◆悪徳伯爵の野望(コーンヒル伯爵)
刻限は夜……。
今、わしは窓際で星を見上げ、一人優雅にワイングラスを傾けておるところじゃ……ウクク。
つい含み笑いが漏れてしまう……いかんなァ、まだ計画は第一段階を終了した所じゃというのに。
「グェフフ……うまくいきおったわ。これでレキドの街はわしの物。そして……」
壁にかけられた地図にえがかれた、自身の支配領域を満足しつつながめる。
長年の計画がみのり、レキドの街周辺一帯がついに、わしの意のままとなったのだ……。
そして次はその隣にあるクロウィの街……。
朱いバツ印を付けたこの街にも、わしは金で雇った冒険者を潜り込ませ、レキドの街のように薬物や暴力を使ってコントロールするつもりでおる。
クク、効果は絶大じゃ……薬と恐怖には人は逆らえんからのォ。
「残念なことに《黒の大鷲》のあの赤い髪の小僧は死んでしまったが、さして計画に差しさわりはない。じわじわとフェルマーの領土をこそげ取ってやるわい」
――ビリィ!
わしは破り取ったその地図を近くのランプの火で燃やし、唇をなめる。
じゃが、やはりやっかいなのは、今現在クロウィの街の周辺を治めている、あのフェルマー伯爵めよ……。
他の貴族共はたやすく陥れることが出来たが、奴は抜け目なく領土内に密偵を忍ばせ、目を光らせておる。そしてなにやら善政をしいて民から慕われておるのがまた気に喰わぬ……。
わしの目的はやつからあの街をうばいとり、それを足がかりに支配下の領域を増やしていくことにあるが……容易なことではない。
じゃが、今回の件で緩衝地帯となっていたレキドを完全掌握したことで、話は変わった。
中央政府に多く献金をして官僚を味方に付け、こちらの手の者で火種を起こしかき回してやれば……責任問題に発展させ、街ごと奪い取ることも不可能ではないかも知れぬなぁ……。
今、賑わうクロウィに集まっている人間達の中にはわしらの手のものも混じっておる。
そ奴らを中心に街を乗っ取り、奴の支持層を弱体化させて孤立させれば、場合によっては直接命をいただくことも可能かもしれぬ……グフフ。
世の中金が有ればなんでもなれる……資金を蓄えのし上がれば、爵位のみならずいずれわし自身が独立した国家を作り、王と……王となることすら可能かもしれぬ。コーンヒル王……良い響きじゃ、グファハァ――ッハハハ!!!!。
そのためにはせいぜい凡俗な平民共から、財を吸い上げて吸い上げて吸い上げまくらねば……。おっとぉ、いかんいかん、生かさず殺さずが鉄則じゃからな……ククク、うまくやらねば。
コッコッ……。
「……入るが良い」
わしが、笑いが止むのを見計らったようなノックの音にこたえると、入室して来たのは一人の陰気な男。
ビガーニ・オーマイ……侍従頭であるこやつには今回冒険者ギルドの制圧と、クロウィの街のギルドマスターの捕縛を命じた……奴らが油断しておったとはいえ、見事にうまくやりおったわ。
「失礼いたします、ご報告にまいりました。無事ハンセルをギルドマスター、私を副ギルドマスターとしてレキドの街の冒険者ギルドの掌握に成功。次いで邪魔者と思われるクロウィの街のギルドの副ギルドマスター及び、レキドの街前任の副ギルドマスターを始末するよう手配いたしております。結果の御報告は今しばらくお待ちくださいませ」
「よいぞ……此度のことが終われば、中央官僚に働きかけ貴様にも貴族の席を用意してやる。やがては……いずこかの街をそなたに任せることになるじゃろう」
「ありがたき幸せ」
地面にひざを着き頭を垂れる男を見下ろし、わしは満足した笑みを漏らす。
こやつは《暗殺》スキルを持つ超一流のアサシン。
これまでも多くの邪魔者を排除して来たおそるべきつわものよ。
こ奴が出るまでもないじゃろうが、その席に着いたばかりの若い副マスターごとき、何かあれば一蹴してみせるじゃろう。
わしが手配した奴隷狩り共からダークエルフをうばったのも奴らだと聞いておる。
まったく……『コレクション』に加えるもよし、売りさばくもよしと楽しみにしておったというのに……あの時は怒りで思わず鼻血が噴き出した程じゃった……。
今思い出しても腹が煮えそうじゃ……わしの持ち物を奪う奴は何人たりとも許せぬゥゥゥゥ!
わしは手に持っていたワイングラスを床に叩き付け、破片を奴だと思い込むことでかろうじて怒気を発散させる。
フゥ、フゥ……その場で始末せず捕まえ、いたぶることも考えたが……後々の計画の障害となっては面倒じゃからな。確実に消しておくのが正解……だからこの男に任せたのじゃ。
「……グフフ、もう行って良いぞ、わしも色々と楽しみたいのでな……それとも、おまえもどうじゃ、たまには……」
「……いえ、お楽しみの邪魔になってはいけませんので。失礼いたします」
かしずいていたビガーニは音もなくそこを去る。
よく弁えておる……あれで中々上手いので少し残念ではあるが、やはり、楽しむのは一人が一番じゃからのぅ。
わしは壁に掛けていた鞭を取り、感触を確かめると……ある場所へと歩いてゆく。
あまり大っぴらにするわけにはいかぬから、この場所のことはビガーニを始め数人の重臣にしか伝えておらん。
さて、今日はどやつを躾けてやろうか……ハフゥゥゥ。
音一つ通さぬよう作られた重厚な扉の前で、わしは手の中の鞭をぴしゃりと叩き付けて気分を高ぶらせ、体を震わせた。
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