試しの儀
なぜか僕は虹の塔の屋上に連れていかれ、試しの儀と言うのを受けることになったらしい。
宮廷魔法士は推薦制で、長老会というあの老人三人を含む組織が最終的に入団の可否を決めているとのことらしいが……。
「り、ちょっと待って下さいよ、リタさん」
「リタでいいってば。何か質問でも?」
彼女が階段の上でこちらに体を向ける。
「僕、まだあなたに何に協力して欲しいかとか、全く説明を受けていないんですが……」
「そうだった? ええと……」
彼女は小鳥のように首をかしげて、僕に説明する。ミニドレスの裾が吹き抜けを通る風にゆらりと揺れた。
「私は今、スキルの助けが無くても、空を渡ることのできる方法を模索している。未だ魔道具ではそれを実現できていない事は知っている?」
魔道具とは、魔力によって人間が使用できるスキルを再現しようとして開発された道具のこと。
魔剣も大まかな区分ではこれに当たる……あれは攻撃性能を求めているけど、例えば、火魔法の燃やすという力は色々なことに使用出来るように、部分的に力を取り出すことが出来れば色々な分野に応用ができるんだ。
国も研究開発に力を入れているけれど、まだ実用化されているのはほんの一部。
これからの時代、最も発展性のある分野になるかも知れない。
「はい……生命体の運動に頼らない動力の開発。地上を走る魔道具なんかも研究されてもうすぐ実用化されるような話を聞いたことがありますけど……まさか、それで大空を?」
「……そう。そうすれば、多くの物資や人を、様々な所に送ることが出来るようになる……それの鍵となるのが、私は風魔法では無いかと考えた」
彼女はこちらに歩み寄って来て、僕の腕をぎゅっとつかんで見上げた。
丁度階段一段ぶん背が高くなった彼女と視線が真っ直ぐに合う。
無感情な瞳の中に見える狂おしい願いが、僕の目をどうしようもなく惹き付ける。
「あなたの力が必要……だから、今から行われる戦いに勝って……研究に協力して欲しい」
かつてこんな風に僕の力を必要としてくれる人がいただろうか。
応えたい……そんな気持ちが心の奥から湧き上がって来る。
「や、やります! 僕にできることなら……」
「ありがとう……そう言ってくれると思った。それじゃ、行きましょう」
彼女に手を握られ、僕は階上へと足を踏み出す。
屋上では、すでに先程の三人が待ち受けていた。
「来たか」「いい度胸である」
両隣の老人がそういった後、フォルワーグさんが、ごつりと杖を下ろす。
「脆弱な風魔法で何ができるのか、見せて貰おう。では行くぞ……出でよ、合成召喚 《アースベヒーモス》」
ズオオッ――!
三人が手を拡げ、地面に円形の魔法陣が浮かび上がる。
多人数でのスキルの合成!? 一体どうやってるんだ!?
「グォオオオオオオォン!」
そして目の前に姿を現したのは、恐らく、《ベヒーモス》の亜種である《アースベヒーモス》。
召喚の中心になったフォルワーグさんのスキルの属性が影響しているのか、巨大な角を持った獅子のような魔物は黄色い肌をしている。こんな化け物を出してこの塔は大丈夫なのかと思うけれど、わりと丈夫なのか崩れる様子はない。
僕はリタさんが下がるのを見て、ベヒーモスと対峙する。
荒い息を吐く大獅子は、四つん這いになりながら慎重に間合いをうかがっている。
《ベヒーモス》はSクラスの強力な魔物だけど、召喚されたものだし、場合によってはそれ以上の力を有していてもおかしくはない。
僕はすぐにおなじみになって来た支援魔法を唱える。
「《急加速》! 《黄風の狩衣》!」
すると、ぎょっとした顔で両隣の老人が目を剥く。
「なっ……二重詠唱と合成詠唱か!? 同時に四つもの魔法を使えるというのか!」「そんな逸材は宮廷魔法師にも数人しかおらぬぞ!?」
そして重々しく中央のフォルワーグさんもうなずく。
「成程……リタが推すだけのことはあるようじゃ。しかし、いくら速度や防御を高めた所で、このベヒーモスの堅い体を貫けはせぬ……ゆけ!」
「グオァウッ!」
巨体が跳躍し僕に躍りかかる。鋭い爪が僕の体をかすめる前に、僕は素早くその場を飛び出る。
さすがにSクラスモンスター。中々素早いけど対応できない程では無い。
本当に僕の体はどうしたんだろう……昔だったら、Bクラスくらいのモンスターと単独で戦うことすらためらう程だったのに。
振り下ろされる両手を交わして相手を翻弄しつつ、僕は股の間を抜け出し、振り向いたベヒーモスに後ろから魔法を唱える。
「《巻雨嵐》!」
僕の声が何重にもエコーがかる。
《ウィスパリング》で自分と同質の詠唱音を作り出し、《ウィンドバレット》を同時展開、合成。 多方面から一気に打ち出す。
ある程度の牽制になるはずだ……そう期待した僕の認識は甘かった……逆に。
「グォルアアアアアアァァ――――!!」
――ドシュシュシュシュシュ!
あっという間にベヒーモスの体がぼろ切れとなって霧散した。
あれ……?
僕はフォルワーグさんの方向を見る。
彼はきょと――ん……として目を小さくし、首を斜めに傾けた。
「え?」「え?」
両隣の老人も、同じように首を傾げ、黒い山高帽が斜めに揃えられる。
そして真ん中のフォルワーグさんは、重々しく言った。
「おかしいな……もう一回やらせてもらっていい?」
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