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最底辺から切り崩す  作者: 凉暮月
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プロローグ・召喚

 この作品で初投稿となります。異世界ものがたくさんありますが、埋もれないよう、楽しんで書いていく所存です。一緒に盛り上がっていただけたらと思います。

 最初は設定多めですが、できる限り面白くしますので、せめて戦闘シーンまでは読んでいただきたく!切に!


 この距離まで聞こえてくる荒い呼吸音。鋭い牙のそろえたその口からは、喰らったばかりの血肉と唾液が混ざりあい、ボタボタと地面に滴っている。


 芥屋(あくたや)啓人(けいと)はいま、死神と顔を合わせていた。サルの頭で二足歩行。腕は6本。そのうちの2本にはそれぞれ別の獲物が、体を半分近く失った状態で握られている。木の幹のごとく隆々とした四肢に、1本1本が手のひらより大きい牙。血にまみれた全身は、月明かりに照らされてねばりつくような光を放っている。


 クラスメイト達と『招きの森』の周辺を調査していた啓人は、そのクラスメイトによって森の深くへと置き去りにされた。つい数日前まで慕っていた様子など、かけらたりとも感じなかった。


 「クソッ!」


 苛立ちで恐怖を押し殺して、悪態と一緒に吐き捨てる。


 思えばすでに兆候はあったのだ。気付かないふりをしていただけ。

 全てはあの時、この世界に喚ばれたときから。




―――社会の自動化が本格的になって数年。学業にいたるまでオンラインが基本となり、肉体労働という単語が廃れ始めたころ。


 啓人は久しぶりの登校日を満喫していた。とはいっても、人が数人乗れるだけのスペースのボックスの中から街を眺めるだけなのだが。


 10分と経たずに学校の前まで。門から教室までのボックスに乗り換えて10数秒、あっという間に教室に着き、自動でドアが開く。


「おはよう。」


 すれ違うクラスメイトに改めて挨拶を交わしながら窓際まで進み、周りから少し距離のあるグループに合流する。


「おぉ!来た来た。久しぶり~。」


 まず声をかけてきたのは、狗飼(いぬかい)文音(あやね)

 鴉の濡れ羽を思わせる艶やかな短い髪を揺らして、忙しなく動く様は小動物のよう。誰に対してもフレンドリーで、少し目を離すと素早く懐に入り込んでくるマスコット的な存在。加えて超人的な身体能力の持ち主でもあり、陸上部のエースも務めている。



「久しぶりだな。元気そうで残念だ。」


 言葉以上に残念そうなのは、御来屋(みくりや)理絃(りいと)

 第2学年にして現生徒会長の秀才。人への指揮が上手く、率先するリーダーシップもある模範的な優等生。何をするにもファンの女子と黄色い声援が付きまとう、女子曰く「眺めるなら最優良物件」。何においても優秀だが、唯一他者とのコミュニケーションだけが不得手という弱点もある。



「お久しぶりですね、芥屋くん。」


 お淑やかな微笑みを浮かべるのは、水鏡(みかがみ)未蕾(みらい)

 自動化機構の構成に携わり大躍進を遂げた一流企業の一人娘。プラチナブロンドの長髪は腰下まで届き、その髪以上にふんわりとした雰囲気は周囲を和ませる。理絃の彼女であり、生徒会役員の1人。理絃が苦手とする対人を引き受けるなど、公私ともに理絃を支えている。



「おはよう。昨日振りね、啓。」


 最後の一人は、(えんじゅ)悠姫(ゆうき)

 肩ほどで切り揃えられた白い髪は、純白の羽より大理石のような硬質な光に近い。女子の中では長身、優し気に少し垂れた瞳には、反対に挑戦的な色が濃く映っている。容姿、学力、運動能力、どれをとっても一級品と言えるもので、対人関係が苦手なのあり、一部では女性版理絃などと呼ばれることもある。違う点があるとすれば、理絃が人との接し方がわからないのに対し、悠姫はあえて勘違いされるような言動をとる天邪鬼なところ。



 一介の高校生からは掛け離れた彼らが、啓人の一番といえる友人たちだ。対する啓人は、万能型。何か1つに特化しているわけではないが、何事もそつなくこなす要領の好さを持っている。


「おはよう。んで久しぶり。相変わらずちょっと浮いてるよなぁ。」


 周りのグループを眺めながら2週間前と同じ感想を持つ啓人。ほかのグループ同士は、大して距離が開いていないのに、この窓周辺にだけは一定以上の空白がある。同じクラスの生徒といっても、どこか気後れがあるようだ。


「ちょっと寂しいよね。みんなが自分から行かないからだよ?」


 文音の何気ない、鋭い指摘に全員が渋い顔になる。文音ほど積極的にいけば友好関係は広がるかもしれないが、クラス中からチラチラ向けられる視線を見るに、簡単にはいかなそうだ。


「俺としてはむしろありがたいけどな。」

「それはコミュ障なお前だけな。」


 理絃が人と接するのが苦手なのは、感情の機微に疎いからではなく、読み取った相手の感情に合わせることができないからだ。もともと理絃は過程には頓着せず、結果を重視するタイプなので外聞というものをあまり気にしない。

 加えて言うなら、大抵のことは自分でやったほうが早いので周囲を頼らなかったのも原因だ。周りのことを軽視しているともとれるそれは、距離を置かれるのに十分すぎる理由となっている。


