(回想)狙われたリデル
――黒づくめの男達が、短い得物を手にこちらに走りこんでくるッ!
ターゲットは、リデルさん……と僕か!? なんで僕なんかが……!?
統制の取れた動きで、殺意があるのは目にみえて明らかだ。
だがその時にはもう僕の詠唱は完了している。
「《急加速》!」
僕の支援をうけたヨルとリゼが男達の刃物を弾きとばし、鳩尾に打撃を入れる。
そして僕も《ガスト》で一人を壁に叩きつけ、悶絶させた。
「この人達が……例の刺客なんですか?」
かばうように立っていたリゼの言葉に、リデルさんはうなずく。
男達が持っていた刃物は黒ずんでいる……おそらく毒が塗ってある。
「ええ、多分……コーンヒル伯爵の側近のビガーニとかいう男が送ってきたんだと思う。ごめんなさい……気づかれていないと思った私の落ち度だわ。そ、それにしてもあなた達、すごいのね。ちっとも動きが見えなかったわ……」
「主様の魔法が強力なだけだ……さて、こ奴らをどうしましょう? 拷問して自白させましょうか?」
ヨルが白目の男を蹴ってころがし、容赦のないことをいうが、僕は首をふった。
彼女達にそんなことをさせるわけにはいかないし、そも訓練された暗殺者なら簡単に口を割らないだろう。
「多分難しいんじゃないかな……とりあえず拘束して牢にでも入れておこう。それから町長さんに相談して、こちらがわ一帯をまとめる領主に相談させてもらう……冒険者や街のみんなには悪いけど、少しの間ギルドは閉めることにする」
「……仕方ないでしょうね。彼らが報告を持ちかえらなければ、次の者がよこされるでしょう。守るにも限界がありますし……」
「すぐに動こう……悪いけど少し手伝ってもらうよ。皆、リデルさん」
「はい!」「ええ……!」
それぞれが力強く同意し、僕らは取りあえずこの無粋な侵入者たちを縛りつけ、移動させていく。
しかし明確に殺意をむけてきた所をみると、リデルさんの言うように僕もターゲットにされているのは間違いないらしい……胃が痛いや……。
◆
急遽ギルドを閉鎖した僕達は、二手に別れることにした。
なかば僕らの拠点と化したダークエルフの屋敷には、襲撃のおそれがあるため、ヨルとアサに残ってもらい……僕、リゼ、メリュエルはリデルさんを連れ、町長から紹介していただいたフェルマー伯爵という人物のもとにむかう。
居城はクロウィの街よりさほど離れてはおらず、町長が同行して話を取りつけてくれたため、比較的スムーズに会うことが出来た。
……今目の前に立っているおだやかそうな壮年の人物が、そのフェルマー伯爵。
じつは街の有力者会議ので副ギルドマスター就任が決まったさい、ご挨拶だけはしたことがある。
急な用件だというのにいやな顔一つせず、彼は人払いまでして僕達の話を聞いてくれた……。
「……ふむ。話は分かった。そなたたちの話は傾聴に値する。我が領土に危険がおよぼうというのだからな」
彼の落ち着いた言葉に答えたのはリデルさんだ。
「は、はい。レキドの街は年々荒廃し、犯罪率も増加しています。今の領主はひた隠しにしていますが……多くの民が困窮のさなかにあるのです」
「私の耳にも少なからずコーンヒル伯爵の黒い噂は届いている……各街に配下を送っているのでな。だが、残念ながら、彼の領内に私から手を出すことはできない。万一、内乱の種にでもなろうものなら……今以上に多くの民が、苦しむことになるのだ」
やはり積極的な協力は望めないか……彼の言葉に僕達は肩をおとした。
だが伯爵はそこに一つ付けくわえる。
「……もしの話だが、追及するに足る不正の確かな証拠があれば、動く口実にはなる。国に提出すれば、裁判の申し立てを行うことも可能となるし……交渉などで、ある程度奴の動きを封じることもできよう……。例えば禁止薬物や、特定種族の奴隷の非道なあつかいなど……な」
特定種族――亜人などで、人間と友好的なものや……数の少ない珍しい種族などが確か、それに当たったと思うけど……。
「あの……ダークエルフの方々は、それには入らないのですか? 彼らの証言があれば……」
リゼがおずおずと口を出す。
伯爵はそれに気を悪くした様子なく続ける。
「奴隷の購入自体は、労働力として適切にあつかう意思があれば、現在は法に触れることでは無いのだ。自力で生活できずに望んで身を寄せているものもいるからな。そして当事者の証言に法的根拠は薄い。もし彼がダークエルフを手元に置いていたとしても、その件だけでは罪に問うことは出来なかっただろう」
つまり、彼らを日常的に虐待したりしている証拠が必要だとこの人は言っている。
「……私達にそんな証拠をを探せだなんて――」
「リゼ……今は」
リゼは厳しい声を出したが途中で僕はそれをおさえた。
陰で非道な扱いをされる亜人も少なくないと聞くし、今の話で彼女が気分を害するのも無理はないが、それは少し置いておいてほしい。
「今は皆を助けることに集中しよう。わかりました……もしなにか証拠を見つけられれば、ご報告させていただきますので、僕らと仲間の身の安全を保障していただけますか?」
「ああ、誓おう。今は口約束しかできないが……」
「はい、そのお言葉だけで十分です。では一刻も早く仲間の元へ向かう為、退出をお許しいただけますでしょうか?」
「……フィルシュ殿よ、私も君に、将来この街を背負って立つようになって欲しいと願う人間の一人だと忘れないで欲しい……恐らく少人数で動くつもりだろうとは思うが、人手が必要ならば遠慮せず言ってくれたまえ」
「ありがとうございます! であるなら……町長にお借りしている屋敷にいくらか人を送るよう手配してもらえると助かります」
「あい分かった。すぐに手配しよう。それでは健闘を祈る」
「失礼いたします」
丁重に礼をして僕達はその場を後にする。
「これで屋敷の方は心配しなくてもいいと思う……ヨルとアサの二人もいるしね。僕らは屋敷に戻って準備したら、レキドの街に向かおう。リデルさんはどうしますか?」
「……こちらにとどまりたいのはやまやまだけど、私も一緒に行くわ。むこうをよく知ってる私がいた方が有利でしょう? 少し、責任を感じてるから……」
「なら、案内をお願いします」
今一番ねらわれやすいターゲットは僕とリデルさんだろうから、僕としてもその方が守りやすくて助かる。
神聖魔法の使い手であるメリュエルにも同行してもらうし、ヨルと鍛え合っているリゼも十分戦力になるはずだ。
なるべく素早くレキドを捜索して、三人を助けだそう……絶対に!
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