遊びに行こう
「……まぁ、まぁ!! お二人とも素晴らしいですわ!!」
鏡にうつる僕らに満開の笑みを浮かべているのは、もちろんアサだ。
今、僕は濃い緑のキモノに、下には濃い灰色のハカマとか言うのを着せられていた。意外と空間があって動きやすい。
そしてシュミレは、淡いピンク色の生地に、白い花の紋様をあしらった着物で上から下まで包まれている。髪の毛もそれに合うように少し結い上げ、髪留めでとめられた状態である。
「やはりお似合いです……このまま絵にして残したいくらいですよ!」
「わぁぁぁぁぁあ~……おとさんもシュミレも、にあってる……きれい!」
「お似合いだなんて、そんな……」
ネリュがばんざいをし、アサが鼻息をふんすと鳴らして満足し、ならぶ僕らを賞賛する。シュミレが顔を赤くしてるけど……多分そう言う意味では無い。
「でも、とても可愛いよ。なんだか見ていると心が明るくなる華やかさと、上品さがあるよね。キモノって」
「ふふふ、そうでございましょう? よろしければシュミレさんと二人で街を回ってこられたらいかがです? きっと皆の注目の的になると思いますよ?」
僕はアサの言葉に少し考えこむ。
あまり彼女のことを宣伝するようなまねは避けた方がいいとは思うけど、でももうここへ来て一月あまり、特になにもなかった。なにより今の彼女を見て、元のシュミレと重ねあわせる人がいるかも疑問だ。
「ね、私……フィルシュと一緒に街へ行ってみたい。ダメ……?」
おおっと……。
意外なことに彼女も積極的だ。
行動的になるのは悪いことじゃ無いし、そんな目で見られると、ダメとは言えないよ……降参だ。彼女をいつまでもここに縛り付けておくわけにもいかないのは確かだろうし。
ゆっくりと体調は回復しているし、腕が日常生活を送るのに問題なくなれば、彼女もまた自分の人生を送るために人の輪の中へ戻って行かないといけない。その自信を付けさせてあげるにはいい機会だと思い、結局僕は彼女の手を取った。
「行こうか……大丈夫。僕が一緒に付いてるから」
「やったぁ、ありがとう!」
そんな風な元気な姿を見て、ずっと彼女を見守ってくれていたアサもにこにこしている。一方ネリュは羨ましそうに人差し指をくわえた。
「わたしもほしいな……」
「ごめんね、作るのに時間がかかるから、ネリュちゃんはまた今度ね。ではお二人とも、いってらっしゃいませ」
「それじゃ、行って来るけど……でも」
ネリュをあやすアサの視線がこちらを眩しそうに見つめていて……僕はなんとなくお節介を焼いてしまった。
「アサも来ない?」
「わ、私ですか!? いいのですか? お邪魔では無いでしょうか……?」
「そんなことないよ。アサもふだんあまりここから出ないし、息抜きした方がいいと思うからさ。皆でいこうよ……ネリュも一緒に行きたいよね?」
「行きた~い!」
彼女はいつも屋敷内のこまごまをまとめて面倒見ていてけっこういそがしいから……たまには気分だけでもリフレッシュさせてあげなきゃ。
「ほら、一緒に行こう」
「……そ、それでは」
僕はおずおずと差し出された彼女の手をにぎる。そして四人でなかよく街へ繰り出そうとした時バァンと、けたたましい足音と共に一人の人物が扉を蹴りあけた。
「――主様ぁぁぁぁぁ!!!!!! ご無事で!?」
「ヨルっ!? どうして……?」
「どうしてもこうしても……主様が中々姿をお見せにならぬので心配して我は……おっふ!? そ、その格好はっ……」
ヨルはなぜか僕のキモノを見て真っ赤なり、口元を手でおおった。
「ああ、せっかくだからアサに着させてもらったんだ。おかしくないかな?」
ちょっと手を離して体をひねり前後ろと見せると、彼女はふるふると体を震わせる。
「……尊い」
「ん?」
「尊すぎます……すばらしすぎます、愛しすぎます――ッ! ああ、キモノがこんなにお似合いになる方など、そうはいらっしゃいませんとも! ま、眩しくて瞳がつぶれそうだが、ぜひとも焼き付けておかなければ……ハァハァ」
急に興奮した彼女は充血した目をくわっと見開き僕の姿を凝視すると、アサの肩をつかむ。
「アサ……お前、主様の着替えを、お手伝いしたのか? したんだな?」
「え、ええ……」
あーそれ言っちゃダメなやつ……と僕が止める間もなく、アサはぽっと頬を赤く染めて目を伏せる。すると……。
「うぁ~ん! 我の馬鹿っ、なぜ主様の元を一時でも離れたのだっ……体のサイズを測る機会などそうそうないというのにっ……! 主様の貴重なデータを取りこぼすなんて、傍仕え失格だぁっ!」
――ズダダダダダン!
それを聞いたヨルは四つん這いになって床を激しく叩く。
う~ん、この子の忠誠心は一体どこから来てるの?
……ありがたいけど、ちょっと怖い……。
「わ、悪いんだけどさ……少し街を回って来たいから、ギルドに戻るのは遅れるってみんなに伝えておいてくれるかな」
「な、なんと……我も同行したいですっ! こんな絶好な機会なのにふいにせよとおっしゃるのは、あまりに殺生ですぅ……」
瞳を潤ませるヨルだったが、さすがにこちらの事情でこれ以上ギルドに負担をかけるのもいただけない。僕はヨルの肩に両手を乗せて、真剣に説得する。
「ごめんね……でも今は、いつも頼りになる君にしか頼めないんだ……。どうか僕の願いを聞いてくれないかな」
「わ、我にしか? 我、限定……ですか。そうですか……」
すると彼女は、感極まったように胸の前で手を組み合わせ、激しくうなずく。
「こほん……そ、そのように言われては致し方ございません! 後ろ髪ひかれる思いですが、このヨル、主様の名代として立派にお役目を果たして見せましょう! では御免!」
「あ、うん……頑張って。リゼにもよろしく~!」
――ザザザッ。
……行っちゃった。
瞬間移動するような見事な身のこなしで消えた彼女を目で追って、僕は苦笑する。
「ヨルはちょっと大げさだよね。一度助けた位で僕なんかをあんな風に立ててくれなくてもいいのに」
「はぁ、主様は女心をもうすこし理解されたほうがよろしいかと。なんとも罪深き御方ですわ……」
「それでいてああいうことを言うんだから、もー……ずるいわよ」
「ヨルはがんばりやさん。もっとやさしくしたげて」
「え……そ、そんなにつれなくしてたかな」
「「なんでもありません……」」
急に下がった皆の視線の温度に僕は慌てた。
どうして不機嫌になっちゃったのか、いまいちよく分からないんだけど……ま、いっか。
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