迷宮内突入!
翌日朝早く、僕らは《ラグラドール火山迷宮》に突入した。
「では支援魔法を展開するぞい……《アクア・ウォール》!」
全員を透明の水の膜がつつむ。
だがそれでも、熱は完全には遮断できないのかすこし暑い。
僕もいつもの《急加速》等々の支援魔法を展開した後、ダンジョン内の様子を探るための魔法をとなえる。
「《リファレンス・エリア》」
風がさらった情報が僕の周りの地形から徐々に奥までを頭の中に映しだす。
「では、先導します。何かあったら声をかけて下さい」
「お願い……戦闘の準備はした方がいい?」
「付近に寄って来たら警戒するよういうよ……心構えだけはしておいて」
「任せよう……一応ワシも全域とは言わんが、《サーチ・エリア》で視界の範囲位は探れる。疲れたら交代しよう」
「ありがとうございます……それじゃみんな、行こう!」
「「「おー!!」」」
僕らは迅速にその場を飛びだす。
中盤までの難所は一か所……地面から一定間隔で溶岩が噴出する大広間……《死の噴水》。
灼熱のマグマにじかに触れれば、おそらく骨も残らないだろう。
それまでは順調かつスムーズに進んでゆく。
「――足元、気を付けて! くずれやすくなってる!」
「はいっ!」
――もろくなった地盤をさけ、時には《エア・ロック》で足場を作ったり。
「敵、前方に三体! 戦闘準備!!」
「あいさ!」「ちゃちゃっと片付けますぅ!」
――《ヘルブレイズ・ウィスプ》という高温の火炎を放射する巨大な火の玉の魔物や、《クリムゾンケルベロス》という三つ頭を持つ犬型の魔物をサクサクと倒しながら、すぐにそこまではたどり着けた。
「……ここか」
周囲より一段階温度が上がり、じわりと汗がふきだす。
地面を見ると、いまだだ冷え固まっていない溶岩がじわじわと左右の穴に流れていくのが見える。
「これは……いつか通れなくなるかも知れないね」
「うん……今の内に行っておいて正解だったのかも知れない」
床が盛り上がり、天井がそれまでよりも大分近い位置にあった……いずれは溶岩で全てふさがってしまうのだろうか。
――ボゴッ。
「……皆ッ! 後ろに下がって!」
耳が地面から異様な音をとらえ、僕達は急いで後ろに下がる。
そのとたん、所々壁の側面などに空いた穴からシャワーのように溶岩が飛びちった。
「うわー、ヤバぁ……」
ポポが大口を開け、肩をすくめて後ずさる。
「さすがにこれは通れないな……どの位続くんだろう」
僕達は安全地帯まで引き返し、一度休息を取ることにした……。
「ふいー、生き返るわい」
「……生き返る」
並んで腰に手を当てて水を飲むフォルワーグさんとリタはお爺ちゃんと孫みたいで、妙な微笑ましさを感じながら、僕達は首をかしげていた。
「あまり魔物がいませんね……」
「そうだな……山の方は多かったのに。かと言ってわんさか出て来られると困るのだが」
暑そうに尻尾を振るリゼリィに応えるのはアルティリエさん。こんな中でも大して汗をかいていないように見えるのは、軍隊で鍛えられた精神力の賜物なんだろうか。
「繁殖力があまり高くないのかも知れませんが、チャンスだと思います。出来るだけ長居はさけたいですもんね、こんなところ」
僕は《ガスト》を弱く制御して、小さな範囲でぐるぐる循環させる。
これで少しは涼しくなるはず……さて、どうやって向こう側まで渡るかだけど。
思案していた僕の隣で、唐突にフォルワーグさんがつぶやく。
「ふむ……少しばかり、エロイの」
「は……?」
「ワシはもう枯れとるからええんじゃが……汗で濡れとる女子をみてお主は思うところはないのかのう? ほれ……うっすらと肌が透けて」
「っ……」
彼がそんなことを言うから……僕はつい彼女達を見てしまう。リゼリィやポポやレポなんかは薄着だし、リタもマントを外して体を拭いていたりして……ダメだ、見てはいけない!
「探索中に止めて下さいよ!」
「こんな時だから目に焼き付けておくんじゃろうが……ほれ見よ、あのリタのうなじなんか中々よいじゃろ。あれを毎日拝みたかったら冒険者などやめて、お主も宮廷魔法士として王都に……」
た、確かにほっそりとした綺麗な首をしててちょっと色っぽいけど……!
