伝えたい大事なこと
その後、リーセン次期族長は僕に色々と楽しい話をしてくれた。
村の皆と狩りに行った飛行型の魔物にまたがったまま連れさられ、しばらく帰って来れなくて皆を心配させた話や……ダロン族長と飲み過ぎて記憶を失くし、朝起きたら嵐の中軒先に一緒に吊るされていた話。
他にも村で一番の美人だったメイアさんの気を引こうと色々馬鹿をやってして失敗して、それをきっかけに仲が深まった話とか。
彼はなにがあっても楽しそうに笑える……そういう人みたいで。
見習うべきところは沢山ある……けれど最後に彼はこうも言った。
「言っておくけど、私は私、君は君だからね。無理に真似しようなんて思わなくていい。いい所も悪い所も一杯あるキミが好きで皆ついて来てくれているんだから、迷うことなんてないさ。思ったように自然体でいればいい。大丈夫、きっと……うまく……いく……さ。……ふが……んごぉ~……」
そう言い切ると、彼はそのままバタンと後ろに倒れて寝てしまった。どうやら、結構お酒が回っていたみたいだね……。
僕はリゼと顔を見合わせてくすりと笑うと、彼を寝所まで運ぶ。
途中でメイアさんと出会うと、彼女は苦笑しつつ頭を下げて……片づけはしておくから先に休むように言ってくれる。
「それじゃ、お言葉に甘えましょう。フィル、こっちです」
そうしてリゼが僕を案内してくれたのは……。
「ここって……もしかして」
「はい、私の部屋です」
屋敷の二階にある、小さな部屋。
メイアさんが手入れをしてくれているのだろう……長く離れていたわりに、そこはほこり一つもなく清潔だ。
女の子らしい衣装、本棚、細々としたものが置かれている部屋の真ん中に寝具を敷いて、リゼは僕をそこに座らせ……そして横になる。
「ええと、リゼ……あの」
どうしたらいいかわからずに、頭の中がパニックになる僕に、彼女は優しく微笑んだ。
「わかってます、今日はそういうことは望んでいません。でも、できる限りあなたと一緒に過ごしたくて。……少しだけ、眠る前にお話をしませんか?」
「うん……わかったよ」
彼女が、緊張しながら寝転ぶ僕に毛布を掛けてくれて、隣り合った状態でぼんやりと見つめ合う。
こうやって一緒に眠るのは、三度目かな。出会った直後と王都で酔っぱらった時のことは数えていいものかどうか迷うけど。思えば彼女と出会ってから、もう季節が替わる位の時間が経っているんだ。
「あっという間だったね……これまで」
「……そうですね。とても楽しい毎日でした……色んな人と出会って、一緒に暮らして。新しい家族が出来たみたいで……新鮮で。フィル、左手を見せてくれますか?」
彼女は腕を伸ばし、僕の差し出した手と絡めてうれしそうに微笑む。
「ほら、見て下さい。私にも神様が祝福をさずけてくれたんですよ……」
彼女の細い手首にも、僕の《精霊の祝福》と同じようにぐるりと一周したリング状の黒い文字が踊っている。
「おそろいだね……」
「そうでしょう? ……あのね、私ずっと不安だったんです。あなたがどんどん強くなって、一人で誰の手も届かない所へ行ってしまうんじゃないかって。だから、これが表れた時本当にうれしかった……これでまだ、あなたのそばにいられるって」
ああ、そうか……と僕は思った。
彼女はずっとそれが心配で……僕と一緒にいたいっていうそれだけの為に、朝早くから戦闘訓練をしたり、危険なこともあるギルドの仕事を懸命にこなしてくれていたんだ。
「……フィル、この先なにがあっても私はあなたにずっと着いていきます。だからなにも心配しないで、顔を上げて進んで下さい。私もあなたの大事な物を一緒に守りますから」
「リゼ……」
その優しい空色の瞳は、いつも僕を抱きしめるような暖かさで包み込んでくれる。
僕は、この子が……好きなんだ。
可愛くて、しっかりもので……たまにやきもち焼きでおっかないところもあるけど、でもいつも僕のことをこんなに真っ直ぐに見てくれて。
一緒にいるだけで、こんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。
きっと、何度生まれ変わっても、彼女みたいな人には出会えないと思う。
しばらくの静寂の後……僕は彼女にならって少しだけ勇気を出してみる。
「ねえ……リゼ」
「はい……?」
少し眠くなって来たのか、とろんという瞳をしてリゼは首をかしげた。
「……キス、していい?」
「…………はい」
彼女は、そんな僕の気持ちを分かっていてくれたのか……体を少し寄せ、お互いの体が触れ合う距離で目をつぶった。
「……どうぞ」
「う……うん」
うっすら頬に朱が差したリゼは微動だにしないで僕を待ち受けた。
でも、回した腕から伝わる彼女の鼓動もやや急ぎ足で……ちゃんと意識してくれているのが分かり、僕はほっとして彼女の桜色の唇に顔を寄せた。
………………。
――静かで満たされた時間はあっという間に過ぎてしまう。
「……ふぅ」
「……ふふ、お上手でした。なんて、私も初めてだから良く分からないですけど」
リゼがニッコリと笑った後僕の胸に顔を埋めて来て、その後ろ頭をゆっくりと撫でる。恥ずかしそうに三角耳がパタパタと動いているのが可愛い。
「君が好きだよ、リゼ」
「はい……私も。何物にも代えがたいくらいに……」
この時、僕はある決心をした。
ちゃんと自分の全てを知って欲しいから……かつてラグラドール山での夜に言えなかった話を、今ここで。
「話していいかな……僕の昔の話を。君には隠しごとはしたくないから……聞いてもらえるとうれしい……」
「もちろんです……あなたの事ならなんでも知っていたいから」
今は、あの時のような恐怖は感じない……そばに彼女がいてくれるから。
僕はゆっくりと話し出す……このリミドア王国を訪れることになったあらましを。
かつてあの国で僕に起こった出来事を……。
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