ダークエルフに忠誠を誓われる
「なんとお礼を申し上げてよいやら……旅の御方!」
「いえいえ……たまたまそこに居あわせただけなんで。クロウィ冒険者ギルドの副マスターを務めている、フィルシュ・アルエアです、よろしく」
助け出したダークエルフの人達と、今僕らはギルドの空き部屋で話しあっている。
……あの後、僕達は男達の使っていた三台の馬車をそのまま奪い、彼らをそのままクロウィの街へと移送したんだ。
目を丸くしていたクラウゼンさんだけど……彼は快く受け入れてくれた。
今目の前には、二人の少女が地面に頭をこすりつけるようにして平伏している。どうやら、この二人が今残っている人たちの中で一番位が上みたいだ。
むかって左は、賊の首領をたおした少しきつめの顔立ちの短髪の少女。
動きやすそうな白い短衣を身につけている。
右は、落馬していた柔らかめの顔立ちの長髪の少女。
こちらがお姉さんらしく、ローブのようにながい……独特の装飾がほどこされた装束を着ている。
両方とも、白い髪に浅黒い肌、赤い瞳が特徴的なすごい美人さんだ……エルフ族が美男美女ぞろいっていうのはどうやら本当だったみたい。
「我はヨル」「アサと申します」
「そんなにかしこまられるとこっちも困りますから、立って下さい」
二人は重ねて床に頭をこすりつけるようにしたので、取りあえず立たせ、今後の意向をたずねる。
すると、左側のヨルという少女がつらそうに眉をしかめた。
「……我らは、集落を焼かれ、帰る所がない。せっかく拾っていただいた命なのですが、正直言ってとほうに暮れております」
そして、アサという少女が意を決したように、僕の手をつかんで涙ながらに訴えてくる。
「は、恥をしのんでお願い申し上げます! 生活のめどが立つまでこちらに置いていただけないでしょうか! ど、どんなことでもさせていただきますから……!」
その言葉にヨルが大きく目を開き、アサを跳ねのけるようにして割りこんだ。
「い、いや、犠牲になるのは我だけでいい。そ、そこのあなた……我をどうなさろうとかまいませんから、他の者の衣食住だけは保証してあげて欲しい! 後生だ!」
「い、いやいやいや、冗談はよして下さいよ……」
「複数の女子を連れている所から見ると、かなり好色な御仁と見た! 我も彼女達の末席に加えていただきたい! そのかわり、この者達の面倒をどうにか、お願いいたす!」
「誤解ですってば! 彼女達とは冒険者の仲間で、決してそういう関係では無いです!」
うう……こっち側の女性陣の視線が痛い……。
しかも否定したことでさらに痛くなったぞ、どうして?
とにかく、皆困ってるんだ……当面の生活だけでも保障して上げないと。
「クラウゼンさん、僕がある程度お金を払いますから……この人達を街に住まわせてあげられるよう、町長さん達に頼んでもらえませんか? お願いします!」
僕には王都で勲章授与を受けたさいにいただいた賞金や、《ラグラドール火山迷宮》で倒したS級モンスター達の魔石なんかもあるし……後々宮廷魔法士特別顧問としての給与が送られてくる。
身にあまるような金額だし、人の為になるならどんどん使っていこう……どうせ使い道もないんだから。
「ふむ……いいんじゃないですかね? 街の人達に危害を加えたりしなければ問題無いと思いますよ? 私から町長に話は通しておきましょう。他ならぬ街の救世主からの頼みだ、断られることもありますまい……みんなが暮らせるような住居も用意できるか相談しておきますよ」
「良かった……ありがとうございますっ!」
「何をおっしゃいます……実は勲章まで授与された有名な冒険者が在籍しているとのうわさを大々的にさせてもらっていて、今クロウィには多くの人々が押しかけているんです。町長も街が活性化して、ウハウハだとよろこんでいましたよ」
「ええっ!?」
あの町長さん……やり手なんだな。知らない間にどうも有名人にされてしまったらしい。まあそのおかげで今困っている人を助けられるんだから、悪くは取らないでおこう。
方針が決まったので、僕は彼らを安心させるよう、落ち着いた口調で話しかける。
「こほん、そういうわけなので、しばらくのあいだの寝食は心配しなくていいです。すこし落ち着いてご家族の弔いを済ませたら、しばらくこの街で頑張って暮らしてみて下さい。街での生活が肌に会わないかも知れませんけど、お金をためて故郷へ帰るというなら、それも手伝いますし……一緒に頑張りましょう」
「な、なんと寛大な御方だ……くうっっ!」
「ありがたい……この方のおかげで子孫を絶やさずにすむ!」
すると、ダークエルフ達からわっと歓声が上がる。
話がまとまったことで胸を撫で下ろす僕。
(あれ……?)
喜んでくれるかと思った、二人の少女の様子がおかしい……?
すると彼女達は感極まったように涙ぐみ、走り寄って抱きついてきた。
「かっ……かたじけないっ! 主様とお呼びしてよろしいか!?」
「ありがとうございます、主様!」
「わぁっ、ちょっ!」
二人が僕の手を片方ずつ握りしめ、胸にかき抱く。
弾力のある暖かい肌に手が沈み、僕の顔は一瞬で真っ赤にそまった。
「――お二人とも、そこまでにして下さい! フィルが困っています!」
それを一喝したのはリゼだ。
彼女は僕を彼女達から強引に引きはがし、二人を軽くにらむ。
「む、あなたは?」
「彼の婚約者の、リゼリィ・ミューラです。そんな風に彼を色香で惑わせようとしないで下さい」
「なんだと? 妙ないいがかりはやめてもらおうか。私達は純粋な感謝の気持ちを表そうとしただけだ」
「ちょっと……リゼ」
「こらこら、ヨル……」
僕も長い髪の方のアサも、困った様子で二人の間で視線を往復させる。
「二人ともそれ位で。今は彼らの生活のことが優先でしょ。僕のことなんてどうでも良い……」
「「良くありません! 一番大事です!」」
ヨルとリゼの発言がシンクロし、二人は言いあらそいを開始した。
「こう見えて我は腕が立つ! 主様の御身をお守りするのに我以上に適切な存在はいない! これからは一度も離れずそばに仕えさせていただく!」
「いりません! そんなのいなくたってフィルはとっても強いんですから! 彼のそばにいるならその露出の多い衣装をどうにかしてから出なおして来てください! お腹をそんなに見せて、えっちです!」
「なにおぅ? この服は我が里に伝わる戦闘用の装束で、動きやすさを重視されたものだ。決して誘惑目的で作られた物ではない! けちをつけるのはよしてもらおう! お主とてふとももをそんなに露出しておるではないか! 淫らな……!」
「何ですって!」
きんきん耳にひびく声を指でふたしながら、僕はとなりのアサに疲れた顔で笑いかけた。
「ま、まあ、騒がしくなりそうだけど……よろしくね。取りあえず止めようか」
「は、はぁ……そうですね」
苦笑する彼女も僕に親近感を持ってくれたようだった……。
おたがい色々と苦労していそうだなぁ……ふぅ、少しだけ、これからが思いやられそう……。
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