*プロローグ*
窓から陽の光が差し込む夕暮れ時、隣には楽しげにおしゃべりをしている女子高生2人組。反対側には働き疲れたのか、大きな口をあけてグースカ寝てる、くたびれた頭の中年サラリーマン。
『だから嫌なのよ…。この時間帯の電車って…。』
そう思わずにはいられなかった。楽しげにおしゃべりしている女子高生2人組とグースカいびきをかいてねている中年サラリーマン。この最強にうるさい奴らに挟まれている可哀想な1人の女子高生。その膝の上には、大学の入試用参考書。耳には、英語のリスニングを聞く為のイヤホン。
数分後…。両隣がうるさいせいで勉強に出来ずイライラしだし、手に持っていたシャーペンをザクザクと膝の上にある参考書を目掛けて振り下ろし、突き刺していた。
『もー最悪。イヤホンのボリュームより声がデカいんですけど…。全然、集中出来ないんですけど…。』
ポーカーフェイスを決め込んでいたが心の中は、怒りの炎で真っ黒だ。
降りようとする気配も見せず両隣に居座る、女子高生2人組と中年サラリーマンにイライラしながら1人の女子高生は参考書に目を向けた。
「っていうかー。こんなトコで勉強すんなよ。かなりキモいんだけどー。」
「言えてるー。かなりキモいよねー。」
隣に座っている女子高生2人組の方から聞こえてきた声。流石に我慢の限界か1人の女子高生の目つきが鋭くなった。ゆっくりと声が聞こえてきた方向に振り向き口を開いた…
「っていうか。はっきり言って、あんた達の方がキモいっていうかウザイんだよね…。アタシの事、キモいとか思うんならさ、あんた達がどっか行きなよ。」
と、一気に言い放ち座席から勢いよく立った。
“Y予備校前〜Y予備校前〜です。”
到着アナウンスと同時に開くドアの前で立ち止まり、振り返り1人の女子高生が笑顔で言った。
「バイバーイ。キモいとか言ったって、あんた達だって大学行きたいでしょ?その時になったら皆するんだよ。嫌でもね。手遅れにならないようにあんた達もしっかり勉強しなよ。」
アッカンベーをしながら、電車を降りて行く1人の女子高生。そんな彼女をビックリした表情でボーッと見送る女子高生2人組。
嵐のように去って行った1人の女子高生。彼女は、駅前の“Y予備校”に通っている普通?の女の子。
「受験戦争、真っ只中のアタシが勉強して何が悪いのよ。」
彼女は今年、大学入学を目指し勉強に励む現役受験生。
『あー。今日は、イケてない!かなりイケてないよ…。最悪だ…。』
さっきの出来事を思い出し、溜め息をつきながら予備校の校舎の中へと姿を消して行く。
如月由真17歳、高校3年生。