秋葉原ヲタク白書89 ヲ・カルトの呪い
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナのためのラノベ第89話です。
今回は"絵画商法"の店が放火されて、現場に鶏の頭と蝋燭の跡が。犯人に青森のオカルト教団が浮上します。
一方、背後に"地コーラ"をめぐる労働争議があり、収拾のため上京した労働者側代表は失踪、追う会社側ハンターは…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 呪いの絵
アキバの夏は暑い。
僕の推し(てるメイド)ミユリさんがメイド長を務める御屋敷は雑居ビルの2F。
毎夜?外階段を汗だくで上がる常連から"死の行進バー"とも呼ばれている。
「あ、テリィたん!」
「お、小隊長?」
「…緊急出動ですっ!お先ですっ!」
お先も何も彼はお出掛け、僕は御帰宅。
屈強な消防士と狭い外階段でスレ違う。
「何か忘れ物?あ、テリィたんwおかえりなさいませ!」
「…外階段でハシゴ小隊長と会ったょ」
「今日は早番だと教えたら、差入れを…」
カウンターの中で、ヘルプのつぼみんがヤタラ慌ててパミエを引き上げてる。
開店直後で客がいないのに何やら熱気が…ココは武士の情けで見て見ぬ振り。
「ホットな差入れだったみたいだw」
「ホンの成り行きで」
「ありがちな展開だね」
「スミマセン。でも、ミユリ姉様を倣ったまでで…あぁ暑い暑い。コホンコホン」←
「僕達は、オリンピックのある年に1回程度だぞ」
「では、コチラも1年延期した方が良かったですね」
「とにかく…ミユリさんとは寝ないでくれょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
つぼみんのTOはハシゴ氏と逝い、神田消防ハシゴ小隊の小隊長だ。
今回、何の最中だったかは知らないが、緊急出動がかかって一仕事。
閉店間際に、再び御帰宅して来る。
現場を終えてシフトも終了らしい。
僕の顔を見るなり真剣な顔で逝う。
「テリィたん!出たょ"呪いの絵"だ!火事を呼ぶ"呪いの絵"だ!」
「え?小隊長、ソレ何?」
「現場は、末広町に近い中央通り沿いのビル路面店だった。あの、例の"絵画商法"の店だよっ!」
"絵画商法"は、昔からある高額絵画のギャルによる押売りだ。
街頭でギャルが配るポストカードを手にしたら即ローン地獄だ。
ラッセン系のイルカを見たら直ぐに逃げろ!
「ソレが今回はイルカじゃなくて"泣いてるメイド"の絵だったンだよっ!」
「そりゃ初めてだね。しかし、あの"絵画商法"には巷に怨嗟の声が渦巻いてるコトも事実だから…まさか放火だったりして?」
「うーん難燃性の硬質繊維板にプリントされた"泣いてるメイド"の絵が萌えもせズ、落ちてたンだょな。火災現場では比較的温度が低いとされる床にサ。しかも、絵を囲むように鶏の頭が転がり、溶けた蝋燭の跡が残ってる。ニワカに何かの儀式をしてたと断定は出来ナイが…明らかに妙だw」
すると、偶然?居合わせた双子ギャルが突然話に割り込んで来る。
げ!顔にはペイント&干し首の首飾りだと?双子の呪術師…かょw
ヤタラと胸張り、颯爽と示すのは…え?警察手帳?君達、警官なの?怪し過ぎるでしょ?
