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一つの決意

 翌日、まだ目は()れていたけれど、少し明るくなった顔でリタは改めて僕達に語ってくれた。なぜ彼女が空を飛ぶ魔道具の発明にこだわっているかの理由を。


「私の兄には、二つの夢があった。どちらも未だ人類の無しえていない魔道具の開発。一つは今私が取り掛かっている飛行型の魔道具の開発。そうしてもうひとつは、魔導炉という特殊な魔道具の開発だった」


 彼女は思いを()せるような遠い目をした。


「幼い頃、兄と約束をした。兄の夢を手伝うことと、彼がそれを成し得なかったとき、私がその夢を継ぐことを……。兄は(ほが)らかに笑っていた。無理はしなくていいけど、多分他に挑戦する人もいないだろうから、お前に頼むんだって……」


 黙って聞き入る僕達に、リタは切ない笑みを向ける。


「私は無邪気に喜んだ。兄がいなくなることなんてまるで考えていなかったから……。早く大きくなって、兄に認められる位すごい魔法士になって一緒にその夢をかなえ……沢山の人々を幸せにするんだって」


 その時のことを今でも思い出すのか、彼女は胸を押さえた。 


「でも、その夢を叶えられずに兄は死んでしまったの……。三年前、兄は魔導炉の最も大事な心臓部に必要とされるはずの素材を手に入れる為に、あるダンジョンに出かけた。もしかしたら……フィルシュ達も知ってるかも知れない。《ラグラドール火山迷宮》という名前の場所」


 僕は目を見開く。

 そのダンジョン名をうわさに聞き及んだことがあったから。


「《ラグラドール火山迷宮》!? あ、あそこはS級ダンジョンの中でも禁足地に指定されていて、国の許可が無ければ入れないはずじゃ!?」


「そう……許可が無ければ。兄はその頃には宮廷魔法士としてかなり実績をつんでいて、希少な空間魔法を利用した転移魔道具の構築(こうちく)など多くの功績を上げていた。そして国は彼の歎願(たんがん)に耳を貸した」

「あの……《死地(デッドランド)》の一つへ入ったのか……」


 僕はつばを飲み込む。


 《ヘルガー極冷氷山》、《闇沼》、《ゴールドエンド大溝》など、この国にはいくつか禁足地に指定されているダンジョンがある。


 それは国が周辺を厳しく管理しており、許可無く立ち入ることは出来ない。


 なぜなら……単純に危険すぎるからだ。


 ダンジョン内に生息している魔物は軒並(のきな)みSランク以上、そしてそれだけではなく、厳しい地形が冒険者達の体力と精神力をじわじわけずり取ってゆく。


 誰が呼んだか、それらは民衆の間に広まり、《死地(デッドランド)》と呼ばれ始めた。

 過去に多くのSランクパーティが挑戦し、そして帰ってこなかったという。


「兄は、一つのSランクパーティに同行する形で、そのダンジョンに侵入した。魔導炉の制作には、火属性の高位ボスモンスターからドロップするとされている純度の高い魔石《耀炎石(ようえんせき)》がどうしても必要だと、それまでの実験の結果を通して結論付けた為。そして……結局兄はそれを手にすること無く、ダンジョンの奥で倒れた」


 リタは、ぎゅっとドレスの(すそ)をつかみながら言った。


「兄の死は、《銀十字団》というパーティの生き残りが伝えてくれた。兄がそのパーティのリーダーと共に先頭に立って仲間達を守り、他数人のメンバーは何とか生還(せいかん)することができたって。でもその時の私にはそんなのはどうでも良かった。ひどい暴言を吐いてボロボロの彼らを追い出してしまった」

「それは……仕方ないよ」


 その時のことを後悔しているのか彼女は瞳をうるませたが、涙をこらえてリタは言った。


「私は……どうしても兄の夢を叶えたい。だから、今回の実験を成功させて同じようにダンジョンに挑戦しようと思ってる。どうしてもそうしなければ……」

「でも……そんなの危険すぎる。リタがいなくなれば、大勢の人が悲しむ。フォルワーグさんや、アルティリエさん、宮廷魔法士達や、僕達だって……」


「それでも……どうしてもそうしたいの。私は兄の残した研究は、絶対に実現可能だと思ってる。このままそれを私があきらめたら、全てが無駄になる……。なにより、私自身がそれを成しとげたい。あの時の話がひろがって、誰も手伝ってくれないかも知れないけど、それでも……」


 どうやら彼女の決意は固いらしい。

 なら……どうすればいいか、答えは決まってる。


「僕は……リタ、君を一人で行かせることはできないよ。君がどうしても行くなら、僕はそれを可能な限り手伝う。絶対にお兄さんと同じようなことにさせたりしない」

「フィルシュが行くのなら……私達も行かないとなりません」

「当たり前だけどあたし達もだぞ~」「です~」

「リゼリィ……ポポ、レポ……それは」


 気持ちはありがたいけど……何が起こるか分からない危険地帯に彼女達を連れて行くなんて。


 一人で行く……それを言おうとした僕の口を、柔らかい手でふさいでリゼリィは首を振った。


「足手まといになるかも知れませんけど、フィルシュに何かあったら、私……絶対にそんなのは嫌なんです。ただ待っているなんてそんなの、できませんから」

「あたしらの副マスだからな」「命に代えても守りますぅ」


 そんな風に笑ってくれる仲間も、リタのことも絶対に危険にさらしたくはない。

 やがて僕は矛盾した気持ちにケリをつけ、覚悟を決めた。


「皆のことは絶対に僕が守り切る。だから、一緒に、絶対に誰も欠けることなく帰って来よう」

「……皆、ありがとう。この三年間で、きっと私も強くなった……あなた達を危ない目には合わせないって(ちか)う。まずは飛行型魔道具の作成から入るつもり。それが叶えばきっと国からの許可が出ると思うから」


 リタが目のはしに(にじ)んだ涙を拭い、僕ら一人一人と握手する。


 頑張ろう……まずは一つ目、空を飛ぶ魔道具の作成からだ……。

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