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六禍・紫雷のオルフィカ②


 腕に魔力を大きく集め、オルフィカはネリシアの背中を踏みつけにして選択を突き付けた。


「――(なげ)かわしい……この程度で音を上げるとはな。やはり人などに(くみ)しようとした愚かな裏切りものには、相応の末路しか用意されておらんのだ……。さあ、存在ごと消滅させられたく無ければ言え! 《邪器》輪廻珠(りんねじゅ)の片割れ、《白生珠(はくせいじゅ)》のありかを!」


「ク、ハハ……貴様などにやる位ならば砕いて捨てた方がマシじゃ。とっととわしを殺して自力で世界中を探してみるが良い……絶対に見つからんと思うがな」

「キサマ……! いい度胸だ……ならばこの雷に()かれ、(ちり)一つ残さず分解せよ! 《雷崩(らいほう)》……!!」


(――間に合わないっ!)


 遠くで魔力が集中し、紫色の雷電がふくれ上がるのを見た僕は、魔剣《青き翼(フュール)》を引っさげて飛びだす。


「《水精王(ドラグーン・)の左翼(レフトフェザー)》!!」


 そのまま(みどり)色の魔力の翼をたなびかせ、強烈な推進力と共に突撃。

 驚いたオルフィカがこちらに特大の雷球を向けるが、それをそのまま貫き切っ先は奴の胸に近づく!


「ムゥッ!!」


 だが、すんでの所でそれは腕に(はば)まれ、奴はそのまま後ろに体ごと吹き飛んだ。


「――ハァ、ハッ、ハッ……」


 荒い息を吐き僕はその場でよろめく。


 前回ほどではないが、立て続けの二連の大技。

 魔力をかなり消費し……立っているのがやっとだ。


「お前……なぜ。逃げたのでは……」

「なぜもクソも無いよっ! たとえ魔人が中にいようが、ネリュは僕の家族なんだっ! 絶対に助けるに決まってるだろ!」

「……フン! お前がまぎらわしい真似をするのが悪いんじゃろが! じゃがまぁ、手下を片付けて駆け付けたのは()めてやらんでもない……」

「なんで偉そうなんだよ……負けそうになっておいて――」


 ――ゴゴォォン! ゴゴゴゴゴ!


 オルフィカが吹き飛んだ方向の岩山が音を立てて崩落(ほうらく)する……一体何が!?


「いかん、奴め……本気でブチ切れおったぞ! ええい、お前とっとと魔力を回復させろ!」

「やってるよっ!」


 ベルトポーチから取り出したガラス(びん)の青い中身をあおるが、焼け石に水だ。

 《マナブリーズ》でゆるやかに魔力は回復し始めるが、オルフィカは鬼気迫る表情で周りに破壊を()きちらしながら、こちらに向かってくる。


「そんなもんでは間に合わんわ! くそ、こっちを向けッ!」

「うわっ!」


 ネリシアが背中にピョンとしがみ付くと、僕の顔を強引に横へ向け……。


「《譲魔の触(マジカル・シード)》! む……」

「――――!」


 口元にむにゅっとした柔らかい感触が押し付けられ、急速に魔力が体に流れこむ。


 疲労で固まっていた僕が反応するより前にそれは終わり、ネリシアは顔を離すとちろりと唇を()めた。


「お、お前……なんてことを」

「ハッ、接吻(せっぷん)の一つや二つでぐだぐだと器の小さきことよ……直接体内にぶち込むのが一番速いんじゃ。それより光栄に思うのじゃな、人間ごときがわしの魔力を授けられたのじゃから」

「ふざけんな! 最悪だ……後で覚えてろよ」


 確かに魔力は最大に近いほど戻ってはいる……だけど、それはネリュの身体でしょうが!


 緊急時で仕方ないとはいえ、滅茶苦茶をするネリシアに僕は頭が痛くなる……体を造り替えたとか言ってたし、アリなのか? ナシだろ……!!


 とはいえ悠長に構えている暇もない。


 オルフィカが瞳に憎しみをみなぎらせついに戻って来た。

 多少のダメージこそあれ、それはかえって奴の怒りに火を付けてしまった様子だ。


「人間、フゼイがァァ……! 私に何をシタァァァ!!」

「ではワシは隠れて見ておるぞっ! あとはうまくやれよっ!」


 いつのまにか幼女サイズに縮小したネリシアが岩陰へと走ってゆき、僕はオルフィカを迎え撃つ。


「《紫雷箭(シライセン)》ッ! センセンセンセンセンセンッ!」

(うるさいな……!)


 狂ったように雷の矢を打ち込んで来るオルフィカ。

 先程とは違い、魔力に黒い物が混じっている……なんだ?


