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勲章授与と、謎の少女

 数日後、王城の大広間に僕の姿は有った。

 

 数カ月に一回行われる勲章授与の式典に僕が招待された為だ。

 着いて来てくれたリゼリィ、ポポ、レポの三人は残念ながら宿で待機している。


 今回僕が授与される勲章は討魔戦功(とうませんこう)三等銅章という、単独で大多数の魔物の討伐を達成したパーティーや国から送られる物。


 そこまで珍しいものではないけれど、こうやって国王から直接授与されるとなると、やはり身が引き締まる。


 ちなみに、《黒の大鷲》としての最大の栄誉はゼロンが受け取った、討魔戦功(とうませんこう)一等金章の方で、しかもその時に同時にあの黒い魔剣《闇の王(ゲルバルド)》が貸与されたんだ。


 《魔剣》は、国が厳しく管理していて、総数は百本も存在しない。

 明確に国家に敵対しないという条件で貸与され、それを破ったと国が判断すれば魔剣は使用者の元から転送されて国庫に返還される仕組みになっているらしい。


 アルティリエさんが使っていた《白薔薇(リュシース)》なんかもその一つだよね。

 何か、細かい等級もあるらしいんだけれど、その辺りの知識は僕には無い。


「では、次の者、前へ」


 大臣の声で正装であるタキシードに身を包んだ僕は前に進み出た。

 目の前には国王様のご尊顔があり、僕は慌ててひざまずく。


「では、この者……フィルシュ・アルエアの戦功を(たた)え、討魔戦功(とうませんこう)三等銅章を授与する。近くへ」


 王様の命に従い、近づいた僕の胸に、手ずから鈍く光る丸い勲章が付けられる。

 さすがの威厳に僕はまともに顔を見る事すらできない……(まぶ)しい!


「おお、あの若さで……どうも冒険者らしいですぞ、さぞ有名なパーティに属していることでしょうな」

「それが……噂によると、あの《黒の大鷲》を追放されたらしいということじゃ」


 周囲の参列者がぼそぼそとするうわさが僕の耳に届く。

 うわぁ、こんな所までそんな不名誉な話が届いてるんだ……やだなぁ。


 そして何故か、それを聞いた王様の眉がビクンと跳ね上がる。

 彼の目付きが変わった。


「《黒の大鷲》じゃと? お主、あのパーティーに所属しておったのか……?」

「は、はい、そうであります!」


 突然のお言葉につい緊張して口調が変になってしまった僕に対し、王様はいきなり僕の胸倉をつかみ上げた。


「っ勲章の授与は止めじゃ、誰かこの者をここから()まみ出せいィィィィィッ!!!!」

「えぇぇっ……!?」


 タキシードからブチブチィと勲章がもぎ取られる――!


 僕は王様のいきなりの豹変(ひょうへん)ぶりに、仰天してすくみあがった。

 大臣が慌てて王様を押さえる。


「王よ……! 落ち着いて下さりませ! 元! 元で御座いまする!」

「元も前も関係あるものかッ! 《黒の大鷲》のリーダーのゼロンとやらは我が末姫を侮辱(ぶじょく)して(そで)にした愚か者じゃぞ! そやつと徒党を組んでおったこやつにやる勲章などあるかっ!」


 私情!? というか僕にそれ関係ないんじゃないの!?


「どぉけぇぇぃ! ゼロンとやらの代わりに一発殴らせろぉ!!」

「「お静まりくだされぇぇぇええええ!!」」


 王が数人がかりで大臣や重臣たちに抑えられている間に、僕は参列者の間から出て来た人物に抱え上げられる。


 それは礼装で着飾った第三騎士団の二人だった。


「ア、アルティリエさん、カールさん」

(済まないが、ここは王の顔を立ててやってくれ……)


 アルティリエさんはそうささやくと、カールさんと共に僕の両脇を拘束する。


「王命により、貴殿にはこの場から退場して頂く」

「……は、はぁ」


 こうして僕はよくわからないまま、勲章の授与も取り消されて式典から追放された。

 


