騎士団長が襲って来た!
王都内に入ると、流石にひどい人混みに戸惑う。
そんな中、多くの人達がカールさんに羨望の目を向けているのを感じた。
流石は王国騎士団部隊長、格好いいもんなぁ。
「どうする? できれば今日中に団長と会って頂きたいが……君の都合次第では後日に回しても構わないと言われている」
「う~ん……」
彼がそんな人々に手を振って応えながら僕達にたずねたので、少し考える。
僕も王都に来たことは冒険者時代一度だけだ……メリュエルを教会からスカウトした時の一度だけ。
あの時の話はちょっと長くなりそうだから省くけれど、やっぱり一度ゆっくり観光してみたいとは思う。と、なると先に用事は済ましておいた方がいいんじゃないかな。
「皆が良ければ、先にお会いしようかと思うんだけど、どうかな?」
「私はもちろん、フィルシュにお任せします」
「あたし達もそれでいーぞ」「ですぅ」
手を打ち鳴らす双子の言葉で景気よく決定。
僕らはカールさんに連れられ、王城へと向かう……。
――大門を抜け、華やかな庭園部を横切って僕らがたどり着いたのは、いくつかに別けられた兵舎だ。
一つ一つがとんでもなく大きい。
その中の一つにカールさんは僕らを招き入れ、奥に進むと一つの扉の前で足を止めノックした。
「団長、例の者達をお連れしました」
「いいぞ、入れ」
両開きの分厚い扉が開かれ、執務机に座った一人の人間が立ち上がりこちらに向かって来る。
僕はその人に思わず目を奪われた。
高めの位置で結われた髪も、吊り上がり気味の美しい瞳も真っ黒。凛とした雰囲気をまとったとても美人な女性で、体にフィットした上下の団服は、その印象に反して彼女の女性らしい体形を際立たせていた。
おっと、こんな視点で見るのはちょっと失礼だ。
彼女は王国を守る栄えある騎士団の隊長の一人なんだから、そういう目で見てはいけない。
「良くおいで下さった。私はリミドア王国第三騎士団、騎士団長を務めている、アルティリエ・リルクローブと申す者だ。この度は多くの人命を救った功績にか――」
真っ直ぐな目線を受け、体を強張らせて固まっている僕に笑いかけた彼女の言葉が……そこで止まった。
そのままわなわなっと、指先を動かす彼女を、カールさんも不審に思ったようで口を開く。
「どうされた、団長殿……!?」
「――フィルシュ・アルエアとは貴様かァ! 一騎打ちを所望する! 表へ出ろおおおおおッ!!」
「だ、団長、いきなりどうされた!? 乱心召さるなッ!」
どうしてこうなった――!
目の前で怒鳴り散らす騎士団長の手から伸びた白刃が喉元に刺さりかけ、僕は驚愕しつつ思いっきり後ろに仰け反った。
◆
今僕は、殺風景な練兵場に連れ出され、何故か騎士団長と向き合わされている。
「おいおい、何が始まるんだ……」
「団長が、あの坊主と立ち会うんだってよ。なんでも勲章授与式で王都に呼ばれたみたいだが……強そうには見えないがなぁ」
周りの兵士達のざわめきが広がる中、人を殺しそうな笑みで顔をひきつらせているアルティリエさんの、怨念のこもる視線が僕に向く。
「ッフフ、覚えていないとはいい度胸だ……貴様、あんな八百長試合に加担しよって……」
「八百長って……あ、ああ――――ッ!!」
お、思い出したっ!
ゼロンがギルドマスター昇格試験で立ち会った騎士団長が、他ならぬこの人だったんだ!
あの時僕は呪いの首枷のせいで意識がもうろうとしてよく覚えていないんだけど、確かこの人に間違いない……!
ゼロンに強制され、僕は試合中に少しだけ支援魔法をかけてしまったんだ。
それもあってゼロンは彼女を完膚なきまでに打ち倒し、ギルドマスターへ昇進した。
「あんな無様な負け方をしたおかげで私は、筆頭騎士団長を追われ、一騎士団の団長に成り下がったんだ……後から魔力の跡をたどって判明したものの、弁明は許されなかった……」
ギリギリと白手袋に包まれた手を握り締める彼女。
気持ちはわかります……本当に申し訳ないと思うけれど、それを今言っても火に油を注ぐだけだろう。
「ええと、それで僕はどうすれば……?」
「決まっている! 今ここで私と立ち会え!」
彼女はまたしても腰の白いレイピアを抜く……恐らくあれは魔剣だ。
強い魔力の波動が渦巻いて見える。
「いやいや、ちょっと待って下さい! それなら直接ゼロンに怨みを返すべきじゃないんですか!?」
「もちろんそれもする予定だが、加担した貴様も断罪されるべきだっ! ぎったんぎたんにしてやらねば気が済まん!! 剣を取れ!」
無理だ、これは何を言っても聞きそうにない……完全に頭に血が上っている。
僕は藁にもすがる思いでカールさんを見たが、彼は優雅に肩をすくめただけ。
どうやら自分で何とかしてくれと言うことらしい。
「どうした! 武器を出せ!」
「ぼ、僕は魔法士です! 武器は扱えません!」
「なら貴様は素手で構わんな! ぶちのめす!」
あ、駄目だ、もう完全に他人の話とか聞いてないや。
「問答無用……!」
「っ!」
白色の閃光が僕の肩口を突き抜ける。首をひねっていなければ貫かれていた……。
脅しじゃない……もうやるしかない……!
「ちょこまかと! ハチの巣にしてやるッ!」
「《急加速》、《黄風の狩衣》、マナブリーズぅおおおおおお!!」
僕は針山のように迫る光の矢に逃げまどいつつ行動、移動速度上昇と、風属性防御、攻撃力付与、魔力回復補助の支援魔法を連続で詠唱する。
表彰されに来たはずなのに、なんで殺されかけなきゃならないんだよぉぉぉぉ!!
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