騎士団長、デレる
凄まじい剣速の突きに加えて、無数の白い光が僕の体をかすめる。
あの魔剣の効果だ……。
ゼロンも持っていたけど、魔剣の力は本当とんでもないんだ。
剣ごとに固有効果を宿した魔法の武器。
詠唱無しで使用者の力量に応じてだけど、魔法攻撃がガンガンに飛んで来る。
「ハハハハハ! 私の《白薔薇》は無数の光魔法のトゲを辺りにばらまく! 避け切れるものなら避けて見ろぉ――!」
言われなくても避けなきゃ死ぬ。ウィンドウォールは掛けてあるけど、あれは少ない面積の攻撃にはちょっと弱いんだ。針で風船を突く様なものって言うか……破れはしないけど貫かれやすい。
僕は懸命に《スピードアップ》で上げた行動速度で見切りながら、攻撃を両手に生やしたウィンドブレードで弾き飛ばしてゆく。
あれ……いや、思ったよりきつくないな? 全然対応できてる?
「おお~、あの団長の攻撃をいなしてるぜ……すげえすげえ」
「いいぞ小僧~終わったらうちの部隊にこいよ! 団長のしごきを受け止められる奴がいないからみんな困ってるんだ! あんたが来てくれりゃ毎日訓練でボロボロにならなくて済む!」
そんな周りの兵士達の冗談交じりの喝采が飛び、練兵場の地面を穴だらけにしながら、アルティリエさんの顔が苦渋にゆがむ。
「……ッ! 流石だ、ならばこれは! 魔剣、細剣複合技《茨の檻》!」
恐らく、細剣技の移動技+連撃スキルか。彼女の姿がぶれて消え、細剣が魔剣で作り出した光のトゲのカーテンと重なって四方八方から襲い掛かる!
これはヤバイ……けど!
複合技ならこっちだってあるんだ!
「《旋刃風域》!」
《ウィンドブレード》+《トルネイド》の複合技。刃を備えた乱気流が僕を中心に渦を巻いて全ての切っ先を薙ぎ払う。
「なっ……そんな! うあぁぁぁぁっ!」
その勢いに彼女はとっさに防御姿勢を取るが、大きく吹き飛ばされる。
(いけない……やり過ぎたか!?)
攻撃の規模が大きすぎて空高く舞い上げられた彼女を僕は追って飛び上がり、抱きとめた後 《エアウォーク》でゆっくりと地面に舞い降りる。
腕に抱いた彼女の顔がみるみる真っ赤に染まった。
「な、ななな、貴様! 勝負の最中だぞ! くっ、離せ!」
「ふぅ……だってこのまま降ろすと地面でペチャンコですよ?」
「う……」
正直言って彼女程の戦闘能力の持ち主であれば今の兵舎の屋上位の高さなら無事着地できそうだったが、大人しくしているのでまぁいいんだろう。
数秒程でふわりと地面に落ちると、僕は彼女をゆっくりと下ろす。
「もう止めましょう……あの時のことなら謝りますから。本当にすみませんでした……卑怯なことをして。事情があったんです」
「お、思ったよりたくましいんだな、あなたは……分かった。あなたは私など足下に及ばない強さだった。こちらこそ、軽率に勝負を仕掛けたことを詫びる」
意外と殊勝な様子で頭を下げてくれる彼女。
これでお互い手打ちと言うことになりそうだ。良かった良かった。
「しかし、謙虚な方だな。あなたの方があのゼロンと言う男より余程強かったように感じたぞ? 少なくとも、私もこの半年で躍起になって修練を積み重ね、大分腕を上げたと思ったのだが……」
確かに前回のゼロンとの戦いではあんな技は使っていなかったし、よっぽど悔しかったんだろうな。
話がややこしくなりそうなので、僕はあいまいに手を振っておく。
「い、いいえ……彼もきっと本調子じゃなかったのかと。それに僕はもう彼らのパーティからは抜けましたから、関係ありません」
「そうなのか!? いや……しかし、個人的な事情なのだろうから詮索はすまいが……もったいない。そうだ! 君、冒険者など辞めて騎士団につとめないか!」
彼女はいきなり僕の元に走り寄ると、僕の手を両手で握り、子供のようにきらきらと目を輝かせた。
所々衣服が切り裂かれて、ちょっと正視しがたい部分があるので僕は目を背ける。
「君さえ承認してくれれば、三年、いや一年以内に君をこの国の騎士団長に押し上げて見せる! もし剣を振るのが嫌だというのなら、宮廷魔法士と言う道もある! 私の全権力を使って君の立場を盤石なものにして見せるから、わわ、わ、私の伴侶になってくれないか!?」
――どうしてそうなるのッ!?
