伯爵と黒麻
広い屋敷内を移動している人物の元へ僕とメリュエルは急いだ。すると、予想通り……。
「貴様かぁっ! 賊がっ……」
きらびやかな赤い衣装をまとった、太った大男がこちらを指さし叫ぶ。
おそらく彼がコーンヒル伯爵なのだろう。
単独で屋敷から出るつもりだったのか……もしくはどこかに向かおうとしていたのか?
なにはともあれ、ポポとレポの居場所は捕らえた本人に聞くのが一番手っ取り早い。とりあえず拘束する……!
僕は勢いそのままに伯爵に《ガスト》を叩きつける。
だが……。
「ムグッ……舐めるでないわ! 《轟圧波》!」
伯爵は振りあげた戦鎚をうならせ、生み出した衝撃波で僕の魔法を打ち消すと不敵に笑う。
「ムフフン……わしがどうして護衛も連れず単独で動いていると思っている! それは……」
男の巨体は両手を振り上げ高く跳躍した。
「ビガーニではなく、わしがこの城で一番の強者であるからよッ! 《轟鎚撃》!」
――ズガァン!
頭上からの大振りの一撃。僕が今までいた床が一気に破壊される。
「《ウィンドバレット》!」
「甘いわ……《犀の型》!」
僕の反撃の風弾は、防御スキルで六角形の盾を生み出した伯爵に、ほぼノーダメージで防がれてしまう。
こいつ……堅い。言うだけのことはありそうだ。
「……グフフ。風魔法士のぶんざいでなかなかやるではないか。どうじゃ……? わしにこうべを垂れるなら、貴様も部下にしてやってもかまわん。 城中の人間を一度に眠らせる程広範囲の魔法を使えるものはそうはおらんからのぅ。わしがクロウィの街を支配した暁には、貴様をギルドマスターにすえることを考えてやっても……よいのじゃぞ?」
なまずのように細くととのえたひげをしごきながら、伯爵がこちらを見下すような言葉をかけてくるが……もちろん、僕の言うことはは一つだ。
「そんなことはどうでもいい! ……それよりも、お前がうばった僕の仲間を……ドワーフの娘二人を解放しろ!」
「はぁん? 貴様、そんなことをいいにわざわざここまで来おったのか。たかがドワーフ二人に大層な……まぁよいわ。新薬の実験体も不足しておったところじゃ。地に這いつくばせ、言うことを聞かねばいられずようにしてやる……グフェハハハハァァァ!」
だが、伯爵は口を歪めて僕の言葉を一蹴すると、気味の悪い笑い声と共に躍りかかって来た。
「《潰玉》!」
「《風神の鉄槌》!」
ドウンッ――!
戦鎚から繰りだされた球状の衝撃波と、エアロックで作りだした空気のハンマーがぶつかり合い、爆発音が耳を揺さぶる。
そのすきに相手に向かって肉薄した僕が、手元に生成したのは極薄の風の投げ輪だ……。
「《環り裂くもの》……」
様子見は終わり……。
リング状に成形した《ウィンドブレード》+《エンチャント・ウィンド》の合成魔法による、切断力を底上げさせた環状の刃が伯爵をおそう。
「グフゥム! 《犀のっ》……! ギュエァァァァッ!」
先程とおなじスキルで防ごうとした伯爵の体が間にあわずに切り刻まれ、奴はひざをつく。
「ハァ、ハッフー……き、貴様……この衣装がいくらしたか分かっておるのかァ! ……平民風情が何十人働こうが一生手の届かぬ額であるぞ!」
この期におよんで金の心配とは……。
息を荒くしてひざを着く伯爵を僕は冷めた目で見下ろす。
「命よりも金が惜しいのか? そうでなければさっきも言ったが仲間を返せ。どこに監禁してるんだ?」
「ググ……ド平民風情がァァァァ……! 誰に断わってわしを見下しておるかァァァ、許さぬぞ!」
伯爵はジャラッと音を立て、懐から小びんを取り出した。
中には黒い丸薬がいくつも詰め込まれており……いかにも怪しげだ。
「……グヒヒ、これが何か知っておるか?」
「知らないけど……もしかして街で流行っている薬の一種か?」
「そうよ……とはいえ、あれは濃度を十倍以上にうすめ、依存性だけを高めた劣化品じゃがな。名前を黒麻という……一粒飲めば、この通りよ!」
伯爵がそれを飲んだ瞬間……筋肉が膨張し血管が浮きあがった、鬼のようなおそろしい姿に変わってゆく。
目が血走り、口の間から蒸気のような吐息が漏れている。
体力回復の効果まであるのか、あたえた傷もどんどんふさがりだした。
「グファ……ハハ……熱いぞォォ……だがい~い気分じゃ! 興奮してきよったわ……! 小僧、楽には死なせぬ。この猛りが収まるまで存分に付きあってもらおう……グフオオォォォォォ――!」
伯爵は獣のような咆哮を吐き出し、さけた衣服をビリビリと引きちぎる。
自分で破るのはいいのか……とことん自分勝手な奴ッ!
しかもあらわれた衣装は太った体をぴっちりと覆い、黒い光沢を光らせた妙な素材で出来ていて……こう言ってはなんだけど、どうも気持ちが悪い。
「さあ、狩りも貴族の嗜みよ……小鹿のように逃げ回ってくれるが良いぞ! ゲフフッ……グフフェアハ――ッ!」
そしてその言葉を皮切りに、伯爵はその手に持つ戦鎚を思いきり振りまわしながら……瓦礫を弾きとばしてこちらへと突進してきた――!
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