姿を現すモノ
「リタっ!!」
「フィルシュっ!」
転びそうになりながら駆けより抱きついて来た彼女を僕は思わず強く抱きしめてしまった。
「やった……よぉ!」
「よくやったね。ライアスさんの仇を、とったんだ」
彼女がぽろぽろ涙を流しながらうなずくのを、背中をなでて落ち着かせてやっている間に、残敵を追いちらした皆が近寄ってくる。
「良かったですね、リタさん……」
「やったな!」「見事! ですぅ」
「まだまだ泣き虫なのは変わらないみたいだがな……」
そういうアルティリエさんも、少し目が赤い。
フォルワーグ老はというと……。
「ライアス――っ! リタがこんなに……成長して、ぐふうっ……見ておるか! うおぉぉぉぉ!」
天を仰ぎながら号泣している。あれ、こんな人だったっけな……?
ともあれ、これでダンジョンの中心部までは突破した。
「あの、これ……もしかしたらどなたかの遺品じゃないかって」
そう言ってリゼリィが差し出したのは、半分に折れた杖の先端だ。
リタが目をこすりながら受け取る。
「ありがとう……お兄ちゃんの使ってた、杖だ。皆、ありがとう……」
リタは杖を抱きしめてその場にへたり込む。
そんな彼女を、皆の柔らかい視線が包んだ。
「……さあ、後もうひと踏ん張りだ、奥のボスを倒して《耀炎石》を手に入れないと」
「あの魔石じゃ駄目なのか?」
《インフェルノピラー》の赤い残骸の上に、一つの宝玉が転がっている。
ポポが駆け寄ってそれを取ってきた。
リタは涙を擦ってそれをながめる。
「大じじ様、これじゃ駄目だよね?」
「……残念じゃが、これは耀炎石になりきれてはおらん。最上級の魔石ではあるが……魔導炉の核には成りえんじゃろう」
「……ならば、やはり進むしかないようだな」
「待って!」
異変に気付いた僕が、動こうとした皆を呼びとめた。
「一番奥の、巨大な魔力の反応が……消えた?」
戦闘時、《リファレンス・エリア》を解いていたせいで気付かなかったけど、恐らくボスだと確信していた強大な魔力の反応がいつの間にか消えている……。
僕は有り得ない可能性についてたずねる。
「あ、あの……僕らの他にここに誰か入っているってことは、ありませんよね?」
「馬鹿な……!! 国の管轄で侵入を固く制限しておるダンジョンじゃぞ! そんな命知らずがそうそういるわけがなかろう!」
フォルワーグさんの言うことはもっともだ。
ならば、自然消滅した? ダンジョンボスが……?
そんなことは聞いたことが無い……なんせ、彼ら魔物は生存に食物を摂取する必要もなく、老いることも劣化することも無い。まれに魔力の大量摂取によって変化する魔物はいるらしいが……特にダンジョンでは倒しても数日すれば同じように魔物は復活するのだ。それが、消えた……?
嫌な予感がして……それをみんなに告げる前に、その声は、通路の奥から響いてきた……。
「――ゲヒュヒュヒュ……こんなところへようこそ、お客サマ……インフェルノピラーを殺るとはなかなかの腕前ですネェ」
男は、太っちょな身体に燃えるような赤髪をそそり立たせており、顔は死人のように青い。
だが、特徴的なのはそこではない。
白目の部分まで真っ黒で、そして中心がだけが穴が開いたように白い、ぞっとするような目をしてるんだ。
「あなた方がお探しだったのは、こちらでは無いんですかネェ?」
べろりと男が口から出した舌は異様に長く、そしてそこにからまっているのは輝く赤い魔石だ。
「耀炎石!? まさか貴様が最奥のボスを倒したとでも言うのか!? それに……その目は《呪眼》!? ……もしや、魔人か!?」
動揺したフォルワーグさんのさけびに、男はニヤリと口の端を引き上げる。
「左様。我は魔人王様が直属の配下、《六禍》の一人オルフィカ……様の配下、炎奇術のダルマンタと申しマス」
男は大袈裟なお辞儀をしながら舌を口の中に戻した。
僕は魔人などという存在は聞いたことすらなかったが、目の前の男は明らかに人とは異なるものに思えて、続くフォルワーグさんの言葉を待つ。
彼はごくりと唾を飲み込む。
「……よもや、まだこの大地に存在しておったのか……。伝承より数百年は姿を見た記録すら残っておらぬと言うのに……しかも、魔人王とは。まさか古に施された封印より復活をとげたというのか!?」
「フフフ……古来より解かれず残った封印など存在しまセン。魔人王様は封印に囚われながらも、地上の人間共がわれらとの争いを忘れ、弱体化する時をずっと狙っていたというわけデスヨ。そして数年前、その封印は破られた」
ダルマンタと名乗った魔人はくぐもった笑い声を上げた。
「そしてそれ以来、少しずつ我らは復活し始めてイル。少数ではありますが、すでにいくつかの国の中枢には我が同胞が入り込んでいマス……こんなふうにシテ」
男は腕で顔をなぞる。するとそれは、一瞬で普通の男性の顔へと変化した。
それは一撫でで元に戻る。
「まさか、国を滅ぼそうとでもいうのか……」
「う~む、少し違いますねェ。魔人王様は人間などクソだと……神の加護を頼み、数だけでこの世界を我が物顔にする脆弱な人間種族を一斉に駆逐し、力だけが全てを支配する世界を構築すると仰せにナッタ! 闘争に狂奔する世界が幕を開けるのデス! 素晴らしいでショウ!? クゥ――ッ!!」
自分の言葉に酔うような仕草で肩を抱き、ふるえる男を僕達は気味悪そうにながめる。
男はひとしきりそうした後、にこやかに手をひろげた。
「ま、そういうことなので……今計画をもらされても困りますし、あなた方には消えていただくとしまショウカ。どうぞ、私の胃袋の中へいらっしゃいマセ。ジジイはいりませんが……そちらのお嬢さん方は美味しソウダ……」
男は口元からよだれを滴らせて荒々しい魔力を解放し、それを見た女性陣が引いた。
しかし、この魔力と……ボスモンスターを倒したという話からして、男の実力は半端ではないはず。
「フォルワーグさん……皆を頼めますか?」
「まさか、お主一人でやるつもりか? ならんぞ、魔人は――」
目の前の男の姿がブレた。
――ギィン!
「――いきなりか」
「ほう、良く止めましたネェ……そのお嬢さんを、あの紫髪の男と同じように、串刺しにしてやろうかと思ったのデスガ……」
男のとがった指先がリタの体をつらぬくすんでの所で、僕はそれを防ぎとめていた。
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