魔人ダルマンタ
――魔人の動きは今まで出会ったどの魔物よりも速い……!
しかし、同様に奴もこちらが攻撃を止めたことに驚いた様子だった。
「ホウ、内包している魔力の量といい、あなただけがこの中で別格のようデスネ……」
ダルマンタとかいう魔人は、口のはしを裂いたように笑い、飛びすさる。
「久々に派手にやらせてもらいまショウ! 《爆炎手玉・百連》!」
男はひろげた手の内から膨大な数の火球を生み出し、それをお手玉しながらこちらに高速で投げ付けて来る。
『……《重風弾の反響》!』
――ゴゴゴゴゥン……!
僕もそれを防ごうと風の弾を嵐のように打ち出す。
お互いが相殺し合い、そこかしこで爆発がおこった。
「ホホホホホ……やるじゃありまセンカ! 虫ケラ風情ガ!」
「ずいぶんと……余裕だな!」
玉が尽きて来たのか、手の回転を止めながらダルマンタは言う。
「この世界の人間共の力が弱体化しているのはすでに把握していますからネェ。負けるはずがありまセン。……おや? そこのお嬢さん、もしかして、こぉんな男をご存じではありませんカァ?」
突如いぶかしげな表情を浮かべた男は炎を緻密に操り、それで人物の形を成型した……。
それを見たリタの肩がびくっとはねる。
「何で……お前、お兄ちゃんを!? まさか……」
「クフッ、これは何という美談! わざわざ兄上のカタキを討とうと危険なダンジョンにまで足を踏み入れたと? アーヒャヒャヒャヒャ! そうでございまスヨ! ワ・タ・シがあなたの兄上を葬ったのです! こうあんぐりと丸呑みにシテネ。……あなたの兄上の新鮮な血、存分に味わわせテいただきましたよぉ……こんな風にィ!」
シュバッ!!
甲高い笑い声を上げた後、男の口が裂けて太い舌が槍のようにのびる……。
僕は急いで飛びつき、その中間を風で切りさいた。
男が断ち切られた舌を忌々しそうに口に戻す。
「チィッ、無粋な真似を。やはりあなたから片付けまショウカ」
「お前が……お兄ちゃんを! 《ボイド・リパー》!」
リタが激高し、ダルマンタに向かって空間を割る斬撃を叩きつける。だが……。
――バキィン……。
「ヒュヒュ、甘いですねぇ……その程度では、何にもなりまセン。どうやら兄君の方が優秀だったようダ」
ダルマンタの周囲で空気が弾けるような音がして、漆黒の破片が飛び散った。
発生直前に周辺に魔力を集めてガードしたのか……?
「アルティリエさん、リタを頼みます。フォルワーグさん、皆を率いて下がって下さい!」
「っ……わかった。ほれ……下がるぞ! 今のわしらではあやつの足手まといにしかなりはせん!」
フォルワーグ老がけわしい顔で皆に指示を出すけど、簡単には従ってくれない。
「で、でも……フィルシュだけでは」
「やだぁ……お兄ちゃんの仇ッ!! 私が……」
「リタ、落ち着け!」
アルティリエさんが暴れるリタを抑え込む。
その間もダルマンタが行動を停止しているわけは無く、ダンと地を蹴りつけ、奴は空中に飛び上がった。
「ホヒッ! 《拘束の火輪》!」
シュルシュルと、手の平の上に生み出した火の輪が連続で投げつけられる。
あんなものに仲間を触れさせるわけにはいかない。
僕はそれをかわしながら《ウィンドブレード》斬りさき、ダルマンタの元にせまる。
「ムウッ、やりますネェ!」
「遊んでいるのか……?」
「何ィ……?」
怒りからか自分でも信じられない程に低い声が出て、魔人が表情を変える……。
奴の憎悪をこちらに向ける狙いもあったが、それ以上に僕は怒りを覚えていた。
戦いを楽しむ……こいつらは魔物とは違う。
意思の無い操り人形では無く、胸の底から湧き上がる悪意の元に人を、殺してるんだ!
許せない。
同時に、心の熱がスッと引いてゆく感触がして、僕は目を細める。
「人間を、僕の仲間達を馬鹿にするなよッ!」
次の瞬間、僕は奴の背後に回り、右腕を《ウィンド・ブレード》で切り飛ばす……重い手ごたえだが、切断できない程じゃない。
どうやら常時、リタの魔法を弾いた時のように魔力の防御を展開できているわけではないみたいだ。ボトリ、と転がった腕にダルマンタは急に狼狽する。
「キ、キサマ……!? 何だいきナリ? では、これはドウカ! 受け止めてミロ、《豪炎球宴》!」
ダルマンタは着地と同時に体を丸め、炎をまとい巨大な火の玉となって洞窟を跳ねまわる。
壁面が崩れ、後ろの方で皆の悲鳴がする……いや、大丈夫だ。
確かにこいつの魔力は膨大だけど、攻撃方法が粗雑でそこまでの脅威は感じない。
戦いは減ったとしても、人間だって長い間豊かな生活を守る為に少しずつ成長してきたんだ。
簡単には倒れない……!
「ヌガァァァッ! うっとうしい雑魚どもメ!」
高速で遠ざかって行くきながらくやしそうにうめく魔人。
そして砂煙の間からは、魔法の障壁を展開して皆を無傷で守ったリタとフォルワーグさんの姿が見える。
「こっちは大丈夫じゃ!」
「……取り乱してごめんなさい! お願い、そいつをやっつけて!」
(よし……)
僕は《ガスト》と《エア・ロック》を合成させ、風圧の壁を作って奴を更に吹き飛ばす!
「玉遊びなら、僕が相手になってやる! 《風神の鉄槌》!」
「ゴッガガガガッ、アグッ、ゲッヘェェェェェェッ……!!」
広い空間内でダルマンタをジグザグにすっ飛ばし、壁面にぶつかった奴に特大の空気の壁で作ったハンマーをお見舞してやった。
壁との間でペチャンコに潰されたダルマンタが、息をあらげながら這いだしてくる。
「ゴヘッ……ハァー、ハァー、キッサマ、おかしいぞ……何故ワタシの攻撃が通用しナイ……? かつて万単位の人間どもを殺戮した、このワタシが押されるトハ……」
「知らないよ……お前は相手も見ずに暴れ回ってるだけだ、雑なんだよ。魔人だか何だか知らないけど、お前が弱いだけじゃないのか?」
僕の冷笑に奴はぴしりと青筋を浮かばせ、天井へ咆哮した。
「…………何ッッッッたる侮辱ゥ! クソの分際で多少力があるからって調子に乗りやがッテ! じっくりいたぶった後食ってやろうと思っていたが、ヤメダ! はらわたまで消し炭に変えてヤルウウウウウウウウゥゥ……オエェッ!」
奴の口の中からごぶりと取り出されのは、先程の《耀炎石》だ。
それにダルマンタが魔力を込めだし……石が光り輝く。
「グヒェヒェヒェハハハ! この魔石の力をワタシと合成することで、我が魔力は魔人王直属六禍と匹敵するものへとナル! 地獄で後悔するがイイイィィィ!!」
そして、石の中心から吹き出した炎が魔人の体をつつみ、それは徐々に巨大な姿へと変わっていく――。
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