インフェルノ・ピラー
山場を越し、僕達はダンジョンの真ん中付近までを踏破した。
そして……。
「次の部屋が、記録に記されている最後の場所……」
つまり……《銀十字団》が敗北した場所。そして、彼女の兄が……命を落とした場所だ。
「リタ、大丈夫……?」
暑い気温の中であるのに、彼女の顔は色を失くしているようにみえる。
それでも彼女は気丈に唇を引き結ぶとうなずいた。
「うん。フィルシュ、皆、力を貸して! ……兄の敵を、討つ!」
「「「ああ!!」」」
僕たちは口々に同意し、それぞれの武器をかまえる。
アルティリエさんはあの魔剣、リゼリィは両手に爪、ポポとレポは大斧と大槍、リタとフォルワーグさんはそれぞれの杖を……もちろん僕だけは無手だ。
「行こう!」
そして僕らは走り出し、広間に足を踏み入れた。
そこには一つの巨大な赤い石柱が立っている……。
「こいつが……《インフェルノ・ピラー》?」
恐らく、魔法生物系の魔物なのだろう。
僕らが広間に入ったことで、今まで微動だにしなかったそれに変化が現れた。
朱い文字が表面に浮きあがり、水平方向にいくつか入った線を境目にして、ぐるぐると回転し始め、熱線を振りまいてくる!
「《ボイド・アブソーブション》!」
「《アクアミラー》!」
叫んだのはリタとフォルワーグさんだ……。
襲い来るそれらを生成された黒い虚無の穴が吸い込み、水鏡の盾が弾き飛ばす!
「こいつは体を分裂させて攻撃してくる! 個体の一つ一つにある赤い宝玉を狙って!」
「待て、囲まれるぞ!」
リタからの指示が飛び、僕らは攻勢に移ろうとしたが……そこでアルティリエさんの鋭い警告。
広間に空いた別の出入り口から複数体の魔物が湧き出て中断し、彼女の顔に迷いが出る。
「む、役割を分けた方が良さそうじゃな……わしは防御を徹底しよう」
「……なら、ポポ、レポとリゼリィ、アルティリエさんは湧いて来た魔物を対処して。近接武器だと近づきにくいだろうから、僕とリタでピラーをけずっていこう」
考えている暇もそうなく、皆は指示を聞くなり勢い良く分散した。
僕は元気づけるようにリタの肩を叩く。
「大丈夫、僕が出来る限り相手を引き付けるから、落ち着いて攻撃して……《ミラージュ》」
「うん……」
風の魔力で作りだした自分の分身を数体走らせ……上の方から折れるように分割してゆく柱を挑発する。
支援魔法を重ね掛けしているので気を抜かなければ熱線に当たることは無いはずだが、注意しつつリタが言っていた赤い宝石を狙ってゆく。
「《ウィンド・ブレード》! ッ堅いな!?」
ガキュン、と音がして破片が散ったものの……砕くまでにはいたらない。
もう少し合成魔法などで威力を上げれば破壊可能かもしれないけど……《急加速》等、二種の合成魔法を詠唱している為、これ以上追加詠唱する事は難しい。
《ウィンドブレード》だって、他の魔法と切り替えして出しているんだ……。
無理矢理出来ないことは無いけど、魔法の同時詠唱は重ねる度にどんどん魔力消費が倍増していくんだ……途中で支援を切らす訳にはいかない。
少なくとも、周りが落ち着いてこいつに集中できるまではダメだ……そう考えていた所に。
「《ボイド・リパー》!」
ザキュ……!
漆黒の線が走り、目の前の赤石が砕け散る……リタの魔法が威力を発揮したんだ……。
彼女はお兄さんと同じ空間魔法の使い手だから、物質の結合を無理やり破壊する魔法なんだろう。
「リタ……そのままやっちゃって!」
「わかった!」
僕は無理せずに《インフェルノ・ピラー》を翻弄しつつ同士討ちさせたりしながら、やっかいな遠距離攻撃して来る雑魚を先に始末しておく。
「おりゃー!」「てぇいっ!」
ポポ、レポが息の合ったコンビネーションで《ヘルブレイズ・ウィスプ》の体をなぎ倒し。
「はぁっ!」「手ごたえが無いな! こんなものか!」
リゼリィとアルティリエさんが、背中合わせでお互いを守りつつ、《クリムゾンケルベロス》を斬り伏せる。
もちろん、的確にいくつもの水鏡を操作し、フォルワーグさんは敵の攻撃を皆に触れさせない。
その間にも二つの宝玉を砕き……もう残るピラーの分裂体は三つのみ。最後の悪あがきに何かをしようとしたのかそれらが一つに固まり、極太の熱線が放たれた。
「甘いわい! 《巨人姫の鏡台》」
だがフォルワーグさんの合成魔法で現れた、長方形の巨大な鏡板が地面に突き立ち……その熱線をもれなく打ち返す。
ジュワァァァァァァッッ!!
ピラーの表面が融解して致命的な隙ができた……いけるッ!
「今だ!」
僕は、リタに合図を送り、彼女の詠唱が響き渡る。
「《重なり合う影輪》!!」
影のように薄い黒の円盤が彼女の周囲から集まり、一つの巨大な戦輪と化して赤い石柱に襲いかかる。
――ザギュッ……!
そしてそれは派手な音を立て見上げる程だった巨大な魔物を立て二つに分割して弾けると、全てを粉々に割り砕いた……。
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