 未蕾に関して言えば、彼女の落ち度は一切ない。ただ、家名と理絃の彼女という2つのレッテルが、自然と人を遠ざけてしまう。


 よって、できるのにやらないのは啓人と悠姫の2人だけなのだが、啓人は笑ってごまかし、悠姫にいたっては自分のスタンスだと開き直る始末。

 結果として、彼らに近づく生徒はいつしか猛者とまで言われるようになってしまった。

 

「できるのにやらないお前らよりはマシだと思うがな。」

「できもしない人が、ずいぶんな言い草ねぇ?」


 言い捨てるような理絃の言葉に、悠姫が楽し気に口角を吊り上げる。喧嘩を売るなら買ってやるぞ、と意を込めて。


「はいはいストップぅ!ほんとに、そーゆーとこだよ。」


 あわや喧嘩かとクラスメイト達が緊張する中、慣れたように文音が割って入る。明らかに空気が弛緩するなか、未蕾が大きくため息をついた。


「理絃、今のは言い方が悪いですよ。だからすぐに勘違いされるのです。」


 聞き耳を立てていたクラスメイトたちが頭の上に疑問符を浮かべる。察した啓人が吹き出す姿を見てさらに混乱が加速する。


「伝わってなかったか?」

「えぇ、全然。」


 文音と悠姫が説明を求めて視線を啓人に合わせる。啓人は必死に笑いをこらえながら


「そいつは、羨ましいって言いたかったのさ。」


 きょとん、と音がした気がする。話し声が響いていた教室はしんと静まり返っていた。啓人の笑い声だけがくつくつと聞こえる。

 ようやく理解が追いついた悠姫は、呆れて乾いた笑みを浮かべる。遅れて文音が半信半疑で確認するように口に出す。


「りい君は、普通に話せるのを羨ましがってたの?あんな喧嘩腰な言い方で?」

「喧嘩腰ではなかっただろう?言い方が回りくどかっただけで。できるのにやらないのは怠慢だ、と文句も加えたが。」

「むしろ文句にしか聞こえなかったよ…」


 ひとしきり笑って落ち着いた啓人は、小ばかにするように自分の頭をトントンしながら言う。


「面白いだろコイツ。言語中枢までニートになってるんだ。」

「だれがニートだクソメガネ。むしろ別の言い回しを考えている分働いてるだろ。」

「伝わってないなら働いてないのと一緒なんだよ。」


 啓人と理絃の言い合い聞いて、やっとフリーズが溶けたクラスメイト達。

 理絃を見る視線が妙に優しいものへと変わっている。


 そして今日が登校日のクラスはここだけのはずなのに、廊下から聞こえてくる「天然御来屋様キター!」の声。


「できないなんてのは、所詮意識の問題なんだよ。」

「お前のおかげというのは癪だけどな。」


 悪態をつきながらそっぽを向く。


「感謝はする。」

「はいよ。」


 再び教室の外から「デレたッ!照れたッ!勝ったッ!」

 拍子を刻む勝利宣言のあと、勝どきの雄たけびが遠ざかり、そして微かに教師の説教の声が聞こえてから無音になった。啓人と理絃は心の中で黙祷する。


 教室は、今や理絃に向けられる視線が大半だ。まだ何かを期待するような視線が突き刺さり、理絃は少し身をこわばらせる。そして誰かが行動をする直前の完璧なタイミングでパンッと手をたたく音がした。


「みなさん、これ以上理絃に求めてもスベるだけですよ~。可愛そうなのでこれ以上いじめないであげてくださいね~。」


 先ほどよりも小さく笑いを取り、かつ理絃から意識をそらすこともできた最良の一手に、理絃が安堵の息を漏らす。


「よかったわね。しばらく話題はあなた一色よ?」

「ちっ。相変わらずいい性格しているな。」

「お褒めにあずかり光栄よ。」


 ここぞとばかりに煽りたてる悠姫に苦笑いを零す三人。クラスの空気も朗らかなものへと変わっている。


 そんな彼らの目を覚まさせるように、自動扉特有の音がなって、入ってきたのは担任の、伊丹(いたみ)(あきら)だった。一瞬身構えた生徒たちだったが、彼の顔を見た瞬間に弛緩、安堵のため息をつく生徒まで現れた。


 というのも、伊丹は教師の中では若く27歳。ボサボサ頭は彼の人柄を表すように適当に後ろで一つに縛られていて、毎日自動でアイロンをかけているはずなのにヨレて見えるワイシャツ。そのせいで年齢以上に老けて見えてしまう。


 年齢が近いおかげか、相談事には真面目に乗ってくれて、アドバイスも的確。面倒くさそうにしながらも対応はしっかりとしていて生徒からは人気だ。なお、叱る態度が適当で、怒ることもないというのも人気の理由だったりもする。


 入ってきたのがそんな教師だったため、いまだに緩い雰囲気のままだ。いつもの気の抜けるような掛け声を待つが、伊丹は下を向いたまま何も言わない。


「先生?」


 声をかけられてようやく俯いた顔が少しずつ持ち上げられる。そこにはいつもの、困ったような笑みはなく、ただ申し訳なさそうに歪められていた。

 誰かが疑問を口にするよりも早く、伊丹が口を開く。


「わからないんだ。ごめん。なにもできない…」


彼の頭上で強い光が瞬いた。


「ごめん」


もう一度謝る声が耳を打つと同時に、点滅が著しく早くなり、更に強く光ったかと思うと、後には誰も残っていなかった。



 荷物と、人がいた痕跡、ぬくもりさえ残したまま、忽然と人だけが消えていた。

 これが、学校生活の終わりで、最悪の始まりだった。

 読んでいただきありがとうございます。

 誤字脱字・文章の修正などのご意見、参考にさせていただきますので、ぜひコメントを残していってください!

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