若手を育てよう②
「――生意気いって、すいやせんしたぁっ!!」
「いやいや……気にしないでよ」
ギルドの建物内に戻った僕達。
眼前で地面に額をこすりつけたトゲル少年と、頭を下げる女の子二人に僕は困った顔で頭をかく。
「本当に僕ら、年も近いんだし……なんなら普通に友達に話すようにしてくれていい位だよ」
「いやいやいや、そんなわけにはいかねっす……なっ二人とも」
「うん……でも本当すみません、私達なんかに時間を割いていただいて」
「ありがとうございま……」
メチャクチャ恐縮されてる……。
う~ん、何か思ったより過剰な信頼を勝ち得てしまったようで、こちらまで固くなってしまいそうだ……。
まあ、やりやすくなったと思うことにしよう。
「どうしようか、後の依頼はこのまま続けるかい?」
「も、もちろんっす、いろいろ勉強させていただきてえっす!」
「あたし達もこれからどんどん強くなって、この街に《穴熊一家》の名を轟かせたいので、ご指導お願いしますっ!」
「(……コクコク)」
「うん、それじゃ何か僕から教えられることがあったら言うから、君達だけでやってみようか」
「「「はい!!」」」
これからギルドを支えていってくれる、後進の育成はとても大事。
みんなやる気があるみたいなので、今日一日は彼らに付き合うことにしよう。
◆
まずはパライズリーフの採集からだ。
指定地に行く前に数度戦闘になったけれど、特に問題はなく、彼らの連携もスムーズだった。
Fランクから始まる冒険者の中で、あの年齢でCランクに達しているだけあって、トゲル少年は重たい両手剣を的確に使いこなしている。
ジェニーとエマも、遠距離から攻撃してくる敵の警戒や、うまくトゲルの隙をおぎなう攻撃で、堅実に戦っている。
後は経験だと思う。スキルを使いこみ、戦いを繰り返せば繰り返すほど、冒険者の基礎能力は高まってゆくから……。
だが、ただ一つ……彼らが経験していないかも知れないこと、それは……。
「――あっ、あれがパライズリーフですか?」
ジェニーが、まばらな草原にぽつぽつと輝く黄色い草を指さす。
「うん、そうだね。気を付けて」
「ジェニーは周囲を警戒してなんかあったら知らせろよ。エマ、俺達で集めるぞ」
「うん……これ、《ネルアスの守り手袋》」
「サンキュー」
おっ、ちゃんと用意してきてるな……感心感心。
《ネルアスの守り手袋》はネルアス神教会が販売している魔法の刻印がされた手袋で、装着部分の軽度の状態異常を防いでくれる。採取作業に最適なものんだ。
彼らは手際よくリーフを袋詰めしていく。
余分にもいくつか取っていくようで……調薬のスキルを持っている人もいるから、ギルド以外に買い手の伝手があるのかもしれないな。
「よっしゃ、こん位でいいだろ。副マス、何かアドバイスはないっすか?」
「ん~……アドバイスっていうほどのものではないけど、強いて言うならパライズリーフの近くには」
「……えっ!?」
「こいつらがでる」
――ドボッ。
僕らの周囲の地面がボコボコと盛りあがり、黄色い蟻の魔物が出現する。
《イエローアント・セントリー》……Dランク。
「地中にひそんで接近に気づかないことも多いから、見える部分だけじゃなく、他にも気をくばって……足元からの振動とか、五感で異常を察知できるように」
「わ、わかりました……やるわよ、二人とも」
「「おー!」」
牙で軽度の麻痺症状を与えてくる以外、大して特徴のない魔物だから彼らだけでも大丈夫なはずだ。
戦いを彼らに任せ、僕は高みの見物を決めこんだ。
……――――。
そんな感じで道中細々とした冒険のアドバイスを繰りかえしながら、僕達は本日最後の依頼へとやって来る。
《カイヘル洞窟》……僕も入ったことは無いが、この内部に出現するスパルトイという骸骨のモンスターから《青い腕骨》というドロップアイテムを入手してくるという依頼。
Cランクのモンスターなので、いくら運が悪くても十数体も狩れば出てくるだろう。
今回は僕は《リファレンスエリア》は使わない。
全て彼らに任せるつもりだ。
彼らもそれがわかっているので、緊張感あふれる面持ちで打ちあわせを繰りかえす。
「隊列はいつも通り、俺が前、エマを挟んでジェニー。後ろで何か物音が聞こえたら知らせろ……原因が判明するまではなるべく動くな。いいな?」
「慎重にいかないとね。全員の命がかかってるんだから」
「油断しな……ぃ」
うん……彼らは真剣に冒険と向きあっている……ならやはり、教えておかないといけない。
……そして、僕は彼らに意地の悪い提案をする。
「今回、全員一人ずつで潜ってみないか?」
「「「ええっ!?」」」
「もちろん、僕も帯同するよ。けど、この先絶対に必要な経験になって来ると思うんだ」
