Sランクパーティー追放
ここは、リミドア王国レキドの街……冒険者ギルド併設の酒場。
僕の所属するSランクパーティ、《黒の大鷲》のリーダーがギルドマスターに就任することが決まり、本日はその祝いの宴が行われるはずだった。だけど……。
「グォラッ、お前みたいなクズはもういらねぇんだよ……てめぇはもうこのパーティーから追放だ!」
「ぐぅっ!」
男のひざが僕の腹にめり込み、地面に倒れ込む。
嫌な笑みを浮かべながら僕の緑色の頭を踏みつけたのは、パーティーリーダーの黒髪の大男ゼロン・ガドア。背負う魔剣の色もパーティー名を表すように漆黒だ。
そして地面に伏せている僕の名前は、フィルシュ・アルエア。今年で十九になる。
レキドの街一の実績を誇るだけではなく、国内有数の実力と名高いこのパーティーのメンバーだった。今までは。
「ま……待ってよ、どうしていきなり」
「どうしてだと? この腰抜けがッ! お前今まで俺らの周りをうろちょろするだけで、ろくに戦いもしてなかったクセに良くもそんな口を、聞ける、もん、だなァ!!」
「がふっ!! ごっ!」
腹部を容赦なく何度も蹴られ、僕は気絶しそうになる。
「ハッハァ、追加でプレゼントだ、《締まれ》!」
「ぐぐっ……」
ゼロンの言った言葉に、僕にはめられた《呪いの枷》が反応して首を絞めつける。
痛みに気絶も出来ず、僕は体をのたうち回らせた。
「はっ、いいざまですね。役立たずが……私達の活躍でいつまでも甘い汁をすすっているからそうなるのです」
「本当。今までの日当、借金にして返して欲しい位よねぇ」
テーブルに座ったまま僕にひどい言葉をぶつけて来るのは、同パーティのメンバー達。
赤い長髪を流した火魔導士リオ・エンティアと桃色のツインテールを揺らす女剣士シュミレ・エルツ。
――い、今までの日当って、ずっと僕には一日銀貨一枚しか貰えてなかったじゃないか!
銀貨一枚は銅貨十枚分、おおよそ食費と宿代でギリギリの金額だ。そんな額しかもらっていなくて僕の服はいつもボロボロで、食事を丸一日食べない事も日常茶飯事だった。そんなことを言われる筋合いなんてっ……。
「あんた、自分で自分の姿見たことあるぅ? 何よそのボサボサ頭にボロボロの服……やぼったいっていうかさ、あんたがいるだけであたし達のパーティの格が落ちちゃうのよねぇ」
女剣士シュミレはグラスの中身を息がつまって苦しむ僕の頭に向かってゆっくりと注ぐ。水が器官に入り、まるで溺れているかのような感覚におちいった。
「全く、あなたはそんな人だから……きっと故郷にでも帰って畑でも暮らした方が楽しく暮らせるでしょうに……」
追い打ちをかけるようにつぶやくのは同席している女僧侶のメリュエル・ラーネリア。
とても深い青色の瞳に、濃いグレーの銀細工のように輝く髪をストレートに伸ばした彼女は、国教であるネルアス神教に仕えていた巫女の一人で途中からパーティーに加入したメンバーだ。
その癒しの技術のおかげで僕らは何度窮地を切り抜けたことだろう。しかし今や、彼女は赤い顔で震える手を押さえている。
きっと僧侶にあるまじき行いである暴力を振るおうとするとする自分を必死で抑えているんだ。そこまで嫌われていたなんて……。
ようやく呪いのアクセサリの首の圧迫から解放され、僕はむせかえりながら荒く息を吐く。
確かに僕の扱う《風魔法》スキルは基礎魔法スキル四属性の中でも最弱の上に、他のスキル《戦技》や《剣技》等の様々なスキルと見比べても下から数えた方が速い位の弱さだ。
「ったくよぉ……スキルもユニークスキルも全てクズ。ろくに役に立ちやしねえ効果不明のクソスキル持ちを今までこのパーティに置いてやってた俺達は本当賞賛されるべき善人だぜ、グハハハッ!」
嘲笑うゼロンの言う通り、決定的だったのはSランクにいたり習得した僕のユニークスキルが、《循環》というよくわからないスキルだったこと。
全ての人は成人するまでに一つのスキルを授かる。そしてそれを磨くことにより、一定の極みに達した時得られるのがユニークスキル。それを僕は比較的早期にさずかった。だけど……。
ゼロンの《連斬》、リオの《纏炎》、シュミレの《比例能力補正》、メリュエルの《視界全射程》などと比べて、僕のユニークスキルは何の効果ももたらさなかった。
それでも自分なりにパーティーメンバーの補助や、防御役……雑用やギルド幹部としての面倒な仕事など、細かいところをおぎなう役割として貢献していたつもりだったんだ。
他の人には言っていないけど、僕は《風魔法》に精通したおかげで音を操ったりして高速で連続詠唱できるようになり、増えた手数でなんとか力不足を補っていたんだけど、それでも……気に入らなかったんだろう。
「待ってよ! 僕、お金が無いんだ! 今追い出されたら……」
一縷の望みを抱いて彼の足にすがりつくが、すぐに頬を蹴られ、そして担ぎ上げられる。
「よくわかったろが、テメェがこのパーティーに不要なゴミクズだって事がよぉ! わかったらもうこのギルドに二度と出入りすんじゃねぇぞ! 次の月から俺様がこのレキドの街のギルドマスターになることが決まってんだからなぁ」
「そんな、もう一度……考え直して」
五年間薄給でも歯を食いしばってパーティを支え続けた結果がこんなのって……。
パーティーメンバーも全員がゼロンを肯定する笑みを浮かべている。
メリュエルだけは見るにたえないのか顔を背けていたけれど。
「うっせえ! おら、一生俺の前に顔出すんじゃねえ! わかったな、この無能の寄生虫野郎が!」
ゼロンの大声と共に僕は空中に投げ飛ばされ、ギルドの扉を突き破って外に吹っ飛ばされる。
「ぐぁぁっ!! ――――う、ぅ……ッ」
痛みに意識が暗転してゆく中、少し時間を置いて……バキンと言う音だけが聞こえ、この時僕は自分の未来に完全に絶望したんだ。
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