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六禍・紫雷のオルフィカ①

「――体を少々つくり変えるぞ……ハァッ!」


 言葉と共にネリシアの魔力が収束し、その体が十二、三歳のものくらいまで成長した。肌は浅黒くなり、長い頭髪の左側は白く染まる……口元からのぞく犬歯が鋭く禍々(まがまが)しい。


「人の体で無茶苦茶するんじゃないよっ!」

「うるっさいわ! この場で死ぬよりよっぽどマシじゃろうが! 騒いどらんでお前はとっととその気味悪いのを片付けんかッ!」

「くっ……」


 オルフィカがけしかけた黒面がせまり、ネリシアごと支援魔法で体を包んだ僕は《青き翼(フュール)》を抜いて斬り結び始める。


 奴は以前よりも力が増しているような感じがする……しかもあの腰に差しているのは――新たな魔剣!?


「――フッ、その小さい体で本当に私とやり合うつもりか?」

「小知恵だけ回る半端者には丁度いいじゃろ? さんざ痛めつけてやったのを思い出してみろ、お主こそみっともなく地に伏して許しを()うたなら、そのまま見逃してやってもいいがな?」

 

 そして僕らとは少し離れ、なにか強い因縁でもあるのか(にら)みあう二人。

 ネリシアが浮かべた見下すような笑みに、オルフィカの顔がどす黒く染まる。


「貴様ァ……まだ私の上でいるつもりか……。ならばァ……存分に、コ・ウ・カ・イィ……しろおォォ! 《紫雷箭(しらいせん)》!」

「ははっ……すぐに頭が沸騰(ふっとう)しよるのは相変わらずじゃな!」


 激高したオルフィカの指から雷撃の矢が次々と放たれ、ネリシアは足元を穿(うが)つそれを飛びはねて避けた。


「小娘がァ……《雷糸鞭(らいしべん)》!」

「《陰陽扇(おんみょうせん)》!」


 続いてオルフィカの十の指から伸びた雷光の(むち)を、ネリシアは両手を交差させて生み出した白と黒の扇で打ち払う。


 僕が見ていられたのはそこまでだ……黒面も黙ってはいない。

 黒い魔剣に魔力を循環させ、闇の斬撃をいくつもこちらへ飛ばして来る。


「…………」 

(あの時みたいに、こいつを倒すのに全力を使うわけにはいかない……) 


 僕は消耗の多い魔剣《青の翼(フュール)》一度仕舞い、詠唱した。


「《環り裂くもの(アニュラス・リパー)》!」


 ネリシアの援護に向かうことを考えると、消耗が大きすぎるこの魔剣は使えない……少なくとも今はまだ。


 風の輪を刃の形に変形させ攻撃をさばき、そのまま攻めに転ずる――それを思いとどまらせるかのように黒面がもう一本の剣を抜いた。


 敗北後、新たにオルフィカに与えられたのだろう。

 優美さの欠片も無い、鈍い銀色の幅広剣。


 遠くから魔人の高笑いが響く。


「クク……それも奪ってやったものだ、人間からな! 同胞(どうほう)の生み出した技術でなぶり殺しにされるがよいわ!」

「よそ見をする余裕があるのかッ! たわけ!」

「……がっ!」

 

 ネリシアが衝撃でオルフィカを吹き飛ばし黙らせる。

 今のところ力は拮抗(きっこう)しているのか、こちらに集中してもよさそうだ。


 ――バキ、ビキキッ!


 無言の黒面が左手の新たな剣を水平に構え、刀身に大きな亀裂が入りだす。

 それは(きし)んだ音を立てると無数の金属片へとばらけ、一斉に僕に向かって飛来してきた。


「なんだ……ッ!?」


 瞬間的に身をひるがえして離脱した空間を通り過ぎた、きらめく破片の群れ――それは再び刀身に集まると、またこちらに襲い掛かって来る。


(分割と、再構築か!?)


 ガスガスと後ろの地面に突き刺さる音を聞きながら、僕は回避に専念するしかない。


 おそらく足を止めてあれを迎撃すれば、間合いを詰められて右手の黒剣に斬り裂かれ……無視して懐に入っても、死角から破片の攻撃に貫かれるという二段構え。


 銀剣の刀身を破壊しようにも、どこまで細かくすれば使用不能になるのかもわからない。


(風弾で本体を削るか……? いや……)


 黒面のあの黒い外甲は相当な硬度がある……ちまちま遠距離攻撃を放ってもらちが明かないだろう。


 結局僕が出した結論は次善の策、短期決戦で可能な限り消耗を抑えるしかない……ということだった。


(やるしか……)


 策を実行しようと抜き放った《青き翼(フュール)》を構える間に……またも破片が魚群のようになだれ込む。


 僕はそれに背中を見せて全力で後退し、その様子を見たオルフィカが愉快そうに身悶(みもだ)えた。


「ハハハ見ろ、奴め逃げ出しおったぞォ! 魔人を(おとり)にするとは、中々いい判断ッ! 残念だったなネリシア……貴様は捕らえてじっくり《邪器》の場所をォ、ハ・カ・セ・てやろゥゥ! 《雷梢刺(らいしょうし)》!」

「もともと奴など頼りにしておらんわ……ッぁぁあ!!」


 ――バリバリバリッ!


 地中から突き立つように出現する雷の林を、ネリシアは連続後方宙返りでかわそうとするものの……その中の一本が腕をかすめ電流が身を焼く。


「……げほっ、なめよって……」


 魔力でガードしたようだが……体から煙が上がり、苦しそうにあえぐ。


(何とか持たしてくれよ……)


 もちろんネリシアはともかく、僕がネリュを見捨てるなんてありえない。

 目的の為に後ろにわざわざ後ろに下がったんだ。


 遠ざかる黒面の姿が小石のようになり、あるところで破片の動きがピタリと止まる。


(ここっ……!)


 ――距離制限。


 それらがゆっくりと刀身に戻りだすのを予測していた僕は、詠唱した魔法を思い切り叩きつける!


「《風神の鉄槌(ヴィレアス・ブロー)》――!」


 ベキベキベキッ――!


 空気の大鎚が地面を割る勢いで魔剣の動きを封じ込めると、すかさず連続詠唱……。


「――と、《スピードアップ・ダブル》ッ!」


 僕は土を蹴り限界まで加速して破片を置き去りにし、黒い魔人へと一直線に突き進む。


 一瞬で目前に詰め寄った僕に、虚を突かれた黒面のは全く反応できない。


(今だ……!)


 身体が軋む程の速度で青い魔剣を振り抜く。


 一閃……!!


 蒼い残光を残し、完全に上下に分かたれた黒い甲冑が重たい音を立て地面に転がった。


(……やった、今度こそ……?)


 ほっとしたのも束の間……またしても上がる悲鳴。


「――ぎぃっ!」

「口ほどにも無い! 泣けるな、これが元六禍のなれの果てとは……」


 服をボロボロにして()いつくばるネリシアを上から蔑み、オルフィカが片腕を突き上げる……。


 黒面の二度目の死は確認すべきだが……今はそれより、(ネリュ)の体を使って苦戦している馬鹿を助けないと――!

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