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狡猾な魔人の罠

 残りはこいつ――黒い騎士甲冑(かっちゅう)を付けた魔人、黒面(こくめん)だけだ……。


 抱きあげたヨルを下に降ろし、僕は魔剣をにぎりしめた。


 十字に断たれたロガは当初体を再生しようと動かしていたようだが、ダメージが有りすぎて傷口は埋まらず……もう体は半分以上くずれ、意識も消えている。


「よく耐えてくれたね。後は、僕がやるよ……任せて」

「……未熟な我らをお許しください」

「くやしーな、ちくしょー……」

「あっちらじゃほとんどダメージを与えられなかったですぅ」

「フィルシュ君、気を付けて下さい……奴はさっきまでとは違う。まるで、戦えば戦うほど力を取り戻していくような……」


 僕は彼らを安心させるために笑顔を見せ、クラウゼンさんの言葉にうなずく。


「大丈夫です。この魔剣のおかげで、今なら……」


 《青き翼(フュール)》の刀身は僕の体から物凄い量の魔力を引き出し始める。

 これまでにない力の高まりを感じて僕は、習得を試みていたある魔法を試す。


「……《永巡航路(エターナル・クルーズ)》」


 新魔法……《永巡航路(エターナル・クルーズ)》――《ヘイスト》+《スピードアップ》+《マナブリーズ》の三合成魔法。


 三つの魔法のイメージを集まった膨大(ぼうだい)な魔力で強引に補強する。

 僕の体から風と水が混ざったようなエメラルドグリーンの光が放たれ、皆が目を細めた。


「おぉ、主様の体が……美しい」

「すげー……」「ぴかぴかしてますぅ……」

「この津波のような魔力……空気が震えている。これが、《継承者》なのか」


 黒面が鎧を(きし)ませ、剣を両手で垂直に構えなおす。

 背中から黒いマントのように、闇の魔力がたなびく。

 

 だが、それを前にして……僕は脅威(きょうい)に感じることはなかった。


「……行くぞ!!」

 

 掛け声とともに僕は正眼に剣を構え……そこから、光をまとった魔力の翼が大きく拡がる。


 それを突き出したまま僕は真っ向から黒い魔人へと飛びこんだ。


 ――ゴオッ!


 そして迎え撃つ黒面は無言のまま、闇色の魔力を立ち昇らせた剣を真上から(かす)むような速度で振り下ろす。


「――《水精王(ドラグーン・)の左翼(レフトフェザー)》!」 


 ――ズドォッ……ゴゴゴゴゴッ!


 竜の幻影をまとい突き進む僕と、黒い嵐のような魔力が部屋の中央で衝突し……せめぎ合う。


 だが膠着(こうちゃく)は一瞬で破られ、黒面の剣を弾いた僕の剣が奴の中心を大きくつらぬく!


「…………!」


 そして物言わぬ魔人の巨体は後方へと強く吹き飛ぶと……半ば壁にめり込む形で衝突し、沈黙した……。


「――……やった」


 誰かのつぶやきを皮切りに、後方から歓声と共に仲間が向かって来る。


「や、やった……フィルすげーよっ!」「一撃必殺!! 格好良すぎますぅ!」

「……主様はいつも我々の想像を越えてくる……言葉が見つかりません」

「若者とは……まぶしいものですな」


 そんな皆の称賛(しょうさん)を受けながら僕は体をふらつかせた。


「はは、ありがとうございま……す」


 思ったよりも魔力の消耗(しょうもう)がきつく、立っていられない……この剣を扱うべき本来の《継承者》ではないせいもあるのか、今の僕の手にはこの剣は手にあまるようだ。


「……主様!」


 何とか意識を保つのが精一杯の僕を、ヨルが支えてくれた。


「ごめんね……」

「なにをおっしゃいます! 主様は立派にお役目を果たされました……今は――」

『――クククククク……ウフフ、フハハハハ……すさまじい力だった。お見それしたよ』

「「「………!?」」」


 唐突に――不快な笑いと共に男の声がどこからか響き、皆が緊張にその体を強張らせる。


 なんだ……一体どこから……!?


「あ、あそこからだっ!」「ですぅ!?」


 ポポが一点を指さし、皆の視線がそこに注目する。

 その場所にはあったのは魔人ロガのくずれた遺灰と、そこに埋まる黒い核石だ。


『よもや、《霊具》もなしにここまでの力を発揮できるとは……。恐ろしい力を秘めた《継承者》……だったな』


 核石の明滅と共に、男の声が放たれるのが分かり……そして過去形の言葉が不吉な予感を(あお)る。


 そしてそれは、恐ろしい魔力を放ち始めた……。


『予定外ではあるが……上級魔人となったこやつの核であれば間違いなくこの場一帯ごと貴様らを(ほうむ)ることができるだろう。貴様の体は惜しいが……力を使い切った今こそ、またとない好機! この場で消滅せよ!』


 チカ、チカと核石の点滅が始まり、それを意味するところを全員がすぐに理解する……!


「爆弾を部下の頭に仕掛けてるなど……どこまで外道なのか、クソッ!」

「早くここから逃げないと……」「あっちらがフィルシュをかつぎます!」

『無駄だ! その爆弾は一度作動すればこの城はおろか、街一つすら消し飛ばす! もはや貴様らの命は助からぬわ! ではさらばだ、《継承者》よ……ックハハハハハハハハ!!』


 ダメだ、完全に魔力が切れている……体が上手く動かない。

 せめて皆は……!


