◇いつでも一緒にいたいのに(リゼリィ視点)
その頃、私、ポポ、レポの三人は、カールさんが用意してくれた宿の一室で、ぼんやりと天井を眺めていた。
「帰って来ませんね……」
「そだなぁ……」
「あっち、お腹が空いたですぅ」
「さっき食べたばっかだろ……」
お腹をふにふにとつまむレポを、姉のポポがたしなめる。
別に外出が禁止されているわけでもないが、いつフィルシュが帰って来るかと思うと、入れ違いになるのを恐れて私達はここを出られないのだ。
「お昼過ぎには帰るって言ってたのに……」
ほぅ……と口をついてため息が出てしまう。
彼を今朝迎えに来たのは、あの騎士団長の人だった。
凛としたとても芯の強そうな、しっかりした女性。
しかもかといって女性らしくないなどという事は無く、ふとした瞬間に見せる気品のある仕草はとてもなまめかしいもので……。
(私なんかより……ずっと)
フィルシュには彼女の方がお似合いなのかも……そんな嫌な思考を追い出そうと私は頭をぽかぽか殴り出す。
「うう~っ……」
私はもちろんフィルシュに好意を抱いている。
命を助けられたということも関係しているけれど、それだけでは無くて。
むしろ一緒にいればいる程、そんなことがどうでも良くなる位に好きになってゆく。
彼の穏やかな表情とか、優しさとか……いざというとき前に出てくれる所とか。
男らしい感じでは無いけど、少し子供っぽく見える顔立ちも、あの緑の髪や目も。
言いだすと本当にきりが無くて……。
そんなに長い間一緒にいた訳では無いのに、彼の隣にいるとまるで家族と一緒にいるような安心感があって、でもどことなく胸が弾む。
……もしこの先どんなに辛いことがあったとしてもきっと、彼とならずっと一緒に笑えているような気がする。
本当は好きで好きでたまらなくて片時も離れたくは無いのだけど、フィルシュにも色々都合があるのはわかっている。
栄えある勲章の授与は、是非この目で見届けたかったけれど……でもそれができないならせめて帰って来て一緒に精一杯お祝いしてあげたい。そう思ってこうして言いつけを守っているのだ。
(私も……フィルシュのタキシード姿が見たかったのに……)
アルティリエと名乗った騎士団長はきっと今、自分の知らないフィルシュの姿を見ているに違いない。正装する彼の格好いい姿が見られなかったのが悔しくて、ベッドの上で寝転がって悶える私に、赤髪のポポは言った。
「リゼも大変だなぁ。フィルは結構押しに弱そうだもん」
「あっちにでも落とせそうですぅ」
「何ですって!?」
それを受けた青髪のレポの言葉に私はんがっと牙をむく。
するとレポは悪びれもせずに言う。
「だってギルドで泊まってるときにあっちが添い寝しても何も言わなかったですぅ。きっと簡単に既成事実に持っていけそうですぅ」
「にゃ、ちょ、なんでそんなことしたんですかっ!?」
「だって寒かったんだもんな」
「春先でそんな薄着をしているから……ってあなたもですか、ポポ!?」
ポポ、レポはドワーフの双子の姉妹で戦士なのだが、防具らしきものはほとんど付けておらず、肉体の頑丈さで勝負するタイプだ。よって、胸部を覆う巻き布と腰布くらいしか身に着けていない。流石に冬場は外套を羽織っているが。
自分以上に肌の露出が高い彼女らにまとわりつかれたフィルシュが眠れぬ夜を過ごしている様を思い浮かべ、私は顔を赤くして叫ぶ。
「だっ、だ・め・で・すーっ! 恋人同士でもないのに、っていうか、もしも同時に手を出されたら、二人ともどうするんですかっ!」
「え? 別にあたしらはいーけど、全然」
「あっちも~」
「え……!?」
すると何を当然のことを、と言うように二人は軽く応じ、私は青ざめた。
「英雄色を好むって言うしさ、そういうのもいんじゃない? 間接的とはいえ、あたしらもフィルには命を救われた身だし」
「そっすね。フィルが来てなかったら、きっとあっち達もあのまま街と一緒にぐちゃぐちゃに踏みつぶされてたと思うんですぅ……それなりの恩返ししたって、いいと思うんですぅ?」
身近なライバルの出現に、私は戦慄する。
年齢は低く見えるが、彼女達は自分より年上だ。そして中々の美少女達である。こんな彼女らに寝床に潜り込まれていればいつか間違いが起こる日も遠くはないかも知れない……。
誰かが、コントロールしなければ……。
「二人とも……今日からフィルシュの寝床に潜り込むのは絶対禁止ですから……」
「え~? リゼリィもやったらいいのに」
「やりません! そう言うのはちゃんとしないと駄目なんです! これからは寒かったら私の所に来て下さいっ!」
「それはフィルが決めることだと思いますぅ」
ぷ~と頬を膨らますドワーフ娘に私が更に言い募ろうとした時、赤い頭のポポが、窓に貼りついて叫んだ。
「あ、あれフィルじゃね!?」
「――どこですかっ!?」
窓を割りそうな勢いで飛びつく私にポポが示してくれた方向には、確かにフィルシュの姿がある。
それだけなら良かったのだけど……。
「ど、どうして……増えてるんですか……!? あなたは一体何をしに行ったんですかッ!?」
彼の左腕を掴んでいるアルティリエさんはまだいい。
右腕にぶら下がっている山高帽の女は誰なのだ……たちまち私の頭は嫉妬と寂しさでぐちゃぐちゃになってしまい、手が窓ガラスをぐらぐらと揺らす。
「――んもーっ! 追いますっ!!」
「ちょい待ち!」「あっちらも行くですぅ!」
そのまま窓を開け私は飛び出し、宙に身を躍らせた。
それを二人のドワーフが追って着地し三人で一斉に走り出す。
大勢の通行人が呆気にとられた顔で見ていたけれど、私の頭はもうその時、彼の元へ駆けつけること以外は考えていなかった。
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