魔道具の作成方法
ここはリタの所有する広い邸宅の中の書斎の一室。
本が多くて比較的狭いこの部屋でなぜ僕らがこんな風に無理やり集まっているかと言うと、リゼリィが僕と離れるのを拒んだため。
そうするとアルティリエさんもポポレポも我も我もと声を上げ、リタは数の暴力を受け入れざるを得なかったようだ。
「ほこりっぽい部屋だな、ここだけ掃除していないのか。……窓を開けていいか?」
アルティリエさんはくしゅっと小さなくしゃみをし、その言葉にリタはうなずく。
「いい。けれど周りの物は余り触らないで欲しい。場所がわかりづらくなる」
どうやら地面やら机やらに山積みの本は彼女なりの法則があって置いているらしいので、そのままにしておく。すさまじい量だ……勉強家だな、彼女は。
ほとんど本ばかりのこの部屋にあるのは、他には小さな額縁が一つ位。
それは床に伏せられたまま、うっすらとほこりが積もっている。
「フィルシュ、説明を始める」
「あ、はい。ええと……取りあえず何から始めて行くんですか?」
僕がたずねるとリタは、順序良くその考えを述べてゆく。
「魔道具の構成要素は、動力源となる加工魔石、魔法を発動し、増幅させるための魔力回路、そしてそれを保護し、役割に適した形状を取る筐体の三部分で成り立っている。私達のすべきことは、空を飛ぶ魔法スキルに使用する構築式を解析し、それを魔力回路に落とし込む作業」
「構築式の解析って……そんなことできるんですか?」
「可能。人間は、スキル発動の際自身の思考を文章のように組み立て、そのイメージを詠唱に乗せて発動している。それをこれが読み取ってくれる」
彼女はテーブルの上に、四角形の蒼い水晶の板を取り出す。その底面には、何やらインクのような物が溜まっている以外は、ただの透明な板に見えるが……。
「手を置いて、何か周囲に影響を及ぼしにくいスキルを使ってみると分かる」
「ええと、それじゃ《エア・ロック》」
この魔法は、周囲にある空気を固体化する魔法で、上手く使えば足場などに転用できる中々便利な魔法だ。少し見えづらいのが難点だけど……。
詠唱と同時。彼女の言った通り、板の中にあったインクのようなものがじわじわと文字の形を取り始めた。ええと、なになに?
「《風 範囲指定 風物質化 固定》。このように、それぞれのスキルに使われる要素の断片が可視化できる。そして……」
彼女はガチャガチャと道具箱を漁り、どこからか出して来た金属板の上に色取り取りの水晶で出来たキューブを設置していく。
「これが、魔導回路の原形の、魔導回路版と、要素結晶。これと適切な順番で配置する事で……」
彼女は水晶をカチカチと回路版にはめ込み、端に描かれた魔法陣に魔力を込める。
するとそれは淡く光り、小さな風魔法のキューブが再現された。
「こんな感じ。でも、実は人が持っている魔力回路である魔臓……脳の一部にあるそれは、とても魔力の変換効率が高くて、それを100%とすると、高級な魔力板を使っても精々20%位の効率しか出せない」
確かに、今目の前に出現しているものは僕が出したものの十分の一位しか無く、すぐに消えてしまった。
「私達がすべきことは、空を飛ぶ魔法の解析と、それを使用するに当たっての最適な効率化。フィルシュは空を飛ぶ魔法は使える?」
「はい……使えます」
「良かった……フィルシュなら絶対できると思ってたけれど、安心した」
彼女は満面の笑みを浮かべると、僕に抱き着く。
リゼリィがむすっとしたが、これぐらいで怒っていては話が進まないので何とか抑えてもらう。
「ふむ、それじゃ僕の魔法の構築式をベースにして、要素を色々入れかえて試していくって流れですかね?」
「ご名答……流石に屋内では危ないので外に出よう。こっちへ……」
「え~と、彼女達は自由にさせて貰っていいですか?」
僕らの研究に付き合わせるのもかわいそうだし、気を使って言ったつもりだったのだが……。
「私達もそばで見ていたいです……こんな機会滅多にありませんから! お願いします!」
「それに、二人にしておくと何が起こるか分からんからな、しっかり見届けさせて貰う」
リゼリィとアルティリエさんがそう主張する。ポポレポはどちらでもいいと言った感じだ。
「……邪魔をしないなら構わない。人数がいた方がいろんな意見が出て研究が捗ることもあるから」
こういうところは仕事優先らしく、リタはそれを了承して僕らを青空の元へ連れ出す。
魔法のみならずスキルがこんな風に研究されているなんて知らなかった。
色々どたばたしちゃってるけど……でも少しワクワクして来た。
たまにはこんな風に頭脳労働してみるのも、意外と楽しいかも知れないね。
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