再会、そして帰還
城内を捜索していると、さいわいメリュエルともすぐに合流することができた。
「メリュエル、ポポやレポたちは……」
「それがですね……」
なにやら色々な紙束を抱える彼女は、僕と別れたあとの行動を説明してくれた……。
――あの後、メリュエルは僕の指示した二つの尖塔にある部屋を見てまわったらしい。
そのうち一つ目の塔にあったのはおびただしい血で汚された拷問用の部屋……。
内部に誰の姿も見当たらないことにほっとしながら、彼女はそこを後にした。
もう一つの塔の、残り一つの怪しげな部屋にたどりつき、彼女は魔法でその部屋の扉の破壊を試みたのだが……どうやら部屋自体が何らかの方法によって干渉を封じられていたとのこと。
空間魔法でも使用しているのか、通常の手段では立ち入ることはおろか、声すらも届かないようにされていたようで……。
扉があることから、おそらく何らかの方法で封印を解除することは出きるはず……。彼女はそう判断して、城内の者から話を聞くべく、なるべく伯爵に近しいものを探した。
そして、神聖魔法で眠りを解除した場内の数人の証言をもとに、伯爵の側近をとらえ、おどしかけて話を聞き出したところによると……。
――メリュエルはふところから一つの手のひらサイズのメダルを取り出した。
「これがその封印を解く鍵らしいということです。伯爵はとくにめずらしい種族の亜人たちを『コレクション』と称して、専用の牢に閉じ込め鑑賞するのが趣味だったようですから」
「最低ですね……」
リゼリィが肩をさすって嫌悪感をしめす。
亜人には様々な種族が存在する。リゼリィのような獣っぽい特徴を持つものや、ドワーフのポポ、レポやダークエルフのアサ、ヨルのように、見た目は人間と大差ないが、寿命や肉体的性能が異なったり、古くから人とは別れた歴史を持つものたちなど無数に……。
そういった存在は、しばしば人々に異物として認識されてしまうから、とくに人と異なる容貌を持つものたちに対する風当たりは、いまだに厳しいところがある。
そういう人々は、奴隷として所持する場合、虐待などや、必要以上の身体の拘束を禁じられている。こんな所に隔離して閉じ込めるのは完全にクロだ。
「とにかく、この者達を助け出せば伯爵の不正を暴くことにもつながるでしょう。さあ、開けますよ」
メリュエルがメダルを扉にかざすと、ぼんやりとしていた内部の気配が、はっきりと手に取るようにわかり始め……。
カチャン、と音がして扉が開いた。
そして……。
「「フィルぅう!」」
「ポポ、レポ!! 良かった……!」
勢いよく飛び出してきたのは、もちろんドワーフ娘達だ。多少やつれているように見えるが、まだまだ元気そうで、胸のつかえがとれる。
小さな二人をぎゅっと抱きしめると涙が出そうになった。
「心配……したんだぞっ。痛いこととかされなかったか?」
「大丈夫だよ! ごめんな、でもあたしらはそんなに怖くなかったぞ」
「絶対フィルが助けてくれるって思ってましたからっ」
彼女達もぎゅっと僕らにしがみつく。
感動の再会なんて気恥ずかしいけど……二人が元気でいてくれて本当に嬉しい。
彼女達の表情に無理している所がないか探すが……あの健康的な笑顔は陰ってはおらず、間に合ったことを神様に感謝した。
「おねーちゃんたち、そのひとがゆーしゃさま?」
ふと小さな声が二人の足元からして、僕は下をのぞきこんだ。
黒髪の幼女が僕を見上げている。
「そーだぞ、あたし達の」「いだ~いな勇者様ですぅ」
「おぉ~」
片目は髪に隠れて見えないが、ポポ達の言葉に彼女は黒々としたもう片方の瞳をきらきらさせた。
「いやいや……そんなもんじゃないからね。君は?」
「……レアって、はくしゃくさまからよばれてた」
「その前は……?」
「おなまえ、それまでなかったよ」
希少……呼び名に悪意を感じて僕は顔をしかめた。この部屋に閉じ込められていたということは、何かしら特別なものを持って生まれてきたんだろう。
そして、親からも名をつけてもらえなかったなんて……。
不思議そうに見上げる彼女だけでなく、後ろからも続々とおびえながら、色々な種族の人達が姿を現しはじめ、僕は顔を上げた。
「……本当になっちまった。死ぬまでここに幽閉され続けるんだと思ってたのに」
「なぁ、あんた? 伯爵はどうなったんだ?」
彼らにコーンヒル伯爵が倒れたことを説明すると、人々の目に光が灯りだす。
「お、俺達は自由なのかっ!?」
「え、ええ……取り合えず僕達と一緒に来てもらえますか? もう伯爵はいませんから、あなた方を不当に拘束するものは誰もいません。僕達は隣街の冒険者ギルドの者で……彼女は、ネルアス神教会の司教の位を持っています。信用してもらえるかどうかはわかりませんが、当面の衣食住にも困ると思いますので……。もし故郷に帰るというなら、出来る限り手助けします」
わっと喜びの輪が広がり、泣き崩れるものも現れる。
「家に帰れるんだ……家族にまた、会える……」
「ありがとう……あなた達の顔は忘れません!」
「そうか……自由なのか。そうか……」
口々にお礼を言ってくれる亜人の人々。
こんな所に長い間閉じ込められて、辛い思いをしただろう。
はやく家族に姿を見せて安心させてあげて欲しい。
するとあの黒髪の女の子が、恐ろしい問題発言をした。
「もう、ぺちぺちしなくていいの?」
「え……!? こ、こんな小さな子まで、伯爵は拷問を……」
「ごーもん?」
「あー、あれは拷問っていうか、なぁ……」
「違うんですか?」
「ヤツの趣味はちょっと特殊でな……」
特殊? もしかして……嫌な予感が胸によぎる。
捕らわれていた男性の一人が僕の耳にささやく。
「伯爵は、被虐趣味者って奴だったみてぇで、夜な夜な、俺達はもっぱらその相手をな……。奴を、鞭で叩いたり、尻を蹴とばしたり……うっ、思いだしたくもねぇ」
「ろーそくとろとろ、むちでぺしぺし~」
「やめろぉぉぉおお! あの時の光景がぁぁぁぁ……!」
「うわぁぁ、早く忘れさせて……!」
やっぱり、そういうことかと僕はげんなりする。
この小さな女の子だけでも記憶を消去してあげたい……そういうスキルなかったかな、可哀想すぎるよ……。
予想とは違う意味で最悪だったな、コーンヒル伯爵……この子が、早くここでの生活を忘れることを願うばかりだ。
……またしばらく大勢を抱えこむようになってしまったけど、きっと街の皆も協力してくれるはずだから、大丈夫だと思う。
彼らを元いた所へ返してあげよう。
「よし、それじゃ皆、今すぐ移動しましょう。動けない人は言ってください、手伝いますから」
「「あたし達もまだまだ元気だぞ(ですぅ)!」」
僕やポポ、レポ、他の皆も体が弱っている人を手伝い、協力して城を脱出する。
くずれた城はさんざんな有様だったが、後々の処理はまた、フェルマー伯爵に相談して後々考えればいいだろう。
屋敷の方も心配だけど、あのダークエルフ姉妹なら、きっと守りきってくれたはずだ。
月明りにかがやく巨大スライムの石山を遠くに見ながら、肩を貸し合ってゆっくりと僕らは本拠地――クロウィの街へと戻っていった。
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