◇冷たい牢の中で(ポポ視点)
……不覚をとっちまった。あたしら、うっかりしてるからなぁ……ギルマスが無事だと良いんだけど……。
薄暗い牢屋の中で、あたしは手首にはめられた、スキル封じの腕輪を見てうつむいていた。
「あっち、いい加減お腹空いたですぅ……」
「あたしもだけどさ……言うなよ。余計腹減るじゃん」
ぐぅぅとお腹を鳴らすのは、隣で寝転ぶ青い髪の妹、レポだ。
牢屋に入れられて二日目、水しか与えられていないのは体力を減らして余計な抵抗をできないようにする為だろうか。
さすがに頑丈なドワーフのあたしでも、空腹だけはきついや……。
この部屋に作られた牢獄には、さまざまな種類の亜人達がとらわれている。
そして牢の数が足りてないのか、あたし達は一人の子供と一緒の場所に突っ込まれた。
それが隣で座ってあたしを見上げているこの女の子だ。
どう見てもやせこけた普通の少女にしか見えないが、彼女にはある特徴があった。
「……?」
彼女の瞳が前髪の隙間からのぞいている。
それは髪と同じように黒い普通の目だ……右側は。
「何でもないよ……」
あたしは彼女をなでてやろうとして、腕の鎖があるのに気付き、仕方なく微笑む。
少女の体から匂いがしないのは、伯爵が不潔なのを嫌う為、入浴を義務付けられているからだろうな。
部屋にも香が炊かれているけど、こちらはどちらかというと、奴隷たちの気力を奪う為のもののような気がする……。
(匂いじゃ腹はふくれないからなぁ……)
あたしも仕方なくごろりと転がる。
こんな時に浮かんで来るのが食事のことばっかなんて、あたしも図太いなぁ、ホント。
「は~あ、ごめんな、フィル……」
次に浮かんだのは、あの優しい青年のこと。
ギルマス共々捕らえられ、きっとクロウィのギルドでは今頃大きな騒ぎになっていることだろう。迷惑ばっかりかけちゃってるなぁ……大失敗だよ。
あ~もう……何やってんだろ。フィルが、無理をして自分達を助けようとするのが容易に想像できて、あたしはなおさら頭を掻きむしりたくなった。
「フィルってだぁれ?」
少女がぼそりと聞いて来たので、あたしはどう答えるか迷う。
「ん~とな……フィルは、とってもいいヤツでな。優しくて……あたし達のことをいっつも助けてくれる、勇者様みたいな奴なんだ」
すると少女はひどく羨ましそうな顔をしてそわそわしだした。
「……いいな。わたしのことも、たすけてくれたりしないかな」
あたしはその言葉に顔を曇らせた……この子の気持ちを考えないでそんなことを言ってしまったのを後悔する。
両親が健在にもかかわらず彼女は、容姿のせいで疎まれ、数か月前、ここに売られて来たのだそうだ。
彼女が一つのことを除いて、ここでの生活に満足しているというのがなおさら悲しい。
「ごはんはときどきもらえるし、おふろもいれてもらえるけど、はくしゃくさまはきらい……」
「ごめんな……」
「どうしておねえちゃんがあやまる?」
あたしが言葉に詰まったのを見かねてか……レポが口を出す。
「ばっかなこと話してないでとっとと寝るですよぅ。フィルが来たら、あっちらもあんたも助けてくれるに決まってますぅ。そんであの気持ち悪いデブ伯爵をぼっこぼこにして、皆で笑って帰るに決まってるですぅ」
「ほんと? ……すごい、どきどきしてきた」
少女が目を輝かせたがしかし、どこかから男の声がそれを遮った。
「おい、余計な期待持たせてやるんじゃない、可哀想だろう。どうせ俺達はこのまま飼い殺しにされるか、どこかに売り飛ばされて一生自由にはならない。夢を見せるなよ……辛いだけだ」
少女をたちまちしゅんとさせたそんな言葉に、しかしレポは嘲笑うように言った。
「ふんっ……だったら賭けてやったっていいですよ。あっちの命で体でも何でも。フィルは助けにやって来ますから……期待とかじゃなく、絶対。だからあんた達も、そのシケた面上げてこれから日の下に出て何をやりたいかせいぜい考えて置いた方がいいですよぅ?」
「フン、誰が信じるか……どうせ何もできやしない」
言い切る妹に男はそれで黙り込む。
弱っている相手に対し遠慮の無い言葉を、妹は言ってやったという風に笑っている……実は結構性格が悪いんだ、この子は。
でもあたしもフィルは絶対、あたし達を見捨てないって思う……そういう奴だから、あたし達はあいつが大好きなんだ。
「……ここから出られるの!?」
「ああ、きっとな。楽しみにしてていい」
少女の言葉にあたしもうなずく。
……なんてったって、あたし達の副ギルマスだからな。
きっとリゼ達も一緒に、クラウゼンのおっちゃんも助け出して、今頃あたしたちを探してくれているはず……だからなにも、怖がることなんてないんだ。
また、借りが出来ちゃうな……なにか返したいな。フィルに、喜んで欲しい。
そうだ……また今度、ドワーフの国に招待しよう。
こっちでは珍しいものも多いから、きっと楽しんでくれるはず……ふふ、そうしよう。
(はやくまた、あいつの横で眠りたいな……)
フィルの優しい顔を思い浮かべると安心して眠くなって来たので、あたしは女の子と身を寄せ合って横になる。そうすると、床の冷たさはあまり気にならなかった。
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