幸せな目覚め
――むにゅう。
顔にやわらかいものが当たっている。
暖かくて気持ちいい……すごくいい香りがして、安心する。
誰かの手が、頭を包んで撫で、僕はうっすらと目を開く。
「……眩しい……今何時だ? ……へぅっ!?」
せっかくの至福の時間から何とか意識を引き戻した僕の心臓は、そこで停止しかけた。
「うにゅ……」
目の前に寝巻に包まれたリゼリィの体がある。
「ちよっ……!?」
あわてて首にかけられた手を外し、ばっと顔を向けた反対側。
「すぅ……すぅ……」
すぐそばにあるのはリタの顔。
そして両足に絡みついているなにかは……お馴染みポポレポのセットだった。
(あ~~~~~~~っ!?)
半身を起こし、僕は頭を抱える。
何だこの状況、何だこの状況、何だこの状況……!!!???
僕があわてて記憶をさかのぼると、ぽわぽわ~んと昨晩の情景が浮かんで来る……。
――そう、昨日はダンジョンから街に帰って来て少し休んだ後、街の酒場で皆と祝勝会をしたんだった。
僕は途中までは、固く禁酒を守っていたはずだ……。
ちょくちょくリゼリィに「少し位……飲まないんですか?」とかすすめられた記憶があるけれど、以前の失態を繰り返すまいとかたくなに断ったはずで……。
『おやおや、フィルシュ~? 全く酔っておらんでは無いか……ひっく』
アルティリエさんはすっかり酔いどれで、グラスを手にしながら僕の肩に手を回してくる。
やわらかい胸が背中に当たって僕の心臓を刺激するけど、当人はそんなことなどお構いなしにぐいぐい距離をつめてくる。
『アルティリエさん……飲み過ぎじゃないですか?』
『そう言うなぁ、普段部下の面倒を見たり相談に乗ったりやらでプライベートがろくに確保できないんだ、たまのこういう時間位、羽目を外したっていいだろう~』
そのまま肩口にしなだれかかって来る彼女は、愚痴を続ける。
『うぅ~、これが終わったらまた面倒くさい訓練やら、神経の使う任務やらに戻らなきゃならないんだぞ? 今の内にフィルシュ~私を癒してくれぇ~……えへへぇ』
アルティリエさんは、今度は胸に頭をぐりぐり押し付けてきた。
年上のお姉さんにあまり免疫のない僕は、彼女の頼みを断わるスキルなど持ち合わせてはいない。
『ど、どうすればいいんですか……』
『そうだなぁ……。それじゃぁ……いい子いい子してぇ?』
机にふせる大人の女性に上目づかいでそんなことを言われ、僕の心はまたも激しく動揺する。
それでも今回のことでは色々お世話になったし、出来る限りの要望には応えてあげなければ……。
『こ、こうですか……?』
指通りのいい綺麗なポニーテールを首筋にかけて梳いてやると、彼女は満足げに喉をならす。
『ふぁ~、日頃の疲れが飛んで行きそうだ。このままここにずっといたい、うぅ……上がおっさんばかりでさぁ、御機嫌取りしてるの疲れるんだよぅ……』
そしてアルティリエさんはおいおいと泣きだす……その姿から日頃の業務の大変さがうかがえて涙をさおう。
『大変なんですね……』
『そうなんだ……だから結婚して、隣で私をささえて……』
『アルばっかりずるい! 私も撫でてーっ! あはははは』
『邪魔するなよ、今すごくいい所だったんだぞっ!』
『知らないも~ん。きゃはははははは』
そうやって、僕の手を両手で握りしめた彼女の背中にのしかかったのはリタだ。この子もわりと甘えたがりなのか……? いや、違うなこれ……酔ってる!?
どうやら酔うと、なんでも楽しくなっちゃうタイプみたいだ。
彼女は確か、この国の飲酒可能な年に達したばかりのはずだけど、大丈夫かな?
『ほらほら、順番に撫でますから、喧嘩しないで……』
『『は~い♪』』
『さすがうちの副マスはたらしだなぁ~』
『その内ハーレムギルドにされちゃうかもしれないですよぅ~ギルマス泣いちゃいますぅ』
『しないからねっ!?』
僕は不名誉な発言をあわてて否定する。
そんな僕らの様子をながめながらもポポとレポは空のジョッキを増やしており、酒豪っぷりを披露しているところだ。彼女達はどうやらフォルワーグ老と飲み比べをしているらしい。
『ひっく……うらやましぃのぉ……ワシも若いころは……ぴちぴちの女子共にモテモテで……うぅ、誰か聞いとくれい! ワシの武勇伝、その一ィ――!』
『おーいいぞいいぞ爺さん、なんか面白いこと言えや!』
『笑い話期待してんぞ~!』
テーブルによじ登り始めて指を天井に着きつけ、郷愁にふける彼を、周りのノリのいい客が苦笑交じりの歓声ではやしたてる。
そんな騒がしい様子をながめながら、僕はちょっと一息ついて飲み物を口にふくんだのだけど……酸味の中に感じられるかすかな苦みに僕は首をかしげる。
なんだ……騒いだからか何か体が熱いような……?
『……リゼリィ、これ、本当に果実水だよね?』
半分飲んだ手元のグラスに不意に違和感を感じ、グラスを両手で持っている顔の赤いリゼリィにたずねたが……彼女はぼそりと問題発言をする。
『……混ぜちゃいました♪』
『なんでっ!?』
『……だって、寂しいじゃないですか。こういう時くらい、あの時みたいにフィルシュと、その……色々触れあったりしたいですし?』
『――っ!』
腕にすがりつくとろんとしたリゼリィの目をみながら、僕の頭はぼんやりともやが掛かったようになってゆく。
ああ、ダメだ……意識を保てなく……なって。
…………。
――なんだろう、その後どうなったんだろう……。
痛む頭を強引に動かして記憶を探っても、どうしてもその先が思いだせない。
断片的にフォルワーグ老師がへべれけな千鳥足で夜の街に消えてゆくのと、アルティリエさんが僕らを送った後寂しそうに肩を落としながら帰って行った場面は浮かぶのだけれど……その後どうして全員で同じベッドに寝ているのかが全然わからない。
「あ~ぁ……」
僕がこれだけ悩んでいても、皆は起きる素振りすら見せず、幸せそうに眠っている。
まぁ、いっか……。
服はちゃんと着てるし、多分僕のことだからなにもできていないだろう。
足にしがみ付いたドワーフ達を引きはがすのも骨が折れそうだし、もう少しだけ寝てよっと。
――本当に皆と無事帰って来れてよかった……。
満足そうに口元を緩ませている女の子達に苦笑すると、僕は再びベッドにぼすんと頭を落とした。
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