 弾幕のようになったそれを()いくぐりながら、僕は風刃(カッター)風弾(バレット)などの遠距離攻撃魔法でようすを見るが……奴は当たるに任せ、どんどんと怒りをたぎらせてゆく。


不遜(ふそん)驕慢(きょうまん)・過信・楽観ッ! どれだけキサマは私をイラつかせるッ!」

 

 オルフィカがその手に雷で出来た槍を生み出し、一気に突きかかって来た。

 電光のような穂先を《青き翼》でいなすと……オルフィカから奥歯を噛み砕かんばかりの歯ぎしりが聴こえる。


「それ程の力を持ちながら人を救おうなどと……(いびつ)な神霊共の手先め! キサマなど、あの木偶(でく)のように黙ってワタシにその身を捧げていればいいノダ! この弱小種族ガァァ!」


 黒面(こくめん)のことか……?


 やはり奴も、何らかの方法でリオのようにその体を改造されて作られた魔人なのか……双子の魔人にしたことといい、こいつは他の種族も自分の種族も実験道具程度にしか考えていないんだ……!


「お前は……命を冒涜(ぼうとく)してる! 生命を(いじ)って他の者に造り替えるなんて……許されることじゃない!」


「フハハ、おろかナ……キサマラのものさしで測るなよ。吐いて捨てる有象無象をいくら集めようと、所詮(しょせん)なにも変えられん! ワタシはそんなゴミクズ共を有効活用してやっただけだ! より能力が勝るものが、下位の物を支配する……それが正しい世界の在り方ダロウガ!」

「そんなことない! いくら力が弱くて、お前にとって価値が無くても……僕らにはかけがえのない大切な希望なんだ!」


 一人一人に宿っているその可能性を信じて、繋いで、僕らは……ここまでを進んで来たんだ。それを理不尽に終わらせようとするこんな奴は……絶対にここで止める!


 次いで一旦距離をとったオルフィカが撃ちだす雷の槍が五本に分裂して、立て続けに襲いかかる。激しくまたたくそれをまともに受けたら、行動停止に追い込まれてもおかしくない。


 僕は水の魔剣を横に構え、魔力を注ぐ。

 魔剣から水が(あふ)れ出し、僕と雷を(へだ)てる丸い水の膜を形成。


「《結水壁》!」

「ムッ……」


 ――バヂヂヂヂィッ!


 雷は壁に触れた途端強烈な光を発し、相殺する形で消える。


「小賢……シイ……ウァァ」


 何か様子が変だ。


 奴の紫色をしていた魔力がだんだん、侵食されるように黒へと()りかわってゆく。

 だが、この(すき)を逃す手はない……!


「こっちから行くぞっ! 《斬空の(エアスラスト・)裂風破(スプリッター)》!」


 右手を突き出して放つ《ガスト》+《ウィンドカッター》の合成魔法。小さな風刃混じりの突風が、魔人の体を削ろうと押しよせる。


「《雷縛網(らいばくもう)》ッ……」


 雷の網が展開されるも、防御用のものでは無いのか分割した鋭い風刃の小片を完全には防ぎきれず、体中から血を流している。


 だが、それが発端となった。


「フゥァッ! 二度目だぞッ……人間風情が、ワタシに……血ヲ……オァアアアッ!」

 

 奴の懐からひとりでに漆黒の球体が飛び出し、体を包みこむ。


黒壊珠(こくかいじゅ)が奴の感情に触れて暴走しよった! ま、まずい……今すぐ奴を止めろ――!!」

(止めろって、どうやって……!?)


 ネリーシアがどこからか(さけ)び声をあげ、反応した僕は球を破壊しようと魔剣で突きかかる。しかし……。


 ――それでは遅かった。


 全身が黒く染まった奴の背中に、球体がドプンと沈み込み……その瞬間、全方位に向かって鋭い電撃が発散される。


「オオオオオオオオオオオオォォォ――ン!!!!!!」

「うっ……わぁっ!」


 天に体を反らせて咆哮(ほうこう)するオルフィカ。


「どうなって、るんだよっ……!」


 途中で攻撃を取りやめた僕は、大きく後ろへと下がるとネリシアに詳細をたずねるが、彼女の返答は当てにならないものだった。


「わしにもわからん……元々あれは《白生珠(はくせいじゅ)》と一対であり、半邪半聖の力を融合させることでそのバランスを保って居ったのじゃが、オルフィカと長く共に在ったことで奴と同調し、負の感情が閾値(いきち)を超えたことで暴走したのかも知れん。なんにしろ、ヤバい……」


 結論それって……!


 オルフィカは今や、影のように黒い体に翼を生やし、浮き上がって僕達を見下ろしている。


「ゼゼ……絶ゼツ……ゼツッ、ボウォォォオオオオオオ!」

(――――ッ!)


 僕はその不快な反響を伴う凶声(きょうせい)に禍々しい怖気(おぞけ)を感じ……背中を冷たい汗が一筋流れ落ちた……。

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