そしてフォルワーグさんの声が聞こえたのか、リタの目がくるっとこっちに向く。
「大じじ様……?」
「おお、リタよ! 今お主のうなじについてフィルシュと論議を交わしておったところで……」
「……エロジジイ……許さない」
リタが凄味を漂わせた無表情で杖を振りかぶり、大じじ様を殴打する。
――ズギャッ、ズギャッ!
「アギャッ、リタ、何を……やめんか! こ、腰は弱いんじゃ……やめてくれぃ! 折れる――!」
「黙れ、エロジジイはここで抹殺する。フィルシュはいくらでも見てくれていい」
「なんでわしだけェ――!!」
不思議そうにこちらを見ている他の皆に僕は何でもないと目配せした……。
行けないいけない……ち、ちゃんと攻略に集中しなきゃね。
ボロボロになったフォルワーグさんは視界に入れず、僕は離れた所にいるレポにたずねる。
「どう? 溶岩の勢いは」
「そろそろ止まりそうですぅ」
レポは目がいいので、見張り番をしていてもらったんだ。
止まるならこのタイミングを逃す手はない。
「あまり休憩できなかったけど、行きましょうか」
「地面は渡れんが、どうやって行くんじゃ? ワシの水魔法で無理やり固める手もあるが……」
ニュッと何ごとも無かったように復活した老師が、意見を述べる。
「《エア・ロック》で橋を作るつもりですが、老師、万が一の為に外側に水のバリアをお願いできますか?」
「よし来た……では、フィルシュよ、わしと合成魔法をやってみるとするかの?」
「他人との合成魔法ですか……実は僕、やったことないんですよね……」
フォルワーグさんの言葉に、僕は難色を示した……経験が一度もないのだ。
「む……? どこの魔法学校でもある程度は習う内容のはずじゃが……そういえばお主は独学でそこまで魔法スキルを極めたんじゃったな。つくづく信じがたい……」
「……恐縮です」
僕は頭をかく……魔法学校は魔法スキルを取得した人間が、より高度な魔法を習う為に入る学校なんだけど、僕は学費の当てがなかったから入ることは考えなかった。冒険者にはわりとこういう人は多いみたい。
「……まぁ、お主のセンスならちょちょいのちょいじゃろう。ほれ、手を出せ」
僕はフォルワーグさんの二回りも大きな手に自分の手を重ねた。
「まずはお互いの魔力の波長を合わせる。その過程でイメージを魔力から読み取り、共有してゆくんじゃ」
「は、はい!」
僕は集中して彼の魔力を読み取り、それと自分の魔力を混ぜあわせる。
頭の中にぼんやりとふくらんだイメージが、どんどんとはっきりしていく。
『そうじゃ、それで良い……お主なら慣れれば、接触せずとも互いの意思を共有することが出来るようになるじゃろう。では、行くぞ!』
『は、はい、いつでも!』
これは……魔力による意思伝達法《精神感応》っていう奴かな。さすが最長老、指導者としても一流だ……彼の意図が頭の中に明確に伝わって来る。
そして、脳内に反響するフォルワーグさんの声に合わせ……僕は彼と一緒に詠唱をさけんだ。
『『渦流の架橋!!』』
僕らを中心に湧き上がった水の竜巻の渦が、広間の入り口と出口をつなぐ。
内側はゆっくりと流れる水で満たされ、良く見ると中に筒状に足場ができているようだ。多少の溶岩が掛かってもくずれる様子はないので、これなら安全に渡れるはず。
「よし、行こう!」
「「おーっ!」」
「綺麗……ガラスでできているみたい……」
「涼しげでいいな……」
ポポとレポがはしゃぎながらザバザバと水を掻き分け走って行き、それぞれの感想を口に出しながら全員が続いていく。
殿をつとめる僕の肩を老師がもんで来る。
「一度で成功するとはさすがじゃなぁ。のぅ~、お主……本当に冒険者など続けんでも……わしらといっしょに魔道を究めんか? リタもおるし……」
「すみません……僕はやっぱり、この仕事が好きなんです」
「そうか……」
グイグイ来るフォルワーグさんの流し目に怯みながらも、残念ながら僕の言うことは一つだ。
それを伝えると彼はまた、ショボンと落ち込んでしまった。
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