横柄な冒険者達
「往来をふらふら歩いてんじゃねぇ……クソガキが!」
「何なんですか、あなた達……」
流石にこれは言いがかりが過ぎる……。
取り巻きの後ろの男達がよほどあわてているのか、「早く行きやしょうぜ!!」と急かす中、僕と奴は顔をゆがめながらにらみ合う。
「ガキィ……普段ならシメてやってるとこだが、今はお前に構ってる暇はねぇ。おおっ……?」
「フィルシュっ、大丈夫ですか!?」
男の視線が駆け寄って来たリゼリィの顔で止まり、ひどく嫌悪感のさせる笑みが浮かぶ。
「へひひ……中々いい女連れてんじゃねぇかよぉ……見ろよお前ら」
「へぇ、かなりの美人でやすねぇ……まだガキですが」
「狐人の獣人か……売りとばしゃ言い値が付きそうだぁ。ぐふふ、変態の好事家が高い値出して買ってくれそうですなぁ」
粘つく下卑た笑いがリゼリィを取り囲み、茶髪が彼女の体をなめまわすように見て、汚い手を伸ばす。
「女ァ……そのガキが俺に手間を掛けさせた報いだ。お前は俺が貰ってやるよ……何、せいぜい可愛がってむしゃぶりつくしてやる。おらっ、こっちに来やがれ!」
「い、いやっ……」
彼女がおぞましさに体を引くその寸前、僕は自然と唱えていた。
「《スピードアップ》……」
速度が強化された僕の体がぶれたように動き、リゼリィの体を抱き寄せて後ろに移動させる。
「フィルシュ……」
「下がってて」
断定的な僕の言葉に彼女は体をびくりとすくませた。
久々にこういう類のクソヤロウに会った……《黒の大鷲》にいたころはゼロンを怯えて手を出して来る奴はいなかったからね。
目の前の口を開けた茶髪が大声で笑いだす。
「ギャハハッ……もしかしておれに歯向かうつもりかよクソガキ! 俺はこの街の副ギルドマスターのA級冒険者、ルビウス・オルドンだぜ……? 《鞭打ち》ルビウスとは俺の事だぁ! テメェは見た所《風魔法》使いじゃねぇかよ……最弱魔法使い風情が武器スキル持ちの俺にかなうと思ってんじゃねぇぞ!」
確かに、武器操作系スキルは軒並み、極めれば強力な攻撃手段として、他スキルの追随を許さないくらいになり、身体能力もそれに応じて補正される。一方、魔法スキルは応用性が高い分、そこまでの攻撃力は無いんだ。例外はあるけど。
こいつの言っている事は正しい……。そして僕にそこまで自信がある訳じゃない。けれど、それでも今の行為は捨て置くことは出来ない……彼女はダロンさんやメイアさん、村の皆から預かった……僕の大切な人なんだ!
そんな人を奴隷扱いするような奴に、この子を触れさせるもんか!
「……それ以上僕らに構うようなら、容赦しない」
「気に入らねぇな……雑魚が粋がってるとどうなるか、骨身に沁みるよう、ゆっくり調教してやる……と思ったが!」
男が腕を振りかざし飛び出すのは、銀色の筋。それが一直線に僕の顔面に迫る。
「時間がねえんでなぁ……ド頭貫いてやるァ! 脳味噌まき散らせァァァッ!」
下品な高笑いを上げる彼の鞭は確かに貫いた……僕の影を。
「あぉん……!?」
「《ウィンドブレード》……」
スパパパパパ――!
