれたお茶をテーブルですすりながら、彼の話を聞いているところだ。
「丁度一カ月前くらいから、近隣の洞窟から、強力な魔物が出てくるようになってね」
この老紳士の名前はクラウゼン・レガート。この街のギルドマスターだ。
マスター手ずからお茶を……と思うかも知れないがもうこの街の冒険者は彼と他数人しか残っていないような状況らしく、その顔はやつれていた。
あんな副ギルドマスターがいるからどんなギルドなのかと思ったけど、話した感じこの人はどうやら真っ当そうな人で安心する。
「国も駐留する軍隊を送ってくれたんですが、あっという間に壊滅して……追加の部隊を送ってくれるように要請はしたのですが、しばらくかかるらしいんですよ。その間にも魔物はどんどんこちらに迫って来て、ついに街にまで被害が及び始めた……」
「近くの街の冒険者ギルドには応援を要請したんですか? レキドの街とか……」
「したんですがね。この街から逃げ出した冒険者が惨状を周りに伝えて誰も来たがらないらしい……この街は見捨てられたんです」
レキドは今、《黒の大鷲》が仕切っているはずだけど、彼らはこんな状態でも動かないのか。ひどいな……。リゼリィも隣で沈痛な面持ちで聞き入っている。
「ちなみに、その魔物と言うのは……」
「ハードスキンボアの亜種、アーマードボア。それが確認しただけでも百頭以上いると……」
「ひゃ、百頭以上も!?」
アーマードボアはAクラスの魔物で、ハードスキンボアよりも防御力が更に強化されてロクに物理攻撃が通らない位硬い魔物だ。
外見は巨大化した猪に鉄板を張り付けたような感じだけれど、そんな奴らが百頭以上もいたら、普通の冒険者だったら即逃げに入るのもやむを得ない。
「この街でもう戦える冒険者は、私と今警邏作業に出ている双子の冒険者しかいない……どうか君達の力を貸して欲しい。今残っている人街の人達は、古くからこの街を守って来た人ばかりで、ここを死に場所に定めてしまっている……どうにかして国から援軍が来るまで時間を稼げればまだ何とかなるかも知れない。お願いです、力を貸して貰えませんか……」
クラウゼンさんから頭を下げられるが、正直言って僕一人でどうにかなるとは思えない……例えリゼリィの助けがあったとしてもだ。
今の僕は彼女の命も預かってるんだと考えると、こんな無茶な依頼を受けるわけには……。
と思ったが、もう遅かった……ギルドの扉がバンと開く!
「ギルマス! あいつらが来た! 群れ全部ぶつけてくるつもりだ!」
「やばいですよぅ、どーにかして止めないと、街が消えちゃぅ!」
戸口に姿を現したのは、姿を左右対称にして、カラーリングだけを変えたような二人の少女。
「くそっ……私も出ます、出来る限り時間を稼がねば!」
クラウゼンさんは立てかけてあった黒い杖を取り出すと、ローブをひるがえし外に出ていく。
迷う僕の腕にリゼリィが触れた。
「あの……何とか助けてあげられませんか? ここで逃げるのは、あまりにも……」
上目遣いの空色の瞳が僕を遠慮がちに見て、選択肢を奪う。
「はぁーっ…………わかってるさ。……リゼリィ、危なくなったら逃げるって約束してくれないか?」
「はいっ、大丈夫です! 狐人の足は速いんですから!」
彼女は顔を明るくすると力強くうなずく。
何があっても彼女の身だけは守るけれど、かと言ってやっぱり、このまま何もせずに住民やギルドの人を放って置くことは出来そうにない。
「よし、行こう……! 皆をサポートしながら、なんとか魔物を押しとどめる!」
「頑張りましょう!」
遠くから伝わってきた微細な振動が魔物の襲来を告げる中、僕らはホコリ舞うギルド内から飛び出し、一目散に街の外へと向かった。
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