「すまなかった。まさかあそこまで根に持っていようとは誰も思わなかったらしい」


 ここは第三騎士団の兵舎。


 形だけ拘留(こうりゅう)という体裁(ていさい)をとり、客室に案内された僕はアルティリエさんと差し向かいで紅茶をすすっていた。


「いえ……まあ、気持ちはわからないでも無いんですけど……国王様ってあんなに激しい方だったんですね」


 僕の中ではリミドア王国の国王様はもっと冷厳(れいげん)としているイメージがあったのだ。肖像画に書かれている王族の方って、大体そんな感じだし。


「我が国の国王たるワルトリアス・ホーリス・リミドア閣下は普段はとても理知的で、かつ公正な賢王とも呼ばれる偉大な御方なのだが、娘のこととなると思考能力が数段階低下してしまうんだ……今回はまだ国内の式典でましだったが……他国の人間にあんなところを見たあかつきには……!」


 彼女は頭痛に額を抑えるような仕草をした。


「だが、君の所の元パーティリーダーにも問題はあるんだぞ! 五女とはいえ、王家の姫君の求婚を断わるなど……よく無事冒険者を続けられたものだ。恐らく姫様からの直接の歎願(たんがん)があったのだろうが……」

「は、はぁ……」


 よ、良く分からないけど、僕の知らない間にゼロンが国王様の娘である末姫様を振って、それに怒った国王様がゼロンを罰しようとしたけど、それを末姫様がかばってくれたおかげで、《黒の大鷲》は何とか冒険者としての活動を続けていられたってこと……かな。

 

 冒険者ギルドは国営の組織であるから、確かに下手をすれば王族に恥をかかせたとして強引に解散させられていた可能性も十分にあったし、もっとひどい事態に発展した可能性もある。


 それが無かったのはひとえに温情処置と、もしかしたら、ネルアス神教会側から何か働きかけがあったのかも……?


 僧侶のメリュエルはあれでも、司教と言う教会の組織内でもかなり高い位置にいたんだ。女性がこの地位に着くのは本当に凄い事で、数万とも数十万とも言われるネルアス神教徒の中で彼女以外に数人しかいないらしい。


 僕らが王都で活動していた期間は凄く短かったから、とっくに忘れていてもおかしくはなかったと思うのに……それだけ怒りが深かったんだろうなぁ……。


「でも、どうして振ったりしたんだろう。僕の知っているゼロンと言う男は、何もかも人より上じゃなきゃ気が済まないって人でした。そんな彼がそのチャンスをフイにするなんて」


 姫君に見初(みそ)められるなんて、滅多にない幸運で望んで手に入るような機会じゃないのに。


「……下世話な噂だし、あまりこういうことをひけらかすのは好きでは無いが、当時、姫君は……その……少ぅし、ふっくら……しあそばされていてな。うむ、少しだぞ。ほんの少し……。げ、現在はそんなことはないのだ。非常に努力されて、標準の体型を保っておられる。おやせになられ……い、いや少しばかり身を引き締められた。尊敬に値する事だ……」


 彼女の渋面を見ると、まあ言わずともわかるような体型でいらっしゃったんだろう……。


 恐らくその予想は正しいし……王族の方との婚姻(こんいん)となると、かなり身分差があるから最低限叙爵(じょしゃく)を受けて、どこかの高位貴族の養子として迎えられるとかが必要になるのかなと思う……もしかしたらそういうのを嫌ったのかも知れない。


 ゼロンもずいぶん思い切ったことをしたものだとは思うけど、今更文句を言ってどうなるわけでもないので僕は会話を切り上げようと首を振った。


「ふう、まあ仕方ないですよね。せっかくの勲章授与がふいになってしまってクロウィ冒険者ギルドの皆には申し訳ないけど……帰ることにします。あまり長く滞在しても良い事は無さそうですし」

「ま、待った! そ、そんなにすぐに帰ることは無いだろう?」


 すると慌てた様子でアルティリエさんは僕の腕をつかみ引き留める。


「く、勲章の授与式は中止になってしまったが、恐らく追って君の元へ届けられるだろう。別人の過失で王が臣民の功績を取り上げたとあっては、国の信頼に傷がつきかねないからな。だから、しばらくの間君は王都にとどまる必要があると私は思う!」