「ひゅ~ひゅ~! あんたみてえに強い奴なら大歓迎だぜ! 団長の手綱を握ってやってくれ!」
「あの男っ気のない団長がついに……うぅ。これで仕事漬けの団長のストレスが減れば、俺達が八つ当たりの相手をしなくて済む。ありがとう小僧……くうっ」
何で誰も突っ込まないんだよっ!
歓迎の意向を示す囃子声が周りから上がり、僕は吹き出しそうになるのをこらえて叫んだ!
「は、伴侶って意味分かって言ってます!? 何でそうなるんですか!」
「分かっているに決まっている! 結婚すれば毎日一緒にいられるだろう!? そうすれば一緒に修行し放題だ! 一緒に強さの極限を求めて生涯高め合おう! きっと楽しいぞ!」
ああ……駄目だ!
この人見た目は容姿端麗なのに、中身はメチャクチャ筋肉思考の人だ!
ってか、この人が本当に騎士団長でこの国大丈夫なの!?
「ちょっと待って下さい! フィルシュは私の婚約者なんです! 勝手に求婚されても困ります!」
そして珍しく強気で駆け寄って来たリゼリィが、僕とアルティリエさんの間に入りにらみ合う。
「そ、そうなのか……い、いや、諦めないぞ! 私より強くて気立ての良い男なんて殆どいないんだ! 大体、婚約者と言うことはまだ正式に結ばれてはいないのだろう? なら私も彼の婚約者に立候補する!」
「そんな勝手が認められてたまりますか! フィルシュ、あなたと結婚するのは私ですよね!?」
「この娘より私の方が胸が大きいぞ!」
「私の方が多分若いです!」
「ぐっ……そ、そんなに年は変わらないはずだ! むしろ彼のような弱気な若者にはリードできる私のような性格の方があっていると思う!」
「そんなの、私だって頑張ればなれます!」
カールさんやポポレポの二人に視線を送るが、皆こちらに関わろうとはしないで目を逸らす。
「おお、修羅場だぜ。ゴクリ……」
「さすがあの年で勲章を貰うだけのことはある……連れも女ばっかりだもんな。羨ましいが、あれ程の強者ならうなずける……。団長、頑張って愛を奪い取って下さい!!」
兵士達は娯楽を見るか表情で、二人の一挙一動を煽り立てるだけだ。
争い合う二人を横目に僕はじりじりとその場から後ろに足をずらしつつ、魔法を詠唱する。
「《エアウォーク》!」
「あっ、ずるい! フィルシュ、逃げないで下さいっ!」
「結局どっちを妻にするんだっ! お前ら、追え! 投網でも何でも持ってこい」
「「「了解! 我々の未来の為に!」」」
知らないよ……! 勘弁してよ! そりゃいずれはとは思うけど……。
二人はぴょんぴょん飛び上がりながら僕を追って来て、なぜかその後ろから凄い数の兵士が僕を追いかけ、矢やら網やらいろいろが飛んで来る。
糸の切れた風船のようにフワフワ浮かびながらその場を脱出する優柔不断な僕に下から、
「モテる男は大変だな~」
「あっちも、そう思いますぅ」
と、並走する双子の暢気な声が空に向かってひびく。
いやいや、モテたことなんて無いけどさ……君達もそんなんじゃないって否定してよ。
騒ぎを王城内に広めるわけにもいかず、僕達はひたすら練兵場をぐるぐると回るハメになる。
「「フィルシュ(君)! はっきりして下さい(しろおっ)!!」」
(こんなことをしに来たわけじゃないんだけどなぁ……誰か、助けて……)
そして願いも空しく、結局それは陽が落ちて全員が力尽きるまで続いた……。
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