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少しの寂しさ

 シュミレとメリュエルを町長からお借りしている屋敷に移動させて、数日が立つ。


 僕はあれ以来、シュミレとメリュエルの部屋をたびたび訪(おとず)れている。気をきかせてくれたヨルを戸口で待たせ……ノックと声かけをして入ると、ちょうどメリュエルがシュミレに食事をさせているところだった。


「あ、ごめん……でなおそうか」

「いいえ……かまいませんよ。どうぞ」


 僕はメリュエルの勧(すす)めてくれた椅子にすわる。


「フィルシュ、こんにちは」

「うん……調子はどう?」

「こちらに来てから、少しずつ回復してはいます、まだ自由には動かせないようですけどね」


 シュミレはかろうじて挨拶だけを返すと前に出された麦粥を口に入れ……僕の質問には代わりにメリュエルが答えた。


 本当に、もう少し後にすべきだったな……。


 そんな僕の様子を見てメリュエルは微笑(ほほえ)み、スプーンと皿を押し付けてきた。


「……僕にやれって?」

「たまにはいいでしょう。私も少し街の教会へ用がありまして、お願いできませんか?」

「わかったよ」


 確かにこうやってながめているのも気まずいし、それなら手伝いをした方がまし……かも。


 メリュエルはほどなくして部屋を後にし、僕は彼女と席を入れ替わって麦粥(むぎがゆ)をスプーンですくう。


「ほら、口を開けて……」

「ごめんなさい……」

「気にしてないから」


 シュミレは赤い顔で目をつむると、小さく口を開ける。

 僕はそこへスプーンをすかさず放り込む……その繰りかえし。

 可愛いな……何となく、小鳥にエサをやっているような気分。

 

 ……それは何往復か続き、皿はすぐに空になる。


「お水を……もらっていい?」

「あ、そうだね、ごめん」


 あわてて僕はグラスの水をとり、彼女の口元に当ててかたむけた。


「あっ……!」


 美味しそうに飲んでくれたのはいいけど、水が口からこぼれて胸元を濡(ぬ)らしてしまう。

 

「ご、ごめん……ごめんね! どうしたら」


 混乱する僕をみてシュミレはくすくすと笑う。


「そんなにあわてなくてもいいのに。手が使えないから、そのタオルで拭(ふ)いてもらってもいい?」

「う……うん、わかったよ」


 自分でやったことだ、責任はとらなければ……。


 僕はタオルで口元から首の下にかけてをぬぐう。

 胸の間にかかってしまった分は、さすがにじかに触れることはためらわれたが……。


「少しだけ服の中に入ってしまったから、ボタンを外して拭(ふ)いてもらえる?」

「それはまずいよ、僕は男なんだし」

「別にかまわないわ……見られても。私の体、傷だらけだもの」


 彼女は悲しそうにほほえむ。


「どうしてこんなに怪我(けが)をしてるのか思いだせないけど……こんなのじゃ、女らしさなんて欠片も無いんだから。あ、でも……気持ち悪いよね、こんな体」

「……そんなことないよ」


 あのシュミレがこんなしおらしいことを言うなんて……見ていて痛々(いたいた)しい。

 

 僕は決心すると、ゆっくりと彼女のシャツのボタンを外し始める。

 本当はヨルに頼んだ方が良かったんだろうけど……それも逃げるようでなんだか、ためらわれた。


 大小いくつもの傷が走っている体に、タオルを押し当て水を吸わせる。

 下着や服はそんなにぬれていなくて良かった。


「んっ……くすぐったい」

「ごめん……」

「いいの、ちゃんと拭(ふ)いておいてもらわないで風邪でも引いたらまた迷惑をかけるから」


 やはり恥ずかしいのか……赤くした彼女の肌をあまり見ないように、僕は手早く拭(ふ)きとって元通り服を着させる。


 ふぅ……ようやく終わった。

 顔を上げるとシュミレは僕の方を見て、またくすっと笑った。


「ありがとう。フィルシュの顔も赤いね」

「そりゃ、そうなるよ」


 本当にただの娘さんみたいだ……あのキツかったシュミレはどこにいったんだろう?

 僕のそんな思いもしらず、彼女はおずおずとたずねる。


「あの、お願いがあるんだけど、いいかしら? いつもこの後、メリュエルに外に散歩に連れて行ってもらってるの。足も動かさないとなまるから」

「ああ、そうだね……運動した方がいいよね、わかった……」


 足に怪我がないのは幸(さいわ)いだ……外に出れないと気分も沈むだろうし。


 彼女はうまくベッドの上で体を向きを変えて立ち上がる。

 少し不安定に思えたので肩を貸してあげると、彼女はまた僕に小さく感謝をつげた。


「ありがとう……」

「このまま行こうか」


 いつも強気だった彼女は、もうどこにも見当たらない……。

 屋敷を出て空の下で彼女は太陽に目を細める。


「いい天気……お日様が気持ちいいね……」

「うん」


 そうやって彼女は解放されたように笑う。


 《黒の大鷲》にいた頃は、いつも何かに苛立(いらだ)ちを覚えているようなところがあったし……。このままなにもかも忘れられるなら、その方が……いいよな。


(ごめん、シュミレ……)


 そんな彼女の姿を見て僕は、僕の知る彼女のこれまでを無かったことにしようと……嘘をつくことを心の中で決めた……。

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。


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