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コーンヒル城潜入

「あれが、コーンヒル伯爵の居城よ……」

「ええ……」


 僕達は、陽が(しず)む前に伯爵の住む小城付近までたどりつき、小高い丘からそれをにらんでいた……。屋敷のやぐらには火が(とも)っており、かなりの数の兵士が見張りについていそうだ。


 さすがにあんなものをいちいち相手にしていられない。

 さてどうしようか。


 用心深い男であれば探知用の魔法スキルが使えるものを常駐(じょうちゅう)させているかも知れない……。下手に突っこむとすぐに見つかってしまいそうだ。


「地下からの侵入(しんにゅう)も気づかれるかもしれませんね。正攻法で行くのですか?」

「……一つ試してみたいことがあるんだ」


 メリュエルの言葉にそう答えた僕は、リデルさんの方に視線を移した。


「リデルさん、協力してもらえませんか」

「へ、私?」

「確か、土魔法は攻撃性能はひくいけど、相手の行動阻害(こうどうそがい)や状態異常にさせる魔法が得意だって言ってたので……僕が魔力を受けわたせば、それをかなりの広範囲にひろげられると思うんです」


「なるほど……それなら、とっておきの魔法があるわ。《スリープ・パルーン》っていう催眠作用(さいみんさよう)のある花粉で相手のまわりを取りまく魔法よ……でも、私と合成魔法なんて、はじめてだけど大丈夫?」

「多分やれるはずです……何度か試してますから」


 リデルさんも戦いに向かないと自分で話してはいたが、魔法士としての腕は中々だ。僕はしっかりとうなずく。


「万が一のことがあっても、絶対なんとかします。だから遠慮(えんりょ)なく全力を出して下さい!」

「わかったわ……。でもフィルシュ君、しばらく見ない間にすごく頼りになるようになったわね。あのころとは別人みたい」


「それは……色々あったんです。大切な人との出会いとか……。それがこれまでやって来たことが無駄じゃなかったんだって、僕に自信をくれたから」

「そう……君は昔から、頑張り屋さんだったもんね。私の方が年上だけど……今の君になら安心して任せられるわ、エスコートしてくれる?」

「……はいっ!」


 リデルさんは少し恥ずかしそうに顔をうつむけながらその手を差しだし、僕はそれをにぎると……二人でゆっくりと魔力を同調し始める。


 やわらかく暖かい魔力の流れが僕の中を循環(じゅんかん)し、また彼女の元へと帰ってゆく。


 そして、丁度息のあったタイミングで僕らは、城の方角へ同時に手を突きだしてその魔法を詠唱した。


「合成魔法……《穏やかな大地の(トランキル・アース)調べ(チューン)》!」


 金色の魔力がそよ風に乗って流れてゆき、小城を取り巻いてゆく。


 夕暮れの明かりに照らされて輝くそれは幻想的で……兵士たちが次々と、体を脱力させ、幸せな眠りに(いざな)われていった。


 絶大な効き目に僕らは小さく手を叩きあう。


「すごい……さすが副マスターですね、リデルさん」

「えへへ、お互いにね……と言っても私は元なんだけど」


 ()めると彼女はうれしそうに笑みを浮かべる。


 野の花のような、人を安心させてくれるような可愛らしい笑顔だったけど……彼女は今からすることを考えたのか、すぐに緊張の表情にそれを直した。


「さあ、今晩中はそうそう起きないと思うけど、急ぎましょ? 色々探さないといけないものがあるんでしょう?」

「そうですね……優先は仲間の身柄ですけど、出来れば伯爵の不正の証拠(しょうこ)もつかんでおきたい。リゼ、メリュエル、頼むね」


「はい! 何かあれば私がお二人を守ります」

「証拠探しなら私も役に立てるでしょう。教会での審問(しんもん)にも(たずさ)わっていましたから、何が必要かくらいは判断できます」


 やるべきことを確認してうなずきあった後、僕らは眼下に見える城へと一気に丘を駆けおりていった。



 人の寝息が聞こえるほど静かになった城の中に、僕らは気配をひそめ潜入(せんにゅう)する。


 あまりくわしくない僕にでも、調度品が高価な物なのがわかるくらいに城内は豪華(ごうか)な内装だった。


「全く……この(つぼ)一つでどれだけの人数の食事が(まかな)えることやら」


 渋面(じゅうめん)のメリュエルがつぶやく。

 民衆から無理にしぼり取っているというのは間違いないんだろうな……。


 僕は《リファレンス・エリア》で内部の魔力の反応が移動していないか確かめる……すると、こちらに向かって来るものと、移動しているものがある。


 正体の一方はすぐに知れた。


「……(ねずみ)共がこそこそと……ここがどなたの居城か知っての狼藉(ろうぜき)か?」


 ――スゥッ。


 影から浮かぶように暗がりから身を飛び出させた男の攻撃を僕は受け止め、距離を取る。


「……ビガーニ・オーマイ! フィルシュ君、そいつが伯爵の手下で一番やっかいな男よ!」

「おや、リデルさん、生きていらっしゃったのですか……。ふん、使えん手下を持つとこれだから困る」


 男の後ろから二人、魔法士らしき人間が姿を現した。何らかのスキルを使って眠りの中和や妨害(ぼうがい)をしたんだ……時間がかかるけど、こいつらは仕留(しと)めるしかない――。


 支援魔法、《急加速アクセラレイト》と《黄風の狩衣(ライム・クロス)》を全員に展開し、かまえを取った僕だったが……その背中を押したのはリゼとリデルさんだった。


「やぁっ!」

「む……」


 両手に爪を装備したリゼがビガーニに(おそ)いかかり……。


「フィル! ここは私達に任せて! 私達も守られてばかりじゃありません!」

「《ストーンスパイク》!」


 ――ゴゴン!


「私も! 元はと言えば私達が自分の街を守り切れなかったからこんなことになったのに……なんの関係のないあなた達にばかり危ないことをさせるわけにはいかない!」


 動きを見せようとした二人の魔法士はリデルさんの魔法で生成した石のトゲが牽制(けんせい)する。


 僕は逡巡(しゅんじゅん)したが、二人の様子を見るに意志は固い。

 なら、せめて……。


「メリュエル、行こう! 二人ともまかせた!」

「「はい!」」


 ついでだ……僕は後ろにいた魔法士のうち一人に肉薄(にくはく)して至近距離から《ウィンドバレット》を叩きこみ、思いきり吹きとばして昏倒(こんとう)させると、そのいきおいのままメリュエルと共に疾走(しっそう)して(わき)をすりぬける。


「追わせませんッ!」

「……チッ。まぁいい……すぐにこいつらを血祭りにして貴様の背中を(つらぬ)いてやる――」


 不気味な執事の行動はリゼが勇敢に飛びこんで(さまた)げ、僕のうしろではすぐに激しい戦闘が始まりだした――。

・面白い!

・続きが読みたい!

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