「そ、そうなんですか? それなら、まあ……滞在費も出して頂いてますし、仲間達に王都を見せてあげられる機会もどれだけ見るか分かりませんから、お言葉に甘えますけど」

「良かったぁ……ふふ、ちゃんともう少し君の事を知りたくてな」


 彼女は心底ほっとしたように胸に手を当てて微笑む。

 いつもはキリっとした表情が格好いい彼女なんだけど、こんな風に笑うととっても女性らしい。


「時に君、年齢はいくつなのかな?」

「ええと、十九ですが……」

「なに!? 私と一つしか変わらないじゃないか! 後二つ位は年下かと思っていたぞ……」

「よ、良く言われます……」

 

 この顔のせいで年齢が低く見られがちで、良くケンカを売られたりしてたんだ。

 それが嫌で仮面でも被ろうかと思った事もあったくらい。幸いパーティーに入ってからは無くなったけどね。つい先日もクロウィの街で似たようなことがあったし。


「鍛えてはいるようだが、体も小さめだし……ちゃんと食事はしているのか?」

「最近は……以前はちょっと貧乏で食べれない時も有ったりしましたけど」

「ん……? 名高いパーティーに所属していたのにか?」


 おっと、口を滑らしてしまった。

 もうあまり前のパーティーの思い出を引きずりたく無いし、適当にごまかしておこう。


「そ、そんなに大したものじゃないですよ。色々消耗品とかお金がかかってましたし」

「そうか……冒険者も色々大変なのだな。機会があれば今度軍団長に冒険者ギルドへの予算増額について進言しておこう」

「あ、ありがとうございます……」


 そ、そんな権限まであるのか、この人。

 余りうかつな事を言わない方がいい気がするな。


「他にも、私にできそうなことがあれば、遠慮なく言ってくれたまえ……。こ、個人的な事でも良いんだぞ? 王都の事なら何でも教えるし、何か探し物があるなら出来る範囲で手伝おう……何か役に立てることは無いか?」

「と、特に思いつかないですが……どうして僕なんかにそこまで?」


 出会った当初、あれだけ目の敵にしてきたこの人は今や、頬を赤らめながらテーブルに身を乗り出して僕の事を見ている。


 こないだのあれは一時の気の迷いで、日をまたげは冷静になってくれると思ったんだけど……そうじゃないのか?


「あれだけはっきり言ったのに、まだちゃんと伝わっていないのか? 私は君に惚れたんだ! 好きな人の希望に添いたいと思うことがそんなにおかしいか!? 君はとても強いし、人に優しく、そして何と言うか、可愛いんだ!」

「可愛いって……動物じゃないんですから!」


 それは男としては微妙に傷つく言葉だ。僕だって、女の子を背中で()れさせるような男になりたいと常々思ってるのに……。


「う、うるさいな、何となく構ってやりたくなるんだよ! 仕方ないだろう……! なあ、本当に冒険者なんかやめて王都に引っ越してこないか? 毎日ご飯だって一杯食べさせてあげるし、欲しいものがあれば何だって手に入れて来る……君が望むなら火の中だろうが水の中だろうがベッドの中だろうがどこでも着いていくから……なぁ、頼むよ」


 彼女は涙ながらに僕の手を取って懇願(こんがん)する。こういうお願いって、普通女の人からされるようなもんじゃないような気がするんだけど……僕って……。


 そのまま彼女は席を立ってずずっと顔を近づけて来たので、僕も必然的に逃げるように同じように席を立つが、流石騎士、見事に間合いを詰められ壁際に追い詰められる。


 だん、と背にした壁に腕を突き、彼女は僕に顔をゆっくり近づけて来る。

 お互いの息も体温も感じるような位置で、僕らは見つめあっている。


「ちょっと、こ、こんなところで……止めて下さい! 責任ある立場でしょう!」

「良いじゃないか……ふふふ、私にはもう君しか見えないんだからぁ……」


 肌を真っ赤に染めた彼女の目はぐるぐると混沌に渦巻いていて、普通に身の危険を感じる。


 自分で何をやってるか認識してるのか分からないこの人を、僕が強引に突き飛ばして逃げようとした時、扉がバタンと開かれた。

 

「……アル、カールさんに聞いたらここだって……」


 そこに現れたのは、黒マントと山高帽に身を包んだ、無表情の一人の少女だった。

・面白い!

・続きが読みたい!

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