帰路での遭遇
――僕達は今、王都からクロウィの街への道を、《ヘイスト》をかけて走っている。
どうして途中で馬車から降りたのかいうと……リゼの希望があったのと、後、単純に鍛錬と僕の支援魔法に慣れてもらうためでもある。おそらくもう数時間もすれば街までは着くだろう。
「行きより早く付いてしまいそうですね! ~~~♪」
「だね。道中にほとんど魔物なんかと出会うことも無かったし」
リゼは最近機嫌がすこぶるいい……どうかしたのかな?
単純に体を動かすのが好きなのかも知れないけれど。
彼女の方を見ると、こちらの疑問を察したかのようににっこり笑う。
「最近、すごく調子が良いんです……やっぱり、フィルシュがそばにいてくれると違いますね♪」
「本当? だとうれしいけど」
そんな風な無邪気な好意を寄せられると照れる。
しかし、冒険者だった僕達に付いて来れるなんて彼女もああみえて鍛えられて育ったんだな。
将来性は僕よりあると思う……この先が楽しみだ。
……も、もちろん冒険者としてだけど。
「な、ギルマス元気にしてっかな?」
「大丈夫だと思うよ? 手紙では特に問題は起こってないって書いてあったし、復興も順調に進んでるみたいだったから」
片側で結んだ赤い髪をなびかせて心配したのは、となりを走るポポ。
その辺りは頻繁に手紙をやりとりしていたから大丈夫だ……各街に散っていた人々も徐々に戻ってきて、平常時のにぎわいを取り戻しつつあると手紙には記されていた。
カールさんの部下の兵士達もしばらく駐留してくれているらしいから、なにかよほどのことがなければ大丈夫だろう。
「ギルマスもきっと王都土産を楽しみにしてると思いますぅ……早く帰りましょー!」
レポが腕を真上に振りあげ、足の回転を速めだす。
全く、この二人がいると、遠足みたいに感じるな……。
「リゼ、大丈夫? 着いていける?」
「は、はい!」
元気にうなずく彼女を見てから、僕らもレポに追随する。
四人でひと固まりになって走る僕達。
だが……異変はその時すぐそこに迫っていたんだ……。
「――何か、騒がしいですぅ?」
「だね……なんだろう」
先頭のレポが速度を緩め、僕は《サウンドアシスト》を展開した。
支援魔法の多くは、他の人とも共有できるので、彼女達にも僕の効いた音声と同じものが聞こえたはずだ。
『――とまりなさい! 同胞を返してっ!』
『ゲヒヒ、大事な金づるを返せといわれて誰が返すか! お前はこれでもくらってろ!』
『あうッ!』
ドサッと音がして前方で土煙が上がった。
誰かが馬の背中から落ちたんだ……僕達はその人物に急いで駆けよる。
「――だ、大丈夫!?」
膝をついて抱えあげたその少女は、長い白銀色の髪に切れ長な赤い瞳、褐色の肌と目立つ容姿をしている。
そして、何より特徴的なのはそのとがった両耳だ。
ダークエルフ……!
亜人の中でもドワーフやエルフと同じように、かなり人に近い種族だ。
「……た、旅の御方、お願いいたします……どうか、里の者を助けていただけませんか。奴隷狩りの男達が……仲間をさらって……今、妹が、追って……」
少女は肩に矢傷を負い、落馬時に頭でも打ったのか気を失ってしまった。
どうしよう……彼女を残して行くことは出来ないし。
「とりあえず……《リジェネレイト》!」
僕の持つ唯一の回復スキルだ。
この魔法は即効性はないけど、自然治癒力を高めてゆっくり傷を治してくれる。前のパーティではメリュエルがいたから、あまり使うことはなかった。
「多分これで時間が経てば目を覚ましてくれると思う……ごめん、誰か彼女を」
誰を残すか迷う僕に、リゼが力強くうなずきかけた。
「……私が見ていますから、皆は先に行って下さい! 奴隷だなんて……許せない」
「わかった……頼むよ。ポポ、レポ、ついてきて!」
「あいさ!」「行くですぅ!」
僕らはその場から全速力で駆け出す。
大勢の人間を乗せているなら、足はにぶいはず……すぐに追いつけるはずだ。
前方に単騎掛けする馬の尻と、それに跨る短い髪の少女が見えてくるが、矢をかわし、払うので精一杯らしく近づきあぐねているようすだ。
僕は彼女に《ウィンド・ウォール》の魔法をかける。このくらいの矢ならば防げるはず。
「――あなたは!?」
「お姉さんは無事です! 今は前を追うことに集中して下さい!」
「かたじけないっ!」
ずいぶん独特な言葉づかいをする少女だが、そんなことを気にしてるより今は先にやることがある。
「くそ、矢が効かねぇ……直接斬り殺せ!」
馬車を守るように走る数人の男が、こちらの足止めをはかろうと馬足をゆるめる。
五、六……全部で七騎。
「皆、行くよ……《スピードアップ》!」
馬上の彼女を仕とめそこねたことからも、おそらく賊の力量はあまり高くない。
他と合わせてこれだけで十分だと判断した僕は、ポポレポに謎の少女を加えた四人で賊の陣中に切りこむ。
こちらを問答無用で斬り殺そうとしてくる敵に手加減する必要はないけど……適当に吹っ飛ばしておけばいいか。数人を彼女達にまかせ、僕は前をふさいだ四人に向かって両腕を突き出す。
「《ガスト・ダブル》!」
「「ウォ、ァ、アアアアアアァァァァ――――ッ!」」
両腕の先に発生させた風圧が、男達を馬ごとまとめて宙へと薙ぎはらう。
それぞれが一人ずつをその間にも仕留め、しんがりの賊達は全員蹴散らせた。
「おーっ……良く飛んだ」「ゴミのようですぅ」
「す、すさまじい……魔法なのか!? ……あなた方は、一体」
「ぼうっとしている暇はない! 後を追うよ!」
「……あ、あぁ」
驚きを隠せない少女を声で揺さぶりながら、僕達は前の馬車三台を追って再び走り出し……彼女もあわててそれに続くのだった。
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