空を飛ぶには……?
「では、行きます! 《エアウォーク》!」
僕は詠唱した後中空にフワリ浮き上がる。もちろん手にはあの青水晶の解析板がある。
「おぉぉ~……」
リタが目を丸くしてそれを見る。
もちろん近くにはリゼリィ並びに女性たち三人の姿もある。
屋敷の庭で彼女らは、リタが雇う女中さんが用意したお茶を飲みながらこちらを眺めていた。
「どうでしょうか……いったん降りますね」
解析版に表示された結果を見せる為に一度僕は地面に下りた。
「《風 対象指定 範囲指定 浮力制御 移動操作 風耐性》と出てますけど、どうですか?」
「む~……」
リタはその場でうんうん唸り出す。
「分解されたこれらの要素を考えると、指定した対象の周りの空気の浮力を水に入った時のように上昇させ、そしてそれを移動させる力を加えた術式……ということになる。風耐性は風圧を少なくする為だと思われる」
「へえ……そういう仕組みなんですか。それで……実現は出来そうでしょうか」
「いくつか問題がある」
彼女は指を一本ずつ上げてゆく。
「まず、浮力制御の要素結晶が未だ作成されていない」
「要素結晶ってどうやって作られているんですか?」
「原料は魔石なんだけど、《錬金》スキルを持った職人に頼まないといけない。その人にフィルシュの魔法を抽出して貰い、魔石と合成させ加工する。少し時間がかかると思う」
そういえば、あまりこの魔法を使っている人を見たことはない。
風魔法スキルを使える人は、そう少なくないはずなんだけれど……珍しい魔法なのかな?
普通に生活していると、あまり空中に浮くという行為は必要性のないように思えて、僕も前のワイバーンみたいな空の魔物と戦うときとか、後はダンジョン内で水の上を通る時位しか使わない。
そんな思いを巡らせつつ、とりあえずこれは後回しにすることを決める。
「他の問題はどんなものなんです?」
「この術式は術者自身、もしくはそれ以外の単一の対象にしか効果が無い。恐らく、もし魔道具としてこの術式で起動させたとしても、内部の人間や貨物に浮力が働かず、飛ぶのに多大な負荷がかかる……このままでは実用化が難しい。構築式を少しいじってみないといけないと思う」
「なるほど……ちなみに、魔導車って開発には成功しているんですよね? その時はどういう構築式の構成にしたんですか?」
リタは少し悩んだ顔をして言う。
「む~、他の人には口外しないで欲しい。一応現状国家の独占となっている技術だから。確か《火 回転 熱耐性 衝撃耐性 移動操作 摩擦減衰 熱魔力変換 風耐性》等が使われていたと思う。基本車軸を回転させて得る推進力を使用している。他は大体それによって生じる問題の対策で入れられているみたい」
「結構シンプルなんですね」
う~ん……あれ?
「《エア・ウォーク》では、移動操作で移動力を確保できているみたいですけど、それだけじゃ駄目なんですか?」
「詳しいことは分からないけど、地面との摩擦や重力の関係があってうまくいかなかったらしい。火魔法は割と使用者が多くて研究も進んでいるので、回転によって発生する熱をエネルギーに転化できる方法が取られたと聞いた」
「別の方法を考えないといけませんね……空を飛ぶのだから、車輪では無く別の機構が必要になるのか」
「他の皆の意見も聞いてみよう。思いもよらない発想が得られるかも」
リタは一つうなずくと僕の手を引いて皆の元に戻り、同じような説明をした。
「空を飛ぶ仕組み……ですか」
「あたしは難しいことはわかんないな」
「あっちも。物を作るのはじっちゃん達が得意だったけれど」
そういえば彼女達はドワーフなんだ。筐体を作成する際に意見を聞くこともあるのかも。
「直接移動させることが出来ないなら、反対方向に力を加えるというのはどうだ?」
アルティリエさんが、腕を組んで首を傾げる。そうしていると豊かな胸がいっそう強調されて僕はちょっと視線をそらす……ごめん、リゼリィ。
良かった……考えるのに夢中で気付かれなかったみたいだ。
「反発力を利用するのは良い案」
「あ、あの、空気を固めてその上を移動するようにするというのはどうでしょうか?」
「なるほど……面白い考え」
「鳥みたいにバサバサ~って飛んだりできないか?」
「妙案だけど、浮力制御と同時に使う際に多分問題が出てしまう」
こうして出た色々な考えを彼女はメモしてゆき、やがて方針が固まる。
「《風 対象指定 範囲指定 浮力制御 移動操作 風耐性 衝撃耐性 摩擦減衰 風物質化 風圧制御 射出 効率化》……こんな所で試してみようかと思う。うん、今回はここまで」
「次は浮力制御の要素結晶の作成からですね」
「うん、明日一緒に来てもらっていい?」
「もちろんですよ。まだしばらくは王都に滞在しないといけませんし」
眼鏡の奥から黄色い瞳が見上げるので、僕は一も二も無くうなずいてしまう。
上目遣いでお願いする女の子の視線には、例に漏れず僕も弱かった……ま、そうでなくてもお仕事だから、ちゃんと協力するけど。
「良かった……それじゃ今日はこれで終わり。空き部屋があるので泊ってゆくといい」
「私達も泊っていいんですか!?」
「うん。ただ、アルは泊めてあげない」
リタは少し目を細めて嬉しそうにうなずくと、アルティリエさんには辛辣な言葉を発する。
「何だとッ!? 私だってフィルシュと夕ご飯食べたり夜中集まっておしゃべりしたりしたいぞっ! あわよくば……」
「あわよくば?」
「……なんでもない」
「そういう所が危ない。それに、騎士団の仕事は疎かにすべきではない。私は大じじ様にフィルシュの傍にいるよう命ぜられている。悔しかったら筆頭騎士団長に休暇の許可でももらって来るべき」
「ぐっ……あの石頭は滅多に休暇の申請を通さんのだ。……仕方あるまい、今日の所は帰る。フィルシュ、お願いだ……くれぐれも私のことを忘れないでくれ! また会いに来るから……」
「だ、大丈夫ですって……お気をつけて」
こんな強烈な印象の人を忘れようも無いんだけどなぁ。
彼女はよほど心配なのか、僕の手をぎゅっと強く握りしめた後、何度も振り返りながらその場を後にして行った。見た目だけ見ると誰もが憧れる立派な女騎士なのに、色々残念な人である。
騎士団、大丈夫なのかなぁ……この国の行く末をちょっとだけ憂いながら僕はリタの屋敷内に戻った。
・面白い!
・続きが読みたい!
・早く更新して欲しい!
と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!
後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。
作者のモチベーションにつながりますので、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。




