若手を育てよう①
「副マス、少しお願いがあるんですが……お時間あります?」
ギルド併設の酒場で昼食を食べていた僕達のもとに、一人の女性が顔を出した。
彼女はこのクロウィの冒険者ギルドの受付嬢をつとめている、シャーリーさんだ。
「何でしょう? 午後からは空いてますけど」
仕事が一段落ついた所なので、僕が安請けあいすると、僕より少し年上くらいの彼女は、細い目をにっこりさせて頼みごとをしてきた。
「副マスの実力をぜひ見たいっていう若手冒険者の子達がいてですね~。その子達を引き連れていくつかクエストをこなして来てくれませんか?」
あ~、そういうことか。
クロウィに今いる冒険者達は僕のことをあまりよく知らないし、しばらく王都に行っていて不在だったこともあって、副マスの座が適当かどうか疑問視する声もおおい。
いくら冒険者は、実力重視の仕事だといっても、そりゃあこんな僕みたいな若造がギルドのナンバーツーだというのをすなおに納得できる方がおかしいのだ。威厳とかなんにもないしね。
それでも、せっかく街の人達に認めてもらえたんだし、僕を推薦してくれた彼らの顔に泥を塗るようなことはしたくない。
「わかりました……任せて下さい」
「ふ~、良かったです引き受けていただけて。ちなみに、依頼内容はこんな感じになりますけど、大丈夫ですか? 副マスがいらっしゃるので多少面倒なのも入れさせていただいてますが」
ええと……なになに?
・【Dランク】各種手荷物の配達 10件 (報酬10銀貨)
・【Dランク】パライズリーフ採取 5束(報酬5銀貨)
・【Cランク】カイヘル洞窟にて、スパルトイから《青い腕骨》の入手(報酬2金貨)
なるほど……スパルトイはCランクでも上級のモンスターだ。経験が少ないと危ないかも知れない。まあ、何度も倒したことがあるので大丈夫だと思う。
僕がうなずくと、シャーリーさんはその冒険者達のもとへと案内した。
「彼らが、今回見ていただく冒険者達です。みなさん、自己紹介を……」
「んだよ、俺らとほとんど年変わんねーじゃんか」
「ちょっとやめてよ、仮にもこのギルドの副マスなんだから。礼儀礼儀、ほら挨拶」
真ん中にいる茶髪の少年が文句を言い、それを隣の黒髪の少女がたしなめた。
後ろにも一人、それに隠れるように魔法士っぽい服装の少女がいる。
「俺らは、《穴熊一家》ってパーティのもんだ。俺はリーダーの戦士トゲル・ローランド。そこにいるやかましい黒髪がジェニーで、うしろの臆病なのがエマ。よろしく」
ぶっきらぼうに手を出して来る少年だが……不思議といやな感じはしないな。
背が低くて何となく親しみを覚えてしまう。
「あんたね……もう少し目上に気を使いなさいよ。こっちがはらはらする……すいません、不躾で。心の広い方で良かったです」
「きょ、今日は……よ、よろしくお願いしま……」
「うん。みんな、よろしく」
軽くあいさつを交わした僕達。
全員僕より少し年が低い位で少し安心する。
シャーリーさんは忙しいのか、「わわっ、並んでる……後お願いしますぅ~」とあわただしく去ってゆき、僕はあらためてパーティー全員の情報を聞く。
戦士トゲルは《大剣技》スキルの持ち主で、前線に出て戦うのが得意なCランク。
弓使いのジェニーは《弓技》スキル使い。中距離支援が得意なDランク。
魔法士のエマは、《水魔法》使い。癒し、攻撃がバランス良くできる、Dランク。
《穴熊一家》というパーティー自体も、Dランクみたい。
「なかなかバランスの取れたいいパーティだね?」
「だろ? へへ……冒険は始める前が勝負だって聞いたから、けっこう頑張って交渉したんだぜ。おかげでこれまでほとんど危ないことは無かった」
「ほら、そんなこと言ってると足をすくわれるからね!」
「ふ、二人とも……! すいませ……」
エマという女の子は語尾が途切れるのがくせみたい。だが、パーティー仲もよさそうで見てるこちらも和んでしまう。
さて、一応これも仕事なのでだらだらしているわけにもいかないし、僕は彼らに方針を聞いてみる。
「基本今日は君達主導でやってもらう。いつも通りにやってみて。危ない所や改善点があれば注意するから」