僕はしっかりと彼らを見つめる……彼らが僕の考えを汲みとってくれることを願って。
とはいえ、一人でも首を振るなら、強制することはできないけど。
そして、一番にトゲルがうなずく。
「……やろうぜ。この人が言ってるんだから、ぜってーなんか意味があるんだ。俺達もこれからもっと上に上がるなら、色々経験しとかねぇと」
「そう……ね。うん、やろう」
「私も、怖いけど、やらしてくださ……い」
全員がうなずき、そして順番を決め始める……。
◆
――そして数時間後。
全員がぐったりしながら、洞窟の外の地面に座り込んでいた。
「一人でダンジョン内を探索するのが、こんなに神経をすり減らすなんて……副マス、何も言ってくれないんだから……」
「俺、ダンジョンの中で何度も足が止まっちまった。副マスが着いててくれなかったら、発狂してたかも知んねぇ」
「……私、一匹も魔物を倒せなかっ……」
なんとかスパルトイを倒せたのは、トゲル少年だけで、その手にはちゃんと《青い腕骨》がにぎられている……さすがリーダー、肝が据わってる。
へとへとになった皆に僕は声をかけた。
「みんな、一人はきつかったでしょ?」
「そ、そりゃそうですよ……今時単独でダンジョンに潜る奴なんてほとんどいねえし。なんかあっても誰も助けてくれねえんだから……。あっ……?」
トゲルは気づいてくれたみたいだけど……他の二人は大丈夫かな。
納得した表情でうなずいているジェニーが、僕に答えをいう。
「もしかして……ダンジョン内で一人になることを、常に想定しておけってことですか?」
「何かの罠とか、万が一……その」
「そうだね、何らかの理由でパーティーメンバーが亡くなることが、あり得ないとも言い切れない」
言いにくそうなエマの言葉を僕は引きつぐ。
ダンジョン内では、必ずしも頼りになる仲間達がそばにいてくれるとは限らないんだ。
やむを得ない事情で、分断されるた時のことは、絶対に頭のすみに入れておかなきゃならない。
「もちろん、みんなで怪我もなく安全に帰ってこれるのが、一番いい。けれどもしパーティーの人数が減った時、一人になった時でも……生き残ることを諦めないで欲しい。君達は、自分がもし死んだとして、仲間達まで道連れにしたいなんて……思うわけないよね?」
彼らは顔を見合わせて首を振った。
僕だって……絶対に大切な仲間には生き残って欲しいと思う。
「だからこれからは、パーティーでの役割分担もいいけれど、一人になった時に心が折れてしまわないように、自分が出来ることを増やして行って欲しい。Cランクからはもう新米は卒業だ……危険な魔物やよりハードな依頼に挑戦することになってゆくんだから、仲間に甘え過ぎないで、常に自分ならどうやって切り抜けるかを模索していって欲しい。僕から送れる教訓は、これ位かな」
こんな頼りない僕なんかが言っても響かないかもと思ったけど、彼らは元気よく感謝の言葉を告げてくれた。
「「「ありがとうございました!!」」」
うん、こんな話を聞いても彼らはしっかりとした目で僕を見つめている……きっと彼ら自身叶えたい夢や目標なんかがしっかりあるんだ。
皆、僕なんかの言葉を真剣に聞き入ってくれていたから、何か得るものはあったと思うし、これが生きて彼らが仲間とおおくの冒険をくぐり抜けて成長してくれるって、僕は信じる。
「さて、それじゃ今日は帰ろうか……すっかり日も暮れたし。ギルドで報告が終わったら、みんなでご飯でも食べに行こうか。僕が奢らせてもらうよ」
「本当ッすか!!」
「副マス……こいつすごい食べるんですよ。お財布覚悟しておいた方がいいですよ~」
「そういうジェニーもいつも結構食べてる……」
「んなことないってば!!」
和気あいあいと笑いあうパーティーを見つめながら僕は祈る。
彼らが夢をつかむまで、大切な仲間を失うことのないように。
いつまでもこうして、たがえることなく同じ道を進んで行けるように。
「副マス! 俺達今日教えてもらったこと一生忘れないっすから! きっと俺らの名前を国に轟かせて、この街で、こんなすげー人に教えを受けたから、こうして有名になったんだってどっかでぜってー言ってやりますし……楽しみにしてて下さいよ!!」
「私達もね!」「……やってやりま……!」
そんな風に笑ってくれる彼らの姿を、僕もきっと、ずっと忘れない。
「頼もしいな……みんな、これからもよろしく!!」
「「「はいっ!」」」
こうしてすっかり仲良くなった僕達は街へ戻ると、冒険者らしく……酒場で遅くまで楽しい時間を過ごした……。
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