次の瞬間、みじんに斬られた銀の鞭がぽろぽろと手元の柄を残して、地面に転がった。
そして僕はすでに彼の姿を目の前にとらえ、殴れば当たる程の距離で下からにらみつける。
「遅いんだよ……!」
「ばっ、なっ……ああっ!? テメェ、何しやがった!? こ、この鞭はぁっ、ミスリルを編んだ特注の品でっ……ドラゴンの皮膚すらやすやす貫く代物……そんな物をどうやってっ! 何をしやがったぁ――!」
「騒ぐなよ、見ての通り切っただけだ」
前と同じだ……以前とは比べ物にならない位、魔力が充実してる。
僕自身も自分の攻撃魔法の威力がこんなに高まっていたなんて知らなかった。
思えば《風魔法》スキル使いはその戦闘での弱さの為冒険者になる人間はとことん少なく、知っている限りでは僕以外では最高Bランクの人間がせいぜいだった。
強くなった理由は分からないけれど、雑用とはいえSランクにまで登り詰めたことで、僕の中で何かが変わったのか……もしくは、あのユニークスキル《循環》が作用している?
僕は途中でそんな思考を放棄する……今は、リゼリィを守らないと。
「もうどこかに行ってくれないか。あんた達の顔は不快なんだ」
「……テ、テメェ……言いたい放題言いやがって、雑魚スキルごときが……。信じられねぇ屈辱だッ……プッツン来たぜ! 今すぐ、死ねぇァ――!!」
せっかく逃げるチャンスを与えたのに……プライドを刺激されたのか、彼は大振りの拳を僕に叩きつけて来る。
(A級ってこんなもんだったのか?)
《スピードアップ》で行動速度を上昇させた今の僕には子供よりも遅く見え、余裕をもってそれを逸らすと、僕は詠唱する。
「街から逃げたいなら、お望み通り遠くへ飛ばしてやるよ……! 《ガスト》!」
「グォアアアァァァ! テンメェ、ふざけやがってぇぇぇ、ルビウス様だぞ! この街一番の色男と呼ばれたこの副・ギルドマスタールビウス様にーっ!! こんな仕打ちを……こんな、こんなァァ、ァァァァァアアアア――!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」」
猛烈な突風が吹き、見えない風圧が彼のみならず、後ろの男達と荷物を含めて全て視界外へと綺麗に吹き飛ばしていった。
結構飛んだけど冒険者だし、なんとかなるだろ。
あぁ、スッキリした。
「か、風魔法って……。いえ……きっとフィルシュがすごいんですね」
リゼリィがぱちぱち瞬きしてほめるので、僕は頭をかいた。
「いや、たまたま所属してたパーティーがすごかっただけで僕自身は大したこと無いよ。さあ、行こうか。わぁっ!」
リゼリィが僕の腕に抱き着いて尻尾をブンブン揺らし、顔を首筋にこすりつける。
「嬉しかったです、あんな風にかばってくれて……私のだんな様――」
「ちちょっと、近いってば。歩きにくいし、もうちょっと離れて!」
途中で声をかぶせてしまい最後は聞こえなかった。
ちょっと残念そうな彼女を連れ、僕は街中へと歩き出す。
こっちも嬉しいけど……あそこまで近いと流石に落ち着かないんだからしょうがない……!
しかし、妙だ。
街の様子が少し静かすぎる……外壁も所々焦げとか、戦闘の痕跡らしきものが拡がっていて、何かあったことを思わせる。
「これは……さっきの冒険者といい……何があったんでしょう?」
「聞いて見ようか……あの、すみません」
道端に立っていた初老の男性に声をかけてみるが、反応はよろしくない。
彼は舌打ちすると吐き捨てるように言う。
「……てめぇら、冒険者か。どこから来たかは知らねえが、街も守れねえ役立たずとは話す気にならねえよ」
「そ、そんな……何が起きたかだけでも」
そのおじさんは、僕達を無視してすぐにどこかへ行ってしまう。民家の開いていた窓もこれみよがしにバタバタと閉じられた。
「一体どうしたんでしょうか……」
「さあ、とにかく冒険者ギルドへ行ってみよう」
こちらを遠巻きにする嫌悪の視線にさらされながら、僕らは街の中程にある一軒の建物に足を向けた。
その建物はさびれていて、外壁に落書きの跡も目立つ散々な有様だった……。
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