「え~? 楽してんなよ……俺達はまだあんたを認めた訳じゃ、ムグッ」
「こらっ! すいません……でも、せっかくですし、若くして副マスに登り詰めたその実力を少しでも見せていただくことは出来ませんか?」
「(コクコク……!)」
ジェニーの言葉に激しくうなずくエマ。
……あまり気が進まないけど、もともとそういう話だったし、仕方ないか。
「それじゃ、配達業務を五件ずつに分けて勝負してみようか。僕も君達もこの街に来てそんなに日が経ってないはずだし、有利不利も無いはずだ」
「いーぜ、それじゃ俺が」
「いや、あたしがやるわ。この中で一番足は速いはずだし」
「ちぇ、まぁいいや……ぎゃふんと言わせてやれよ!」
「……がんば」
受付から配達分の荷物を受け取り、僕達は表に出る。
「公平性をはかるため、スキルはお互い無しでいこう。荷物の振り分けは君達に任せる」
「余裕じゃねぇーか。それじゃ、こうでこうで、こうだ」
トゲル少年の振り分けでは、明らかに僕の方が重い荷物が多い。
「ちょっとこれはさすがに……」
「いや、いいよ。これでいこう」
ジェニーの物言いを僕はさえぎった……これ位やっておけば文句は出ないだろうし。
なんかギルドの中からも冒険者が結構見物に来ている……いいアピールになるかも。
僕が大きい荷物を五つヒョイと抱え上げたのを見て、ジェニーの目が険しくなる。
「……本気でやりますから、負けても恨まないで下さいね」
「そうこなくっちゃ」
僕はトゲルに目配せして、開始の合図をうながす。
「そんじゃ、荷物を配達し終えて先にここまで戻って来た方が勝ちな!! いくぞ、そんじゃあ…………始めぇっ! ってうぉい!?」
「――ええっ!? はっや……くそっ!」
「……すごい」
呆気にとられた彼女達を残し僕は街中を駆け抜ける。
一応、雑用係みたいなあつかいだったとはいえ、僕も一応はSランク冒険者だ。
スキルを使い込んで身体能力補正はある程度ついているから、これ位は何でもない。
おっ、ちゃんと僕の方に距離の遠くて重さのある依頼を振り分ける辺り、トゲル少年はちゃんと考えている……いい傾向だ。
僕は頭の中で五枚の地図を重ね合わせて最短ルートを選定し、たどっていく。
こんなの、ダンジョンの正解ルートをさがすのに比べれば、どうってことない。
あっという間に五件の荷物を受け渡し、僕がギルドの前に戻ると、野次馬たちが大きくざわつき、トゲル少年が顎を外しそうな勢いでさけぶ。
「ハァ――ッ!? まだ三分も経ってねぇぞ!? どっかに捨てて来たんじゃねぇのか?」
「んなわけないでしょ。ほら、これ領収書」
「んな、アホなっ……確認して来る!」
僕が受け取りのサインが入った五枚の紙を見せると、彼はそこから走り出す。
あ~ぁ……そっちから行くと多分すごく時間がかかるのに。
――そして、それから二十分後。
「ハァ、ハァ……うっそ、でしょ。ありえないんだけど」
全速力で走ってきたジェニーが、汗一つかいていない僕をみて、よろよろとひざをついた。
「……トゲルは?」
「確認に行って、まだ帰ってこな……」
エマが、疲労したジェニーに水をあげて休ませていたが、トゲルはなかなか帰ってこない。
野次馬の冒険者達がざわざわと騒ぎだす。
「副マスすげー。ってか、ここから離れていく時点でもう速すぎてほとんど見えなかったぞ」
「多分あの茶髪君、しばらく帰ってこないわよ。戻りましょう……さすが副マスね」
「急に威厳がある様に見えて来たぜ……俺、今度からちゃんとあいさつしねえと……。シメられるかも……」
よかった、何となく評価してもらえたっぽい。
こういうことの繰り返しで、そのうちちゃんと認めてもらえるようになるはず。
――そして。
「すっ……びっ、ばぜんでじだぁ……配達舐めてましたぁ。がはっ……」
川の中でも通ったのか……?
なぜかどろどろでぼろぼろでぐちょぐちょになったトゲル少年がギルドにたどり着いたのは、それから二時間も経ってからのことだった……。
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