◆《黒の大鷲》のその後③(ゼロン視点)
レキドの街のギルドマスター執務室内――豪華な調度品に囲まれた部屋の中、机の前に足を掛けてふんぞり返っているにもかかわらず、俺の気分は最悪だった……。
さすがに二度も失敗する訳にはいかねぇ……。
先日、俺は前のギルドマスターを追いやる前から副ギルマスの地位にいた、リデル・エルノエと言う女に命令して支援魔法士の募集を掛けさせた。
そう、今俺の目の前にいるびくついたこの女だ……地味すぎてちょっかいを掛ける気にもならねえ……。
前マスターを追い落とした時に一緒に追放しても良かったんだがなぁ……面倒な事務仕事やらを任せるに最適だったから置いておいてやったんだ。優しいもんだろ?
まぁ、俺達はギルド運営なんか全く興味ねえからな。
話を戻すが、募集には大勢の冒険者が声を上げた。俺達《黒の大鷲》は国に十組もいないSクラスのパーティだからなぁ……。名前は全国に轟いていて、志望者の来歴を見るだけでもうんざりな位だった。だが……。
ガンッ……!
「――どいつもこいつも……三重詠唱はおろか、二重詠唱すらまともに使えねぇとは、どういうことだ!」
俺は踵を机に叩きつけて怒鳴る。
リデルがびくりと体をすくませ、書類を落としそうになりながら答える。
「も、申し訳ありません……!」
女が茶色の下げ髪を揺らして俺に謝罪したが、もちろんそんな事で俺の苛立ちがおさまるはずもねぇ。
「理由を聞いてんだよ、ボケナスが!」
「は、はい! じ、実は二重詠唱と言うのは魔法スキルに置いては超高等技術で、精神を乱すこと無く高速かつ正確に発音する技術、的確に二つの魔法を同時に思い浮かべる技術が必要となります! 並の冒険者では扱うことすらできないスキルなのです……ましてや、三重以上だなんて……」
イラつく女だ……それじゃまるであのクソ雑魚が、普通の冒険者よりマシみてえじゃねぇか。
そんなはずはねぇんだよ!!
「あぁ? フィルシュのクソ野郎は普通にやってたっていってんだろうが!」
「そ、それは……彼が優秀な魔法スキル使いだったという証明に……」
「黙りやがれ!」
「きゃっ!」
俺は足元にあった灰皿を思いっきりぶん投げ、壁にぶつかりそれは砕け散った。
その場にへたり込むリデルの元へ俺は歩み寄ると、女の襟首をつかむ。
「今度あいつの事を立てるような発言をしたらただじゃおかねぇぞ! ……わかったか?」
「は、はい……二度と」
女のシャツの上のボタンが弾け、胸元が露わになる。ちっ、胸だけはデケ―女だ……。
震えながらうなずくくリデルに多少溜飲が下がり、俺は舌打ちしたあと女を解放した。
「んでどーすんのよ。あいつにしか今までクラスの支援が出来ない以上、人数を増やす位しか解決の方法は無いんじゃない? 大所帯になって面倒くさいけどさ」
横合いからやる気のない声が掛かる。
シュミレだ。指で桃色のツインテールをくるくると捩じっているのは苛立っている証拠。
こいつは戦闘狂でしばらく血を見ないと落ち着かなくなってくるんだ。
もう大分キてやがるな……。
そう言った時にこいつの相手をするのもフィルシュのクズの相手だったんだがな……。あざだらけにされんのを見ている分には気分が良かったが、俺がやられる側はごめんだ。
「チッ……仕方ねぇか。オイ、リデル。速度、攻撃力重視の支援系スキルを使える奴を二人集めろ。Sランク以上の奴をな。報酬は十分に払ってやる……今やこのレキド冒険者ギルドの金庫は俺の財布だからな……」
「そ……それは」
俺はリデルの前髪をつかんで顔を近づけ殺気混じりの視線をぶつける。
「わかったか、わかんねえのか……どっちなんだ!」
「ひぃっ、わかりました……わかりましたから」
「最初っからそう言っときゃいいんだよ! 行け!」
「は、はいッ!」
突き飛ばすと、女は転びそうになりながら扉を開けて出ていく。
「あーっ、スカっとしない、あたしちょっと遊んで来るわ」
「……勝手にしろ。次のダンジョン討伐までには戻れよ」
「はいはい」
シュミレはそう言って扉を乱雑に開き出てゆく……男漁りにでも行くつもりかもな。
リオの奴は色々裏でヤベー事をやってるらしい。貴族やらに取り入るには金が要るからなァ……まあそれが俺が昇り詰める布石になるなら精々好きにさせてやるさ。
「では私も戻ります……神に祈りを捧げる時間ですので」
そう言って気配を消していたメリュエルが席を立とうとするのを俺は遮り、壁に押し付けた。
「待てよ……せっかく二人なんだ。ちょっと位付き合えよ……高え酒もあるんだ」
「ふふ……私が禁酒していることは御存じでしょう? そんな暇があるなら剣の修業にでも費やしたらいかがです? まだ加入当初の方が真っ直ぐな太刀筋をしていましたよ?」
こいつの眼はいつ見ても迷いなく澄んでやがる……。俺を前にしてこういう目をできる奴はそういねぇ……。面白え女だ……。
「ハッ、俺の腕が落ちたとでも言いてえのか……? この国に俺に匹敵する腕前の奴なんざそういねえ。まして俺の手にはあの魔剣がある。修行なんざしようがしまいが関係あるか」
「……大した自信ですね。それが命取りにならないことを祈りますよ……そこを退いて下さい。お互い馴れ合うのは何かを成し遂げてからで十分でしょう?」
メリュエルは妖しい流し目を俺に送ってするりと外へ出ていく。ちっ、グランドマスターになるまでお預けって事かよ……。まぁいい……。もう数年もすれば、全てが手に入る……金も、名声も、地位も、女も。
そして俺は、リミドア王国の冒険史に名を遺す男になるだろう……。
「俺は選ばれた人間なんだ……クク、ハハッ、ハハハハハハハ――!!」
「……汚らわしい……何故こんな男にあの人が……」
「……あん?」
高笑いを響かせる中、扉の外から絶妙な加減で発された声の断片だけが俺の耳に届いた。
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