両手に花……どころじゃない
僕は両脇をアルティリエさんとリタにつかまれながら王都を進んでいた。
両手に花と言えば聞こえがいいが、半ば連行されている気分になっている。
「アルはもっと離れて歩いた方がいいと思う。人前に出ることが多いから顔が知れてる」
「お前こそ、そんな服装をして目立つことこの上ないだろう! 第一、お前がどうしてフィルシュにくっつくんだ!」
「私は宮廷魔法士団最長老の大じじ様から彼のことを任された身。そしてこれから彼と一緒に暮らすんだから、出来るだけ趣味、嗜好、生活形態の全てにおいて熟知しておくべき。ここだけはゆずれない」
リタは無表情でそう言いつのりつつ、ぎゅっと距離を縮める。
その言葉にアルティリエは目をかっと見開く。
「何だと!? 貴様、仕事を理由にして彼をかこい込むつもりか! そんなことが許されてたまるか……フィルシュ、私と共に騎士団兵舎の女性寮に引っ越してこい! 私と同室でも構わない! いやむしろ歓迎する……毎日一緒に朝日を見て優雅にお茶を楽しむんだ!」
「そんなのは私が許さない。きっと品性を捨てた雌のケモノ達がフィルシュをよってたかって食い物にする。私の家の方が安全で快適。遅くまで一緒に研究して、疲れたら私が体をマッサージしてあげる」
「なっ、マッサージ!? 貴様、そんな淫らな行為を……」
「それを淫らと判断するアルの方が危険、フィルシュのそばには置けない」
「少し声を小さくしてくれないかな、二人とも」
もうそろそろ通行人の視線が痛いので止めて欲しいが……。
そんな思いをしながら道を曲がると、通りの奥に洒落た感じの一軒のお屋敷が顔をのぞかせ、リタが指を差す。
「あれが私の家、一人で住んでる」
「……えぇ!? 親御さん達は!?」
すると彼女はわずかに押し黙った後、表情を変えずに顔を上げる。
「もう十六は越えて成人だから問題ない……お給料は一杯頂いてるし。だからもしフィルシュが冒険者を止めても私が養える」
「いやいやちょっと待ってどこからそんな話が……。君とは仕事上の協力者と言う関係で……」
どうも思考がすっ飛んでいる彼女に、僕は頭を抱える。
「その通りだ! お前に彼を紹介した私が馬鹿だった……困っていた様だから手を差し伸べてやったというのに」
「それとこれとは別の話。女の戦いに仁義は無い……ん?」
何かに気づいたのか、リタが後ろを振り返る。
曲がり角の先が見えないので僕も《サウンドアシスト》を展開して耳を澄ませる。
(…………ルシュ――!)
聞き覚えがある声がどんどんこちらに近づいて来て、僕はこの状況をどう説明したものかなと頭をひねる。
そして予想通り、彼女達が姿を現した。
「フィルシュ……っ!」
金髪の獣人の少女が、僕の胸に転ぶように飛び込んで来る。
「どうして……宿屋で待っててって言ったのに」
「どうしてって、聞きたいのはこちらの方です……ぅ」
息せききってきた彼女の目には、じわじわと涙が浮かびだす。
そして……。
「捨てないで下さい……」
「え?」
僕は思わずその言葉を聞き返す。すると彼女はポロポロと涙の粒を溢れさせてもう一度言った。
「ペットみたいに捨てないで下さい……私、あなたがいないと生きていけません……!」
「ええっ!? そ、そんなことしないってばっ!?」
いきなりボロボロと涙を流し出す少女はぶんぶんと尻尾を振りながら僕の胸に頭をこすりつける。
どうしてこんなに思い詰めてるの……!?
僕は視線で後ろのドワーフ娘達に問いかけるが、彼女達は処置無しと言った風に手を上げるだけだ……仕方あるまい。
「リタ、とりあえずお家にお邪魔させてもらっていいかな……ここではゆっくり話せそうにない」
「強敵出現……だけどフィルシュが家に来てくれればこっちのものか。……わかった。着いて来て」
しばしリタは悩む様子を見せたが、意外とすんなり家へと案内してくれる様子だ。
どうせ研究の協力をする為に訪れなければならないし、こんな往来で通行人の視線を浴び続けるのは好ましくない。一応これでも、クロウィの街の副マスターとして登録されているんだから。何かあったらクラウゼンさんに申し訳が立たない。
僕は貰った王宮魔法師の山高帽を目深にかぶると、はぐはぐと嗚咽を鳴らすリゼリィを背負い、リタの後ろに続いて歩きだすのだった。
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