転生した元『剣聖』、今はメスガキおじさんやっています ~転生後の世界でかつての弟子達があまりに不甲斐ないので、「ざーこざーこ♡」と煽りながら再び鍛え直すことにしました~
「あれあれ、もう終わり? お兄さんってば弱すぎ~。ざーこざーこ♡」
幼い少女は、地に膝を突く男に対して、煽るような口調で言った。
対する男は、驚きに満ちた表情のままに少女を見る。年齢はまだ、十歳にも満たないくらいだろうか。
少しばかり露出度の高い服を着ているが、都の方であればたまに見かけることのある少しませた少女、と言ったところだ。
そんな少女が握るのは一本の剣。さすがに大人が握る物に比べると少し短く加工されているが、それでも真剣であることに変わりはない。
少女が真剣を持ち歩いていること自体驚きであったが、事もあろうに彼女は――この一帯では敵なし、とまでされた男に対して喧嘩を吹っかけてきたのだ。
相手が子供とはいえ、男は仮にも多くの弟子を持ち、剣士としては名が知られている。
幼い少女に真剣で勝負を挑まれ、あまつさえ『あ、逃げるんだ~。もしかして、わたしには勝てないから?』などと分かりきった挑発までされてしまっては、そのまま黙っているわけにもいかない。
軽く遊んでやろう――そんな気持ちで、男は剣を手に取ったつもりであった。
結果は今の通り。男は少女に手も足も出すことができずに、圧倒されたままに敗北した。
剣術という、男が最も得意とする分野において、圧倒的な実力の差を見せつけられたのだ。
「くっ、俺がこんな小娘に……」
「あはは、本当にその通りだよ~。こんな無様に負けちゃって恥ずかしくないの?」
「お、お前は一体、何者なんだ……?」
「わたし? ふふっ、お兄さんはわたしに負けたんだよ? それなのに、『お前』だなんて口の利き方はよくないと思うなぁ?」
「ぐっ、あ、あなたは……何者なんですか?」
「あ、わたしの言葉を素直に聞いちゃうなんて可愛い~。でも、教えてあーげないっ! お兄さんがわたしに勝てるくらい強くなったら、教えてあげるねっ」
そう言って、少女は男に背を向けた。
とんでもない屈辱を味わった男は、怒りに任せて立ち上がる。
すぐにでも少女に斬りかからんとする勢いであったが、歯を食いしばり、その場で剣を地面に突き刺した。
「俺は……慢心していた、のか」
そう、小さく息を吐き出しながら言った。
年端もいかぬ少女に負けたことで、男は目を覚ましたのだ。
――かつては、剣士として『最強』になることを目指していたこと。
だが、今となってはその道を諦め、この一帯の『支配者』となることに執着し、金を儲けることしか考えていないだけの愚か者になっていたことに。
去っていく少女を見据えながら、男は決意を口にする。
「次は……必ず俺が勝つ……っ!」
――男のそんな強い意思を感じ取りながら、少女は満足そうに笑みを浮かべた。
「いやぁ、今の感じでよかったかな……?」
そして、少女は安堵したように息を吐く。
「なかなか煽るのって難しいんだよなぁ。俺、そういう感じの話し方してこなかったし」
素の口調に戻った少女は、しばらく歩いたところで、休むのにちょうどよい木陰を見つけて腰を下ろした。
その動きは少女というよりも『おじさん』のようであり、実際に少女はかつて『おじさん』であった。
「まあ、弟子が改心してくれたなら、それでいいんだけどさ」
――先ほどの男は、少女の弟子であった。
だが、それはもちろん『今』ではない。
少女の名はレン・フィートリュン――かつて、『剣聖』と呼ばれた男の記憶を宿している。
両親はおらず、孤児院で料理を教わることになったある日、刃物を持ったことで前世の記憶を取り戻したという、とんでもなく稀有な存在であった。
記憶を取り戻したレンが知ったのは、『剣聖』と呼ばれた自分の弟子達が各地に散らばり、ある者は権力にしがみつき『その強さ』を利用し、またある者は自らの剣術で『悪人』を成り上がらせるために協力している、という事実。
レンはそんなことをさせるために、彼らに剣術を教えたわけではない――その事実を知ったレンは、すぐに行動を開始した。
前世の記憶を元に剣を握り少女の姿のまま、かつての弟子達の元を巡って、その根性を叩き直す、という旅だ。
たった今、一人目をしっかりと叩きのめして、改心させてきたところだった。
レンにはまだ、他にも弟子が多くいる――その弟子達一人一人を回るのは苦労だし、そもそも会うのも簡単ではないだろう。
だが、こうして前世の記憶を取り戻したのも何かの縁だ。
今、自分にできることをしよう、と考えて行動に出たのだ。
「さて、次は南の方にいくか。弟子達を分からせにいかないと……」
そうして、元剣聖は『中身はおじさんの幼女』――『メスガキおじさん』として新たな人生をスタートさせた。
全ての弟子を分からせるその日まで、彼女の旅は続く。
メスガキおじさん、っていうワードが使いたくて書いた短編です。
色んな弟子を『剣術』で分からせにいく、をコンセプトにしています!!!!!