◆酔っ払いの所持者(???視点)
足を引きずるようにして小びんに入った酒をあおりながら、俺はある街を目指していた。安酒の中身はすぐに無くなり、雫だけがぽたりと舌の上に落ちる。
「――くそ、もうねぇのかよ。あ~だりぃ……ったくなんで所持者の俺様がわざわざこんな田舎町までこなきゃなんネェんだ」
――カチャン……バキバキッ!
空になったそれをその場に投げすて、苛立ちまぎれに踏みわるが……大して気分はおさまりゃしねぇ。
街道に散らばったガラスの破片を蹴飛ばすと、俺はその場に唾を吐きすてる。
――とある男に貸与した魔剣が王城倉庫の封印架へと返還されなかったこと。
それに対しての調査が、今回の俺の役割だ。
そのせいでクロウィとかいう、ど田舎の街まで足を運ばないといけなくなったんだが、めんどくせぇったらねぇぜ……。
とっとと酒場にでもしけこみてぇんだが……ま、全く無関係でもねぇから仕方ねぇな、今回だけは。
俺は回らねえ頭で、奴らの情報を思い出す……。
(《黒の大鷲》だったか。冒険者としちゃそこそこだったみてぇだが、結局全滅してりゃあ世話ねぇわな。冒険なんてのは生きて帰ってなんぼだろうが……そのへんを見極められんようなら、せいぜい二流がいいとこだったってこった……)
酒がまわって足がふらつき、肩がちょうど向かいからきた男にぶつかり俺は顔を上げる。
肩幅のある男が、こちらにきつい睨みをくれていた。
「あぁ? なにしてくれてんだ、この酔っ払いが!」
「あ~わりぃわりぃ、見逃してくれや」
「ちょっと待てや……おっさん」
そのまま素通りしようとした俺に言いがかりをつけ、三人組の男は周りを取り囲む。見たとこ、冒険者崩れだが、格好だけのチンピラ風情なのは、見ただけで分かっちまう程度だ。
つまんねぇな……そう思った俺はやりすごそうとへらへらと笑みを浮かべる。
「謝ってんだから手打ちにしてくれよぉ……いいだろぉ?」
「いーや駄目だな……態度がでけぇんだよ、許して欲しかったら……頭を地面にでも擦りつけて、迷惑料でも置いていきな」
――チキッ。
そんなこっちの態度で、与しやすしと見たのか馬鹿な男達は長剣を抜いちまった。
鞘走る音が合図になるとも知らずに。
ブシッ……。
次の瞬間、ポロリとなにかが地面に落ち……赤い噴水が地面を染める。
「おぁっ !? あ、あぉっ……おまっ、おまェア! おあっぁああああああ! 腕がぁ――――――!!!!!!」
目の前の男が、先のなくなった腕をにぎりしめて膝をつき叫びだした。
音も無く抜いた剣をふるい、虚を突いて後ろに回った俺は……男の頭部をかかとで血だまりの中へめりこませ、笑う。
「くくっ、あっはっはっはァ――――――! 抜いたらダメだろ! 抜いたら、生きるか、死ぬかだろ? ナァ……?」
「うぁぁ、お前ら! た、助けてくれェ!」
血だまりに伏した男が仲間に助けを乞い、ジタバタするのを俺はさらに強く地面へと押し付けた。
「あ~あ、さっさと血を止めねぇと、死んじまうぞぉ。お前らさぁ、どうする? こいつを助けられるか、試してみっかい?」
笑みを深くしながら、左右で慄く男達に俺は剣先を突き付ける、すると……予想通り。
「イ、イカレてやがる! なんなんだよ、こいつ――――!」
「ひいっ……!」
「お……前らぁっ……。待、て……待って、く……れ」
残りの男達は踏みつけにされた奴を見捨て、さっさと逃げて行く。
(まるで歯応えがねぇ……こんなもんなら、突っかかってくんじゃねぇよ)
そうして男達の背を見送っている内に、足元の男は大量の失血で意識を失っていた。……となると、やることは一つだ。
「あ~なんだ、つまんね、ハハ。酒代だけもらってくか」
白目をむいて痙攣した男で靴の裏の汚ェ血をぬぐった後、俺はそいつを蹴りころがして懐をまさぐり始めた。死人の金ほど無駄なもんはねぇからな。
「シケてんなー……期待はしちゃいなかったがよぉ」
財布を拝借したものの、金貨一枚に銀貨八枚と銅貨が少し……ろくな酒も買えやしねぇ。雑魚はやっぱ持っちゃねえな……魔物も人間もこーいう所はおんなじだ。
舌打ちすると俺は金をコートのポケットに放りこみ、口の端をつりあげる。
まぁ、街に着きゃあ、別の楽しみもある……久々にあいつと殺りあえるかもしれねぇからな。逃げ出したあいつがどんだけのもんになってんのか、この数年俺はそればっかが楽しみで仕方なかったんだ。
……もう六年かそこらになんのかぁ、当時十二、三そこらのガキが俺を斬り殺しかけやがって、シビレちまったぜ、おっさんはよぉ。
あれからちらほら風の噂には聞いたが……あいつも見込んだとおり、俺と同じさ。殺しが楽しくて楽しくてたまんねぇんだよ、あれほど興奮できるもんはねぇからよ……。
そんで殺った後、クズがゴミみたいに這いつくばって冷たくなってくのを見るとよぉ、胸がスッとすんのよ。
飯食うより女を抱くより、その快感に溺れてぇ……。
人でも、魔物でもいいから、ただ……真っ赤な血を見てぇ。
お前もそうだったんだろ? だから俺のもとから去った後も、そんな仕事を女の身でえらんだ……。
「あ~楽しみ、楽しみ楽しみ楽しみだぁっ! ……っと」
――バスバスバスバス……!
景気よく剣を振り回したおかげで、気づくと足元の冒険者だったソレはもう、原形をとどめていなかった。
「あ~ぁ……またやっちまった。すまんがまぁ仕掛けたのはそっちだし、仕方ねぇわな……《挽き鋸》、潰しとけ」
俺は頭をかくと、腰の鞘からもう一本の剣を抜きだす。
魔剣の――濃灰色の魔力をまとう刃が数度走ると、ソレは跡形もなく壊れ、あっという間に俺の興味は外れた。
「あ~、楽しみだ。楽しみで仕方ねぇ……」
頬を緩んじまって直らず、遠出をする子供のように笑いながら、俺はふらふらと再び街道を歩き出す。任務なんざそっちのけで、あいつを探す為に……。
「俺の子猫ちゃんはどっこにいんのかなぁ~♪ ケヒッ、ヒッ、ヒヒヒヒヒ――」
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