「僕のことはいいから……皆、早く遠くへ」

「できるわけないでしょが!」「恩人を残して逃げる位なら死んだ方がマシですぅ!」

「くっ……何か方法は無いのか!」


 爆弾の点滅が早まり……僕は皆を逃がそうとしたが、ポポレポやヨルは話を聞いてくれない。僕を担ぎあげ、城からの脱出を(はか)ろうとしている……。


 そんな中……クラウゼンさんはゆっくりと核石の元に歩み寄り、それを拾う。


「クラウゼンさん……?」


 どうしてそんなことを?

 皆の頭に生じた疑問をよそに、彼は戦闘で(くず)れた天井から(のぞ)く空を見上げた。


 何を……するつもりなの?


「ここから投げあげては……間に合いませんな……」


 彼は小さな声で言うと持っていた黒い杖に手を()え、「解除(ソルブ)」と一言を唱える。すると先端の宝玉部分が砕け散り、そこからあふれ出した魔力が彼の体に吸い込まれる。 

 

 そして彼は穏やかに微笑んで言った。


「フィルシュ君……。街やギルドを、皆のことを頼みましたよ……《宙導く星(ガイドスター・ロード)(サイン)》」

「――誰か止めて!」


 クラウゼンさんを包むように、空へ向かって灰色の柱がスッとのびた。


 僕の叫びは間に合わず、彼は思い切り地面を蹴ると空中へ飛びだす。

 その体は急激に加速して一瞬で見えなくなり、柱ごと消えてしまう。


「「おっちゃん……」」「クラウゼン殿……」

「嘘でしょ……」

 

 残されて呆然(ぼうぜん)とする僕ら。

 そして視界の奥で、強い光が瞬き……。


 ――ッゴゴゴゴゴォォォォォォォン!!!!!!


 耳をつんざく轟音(ごうおん)と共に、衝撃の波が体を叩く。


「っうぅっ……!」


 僕らはとっさに体を寄せ合って身を守り、風圧を耐え(しの)ぐ。


 その間もずっと彼の事を考えていた。

 最初に出会った時から様々な事情で不在になりがちなこんな僕を認め、背中を押し続けてくれた、尊敬すべき偉大な先輩。


 彼は最後まで冒険者としての手本であり続けた。

 自分の命を犠牲にして……僕らを。


 …………。


 ドワーフの娘達がへたり込み、嗚咽(おえつ)をもらし始める。

 たった今起こった出来事が信じられなくて、僕は何事もなかったかのように()みわたる青空を見上げた。


 真っ白で、何も思い付かない。

 これからどうしたらいいのかとか、悲しいとか悔しいとかそんな感情すら……()いてこなくて。


 これからも色々なことをあなたには教わっていくつもりだったのに……ずっと後ろで見ていてくれると、そう思ってたのに。


 空がぼやけて(にじ)み、視界はぐちゃぐちゃに(ゆが)む。


「……ん? ……あれは……!? 主様っ!」

「…………?」


 ヨルがその場にひざまづいた僕を強く揺さぶり、空を指さして僕はのろのろと涙をぬぐう。良く見つけたものだと思うほど、小さな黒い点はゆっくりとその形を明らかにしてゆく。


 無気力な僕は、言われるがままにそれに首をむけ……息をのんだ。


「……落ちてくる!」「もしかしてッ!?」


 ドワーフ娘二人が……それに向けて手を広げ、微動だにせずに待ち受ける。


 羽のようにゆっくりふらふら落ちて来たそれは――その人は彼女達の腕の中にやがてすっぽりおさまると、ボロボロの姿で苦笑した。


「――ハ……ハハ……死に損なって、しまいましたな。どうにも格好がつかないものだ……まあ、命があれば良しとしますか……」

「「クラウゼンさん(殿)!!」」「「おっちゃん……!」」


 僕らは口々に彼の名前を呼び、そばに駆けよる。

 ひどい状態だった……体中に裂傷が刻まれ、そして一番ひどいのは右腕……。


 肩から先が存在していない……僕らは(あわ)ててありったけのポーション類を彼にあびせかける。


 意識ははっきりしているようだが……これでは冒険者は、もう……。


 だが彼はいつもの穏やかな笑顔を口元に浮かばせている。

 

「……どうやらずいぶんと心配をかけた様子だ……すみませんね」

「んなことどうでもいいっ! 早く街に帰るよ、レポそっち持って!」「あはは、がってん!」


 そうだ、今は帰って来てくれたことを素直に喜ぶんだ……。


 ポポとレポは泣き笑いの顔で、舞台上ののちぎれた緞帳(どんちょう)担架(たんか)がわりにクラウゼンさんを寝かせ運びだす。


「ヨル、ごめん……ちょっとだけ肩を貸してもらえるかな」

「はい、喜んで……」 


 僕も覚束ない足元を彼女の助けを借りて、ゆっくりと歩み出す。

 疲労のせいもあるけど、後から涙が(あふ)れて止まらないせいで……まともに歩けない。


 どうやって窮地(きゅうち)を脱したのかはわからないけど、でもこれだけは言える。

 やっぱり彼は僕らにとって最高に頼りになる、かけがえのないギルドマスターなんだ……!

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。


作者のモチベーションにつながりますので、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。

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