◆とある人買いの末路(???視点)
ぐははは……上手く行ったぜ! 笑いが止まらねぇな……。
走る馬車の中で、俺達は両手を縛って詰めこんだ亜人共をながめ、舌なめずりをしていた。
他の二台も足して、合計二十人程をつかまえてある……。
――ダークエルフの小さな里を襲撃したのは昨晩のこと。
勘の鋭いやつらを騙す為に、特別に調合した無臭の眠り香を風上に配置し、それで奴らは朝までぐっすりだったってわけだ。
さすがに全員は入らねえから、男どもなんかは殺しちまったが……ま、奴らからしても、眠ってる内に死ねて幸運だったろうさ。証拠も全部、集落を焼き払って消してやった。
奴らは容姿が優れていて貴族連中の玩具として人気がある。これだけいりゃけっこうな金になるはずだ。一生遊んで暮らせるにちがいねぇ。
女共がこっちを怯えて見てやがる。
くっくく……しかし、どうしてこうそそるんだろうなぁ、無抵抗の女ってのは……よだれが出て来ちまうぜ。
「頭……俺、我慢できそうにありやせんぜ……」
手下が興奮した様子で息をあらげ、女共が悲鳴で喉をならす。
だがそれを俺は遮る。
「まぁ待てや、こいつらも大事な商品だ。丁重に扱ってやらねぇと後で損するぜ……」
その言葉にわずかに女たちは気を緩めたが……俺の言葉には続きがあった。
「しかしまぁ、俺も頭領としてよく働いた部下には褒美をやらねぇとなんねぇのも、もちろん、良ぉく分かってる……」
「それじゃあ……」
「ああ……まぁ、一人位なら、どうしようが構いやしねえぜ?」
手下どもが色めき立ち、劣情をまじらせた視線に女たちが再び絶望する。
悪いなぁ、馬鹿どもを制御するには、ちゃんと飴ちゃんを与えてやらにゃならんのよ。
「さ、させ……させるもんかっ……! あうっ……!」
女たちを守ろうと、数人の少年が手下に立ち向かおうとするが、またたく間に押さえつけられて床を舐める。
「けひひ……器量良しばっかだからなぁ、どいつでもいいぞぉ。ほらてめぇら、生贄を選べよ。お前らの中で一人……見せしめに可愛がってやるよ」
手下どもが女達を取りかこむ。
くっくく……自分でやるのもいいが、こうしてながめているのもまた一興だ。
「へへ……選べねぇなら、テメェだ! おら、こっちに来い!」
「いやぁっ!」
おっとぉ、自分でいっといて、ヘラボの奴、痺れを切らしちまった。まるで餌を目の前に置かれた犬っころだな。楽しみ方を分かってねぇ……こういう奴はいざという時足を引っ張りやがる……。いずれ始末するか。
女が地面に引き倒され、ヘラボはその上に馬乗りになる。
抵抗する女の服を引き裂き、怯えた女の肌が露わになる。
舌を嚙み切って自害できないようにヘラボが丸めた布切れを口の中に押し込み、女がくぐもった叫びをもらした。
仲間達は剣を突き付けられて身動きができず、涙ながらにそれを見守るしかない。
(く、くく……こういうのがよぉ、こう言うのがたまらねぇんじゃねぇか……! ああ、いいねェ……生まれてきたかいがあったってもんだぜ!!)
「――ギェァァァァッ!」
(あん……?)
喜悦に顔をゆがませる俺の表情はしかし、はっきりとした無粋な悲鳴で中断する。
「おい、誰か殺られたか? 見てこい!」
「追って来た女相手にとちったんじゃないんすか? っ痛ぇ、大人しくしろこのアマ!」
間抜け顔のヘラボが、暴れる女に一撃を加えた……おいおい、顔は止めとけよ馬鹿が……。
フン、まぁさすがに女一人程度に大の男が数人も揃って殺られやしねえだろ……大方油断した馬鹿が返り討ちにあっただけだ……。
そんな弛緩していた雰囲気は、次の瞬間一気にひりつく――。
「――っ殿が殺られたァァァァ!」
「……出るぞっ!」
幌をあわただしく開けて入って来た手下の一人の叫びに、俺達は見張りを数人残し、すぐ馬車を出る。
後部荷台に乗り込んで来ていたのは、先程こちらを追っていた二人の女の片割れだ。応戦した手下の一人は背中をつらぬかれて蹴りおとされ、女は細身の双刃を構えなおす。
こいつらだけが狩りか何かで出ている間に襲撃をまぬがれ、後を追って来やがったんだが……。
一人は落馬させただろうが……使えねぇ手下どもが。外の護衛共もこの様子だとやられたのか? 女一人だぞ……いや!?
っていや待て待て待て……ありゃ何だ!?
男が一人とメスガキ二人が馬車の左右を並走してやがる!?
格好からして冒険者クセェが、走って馬の足に追いついてんじゃねぇよ!!!!!!
俺は驚愕しながらも剣を抜いて手下に命令を下す。
「続きが楽しみたかったら、囲んで一匹ずつとっとと殺せ!! 捕らえてる余裕はねえ!」
まだ数の方は俺達の方が上!
「僕は馬車を止める! ポポ、レポは両脇の二台を!」
「あいさ!」「わかったですぅ!」
あの緑の男が頭か……矢が当たってねえ!?
ガキ二人が他の馬車に乗り込むのが見え、そちらからも悲鳴が聞こえてくる。
腕利きの護衛共から聞いたこと無い断末魔が上がった。
そして男が走って馬を追い抜きざま、御者達を何かのスキルで吹っ飛ばした。
奴は御者台に乗り込み、手綱を握りながら言い放つ。
「《ガスト》!!」
突風が進行方向とは逆に吹き出し、馬の足がにぶり出す。
その間に……。
「ぐぁっ!」「がひぃっ……」「ぐ、ぼっ……こ、こいつ、速っぇ……」
乗り込んで来たダークエルフ女に手下どもが数秒で血飛沫を上げて突き落とされてゆき……残るのは、俺一人。赤い視線が、こちらを射抜く。
「な、な……テメッ、なんなんだ……!」
意味が分からねぇ……あいつらを売り払っちまえば、一生遊んで暮らせる金が手に入る。
それを元手に、もっと大規模に組織を拡大し、いずれあの街を牛耳る裏の顔としてのし上がるつもりだったのに……何が起こってやがる。
「ふざけるなぁっ!」
俺は目の前のダークエルフ女に山刀を振りかぶって斬りかかった。
だが、それは空を切り……。
「下衆が……苦しんで死ね!」
一瞬でダークエルフ女は俺の両腕と足を斬り飛ばし、胴体を地面に蹴り出す。
わざと止めを刺さずに……。
「あぐっ! あぁっ……ぁぁぁぁぁ」
打ち付けた激痛が背中を包み込み、馬車がゆっくり遠ざかってゆく。
伸ばす手ももうない……。
血だまりに沈む身体が冷たくなって、意識がぼんやりしてくる。
「グルルゥ……」
そばの茂みががさりと動いて、顔を見せたのは野犬だ。
目が爛々と光っている……血のにおいにひかれたのか。
ああ、ゆっくりと、牙が……近づいて――。
・面白い!
・続きが読みたい!
・早く更新して欲しい!
と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!
後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。
作者のモチベーションにつながりますので、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。