「こんばんわ!私達は、青森県警縄文呪術対策本部第3課のサムナとディンの美人双子です。実は、オカルトの専門家でして、様々な変わった信仰について幅広く捜査しています。得意分野は悪魔崇拝。サンテリアやウイッカ。万世橋もオカルト事件を扱う時には、決まって私達に助言を求めてきます」
「え?ホントかょ?御屋敷には、万世橋の刑事さんもよく来るンだぜ?」
「げ!マジすか?ま、まぁ実は先週上京して来たばかりですwでも!青森県警管内でペットの連続バラバラ事件が起きた時には、悪魔崇拝の経典の一説を読んだ者の犯行と見極め、ソレをもとに犯人を突き止めました。別の事件では、殺された女性の背中に刻まれたマークの意味を解読してみせた。ソレが犯人逮捕につながった…かもしれない実績がありマス」
あ、実際は双子が交互に喋ってルンだが、面倒なので今回はこの描き方でお願いしますw
ソレにしても、青森出身か…三味線とか持たせ流しの津軽三味線姉妹とかで売り出せば…
あ、警官は副業禁止かw
「そりゃどうも。でも、オカルト放火なんて奇想天外過ぎナイか?ソレに、経験的にオカルトって大抵偽装工作ナンだょな。誰かが逃げ果せるための攪乱作戦って感じ」
「バッカじゃナイ?青森県警の見解では、オカルト事件は100%オカルト信仰者によるモノょ。全て信仰心から犯行が起きているわ」
「例えば?」
「数年前、青森県立美術館が荒らされたの。何者かが忍び込んで縄文人の頭蓋骨を盗んだ。その時、犯人が実践してたのが秘儀"ヲ・カルト"よ」
「"ヲ・カルト"?1発でカルトとわかる印象的なネーミングだwで、青森となると三内丸山遺跡の縄文系呪術なのかな?」
「サンテリアの分派。多彩な神々を持ち、人骨などの器に特別な力が宿ると信じられているわ。どうやら、今回の美術館からの頭蓋骨強奪を機に立ち上がったオカルト集団らしいの。聞き込みの結果、近所の若者が信者だと判明したの。家宅捜索したら、地下室の大窯にメイドのフィギュアが入ってて、その若者は捕まったンだけど、そのメイドが"泣いてるメイド"にソックリだわ!」
「ホントかょ?じゃ誰かその若者に会いに逝くか?」
「つぼみんだな」
「え?私?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日、つぼみんは青森警察署にいる。
収監されている"若者"と面会スル。
「誰だって?」
「県警のアドバイザーっぽい、津軽ご出身の自称美人双子。彼女達から貴方のお話を知ったの。ところで、なぜ私が青森まで来たか、わかりますか?」
「全くわからない」
「貴方は"ヲ・カルト信者"と呼ばれてて、貴方達がアキバで放火事件を起こしたからょ」
「まさか俺が放火したとでも言うのか?瞬間移動でもして?」
「ソレもそーね。うーん私、何をしに青森まで来たのかしら…まぁテリィたんのマイレージだから良いかwせめて、放火犯の心当たりとかナイの?"ヲ・カルト"をやってた頃のお仲間とか?」
「お仲間?俺には、お仲間なんかいなかった。だから、地下室でメイドのフィギュアと遊んでたンだ」
「何ょソレ?」
「俺は、イジメられてた。毎日学校で殴られるのを止めたかった」
「"ヲ・カルト"を名乗ればイジメが止むと?」
「YES。だから"ヲ・カルト"なんかハナから信じちゃなかった。津軽の婆ちゃんから不気味な話を聞いたコトがアルだけだ。呪いをかけるとか言えばイジメが止むかと思ったが結果は散々。余計に殴られ、挙句に逮捕までされた。アキバの放火は気の毒だと思うが、俺とは関係ない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日の御屋敷。
「おかえり!ヲ・カルトの教祖サマはどうだった?」
「空振りですぅ。しかも、全くの冤罪wあの双子の呪術師ってトンでもナイ人達みたい。何者?」
「しかも、ニセ警官だったw"邪馬台国は青森だった学会"の友人に調べてもらったけど、呪術本部なんて、青森県警はおろか、超自然的な世界にも存在しないって。ちょっちガッカリ」
「テリィたんは青森にコネがあるのね」
「昔、ヒョンな御縁で青森の"観光文化大使"ってのをやってて。ソレでツテがある。他の超古代文明の専門家にも聞いてみたけど"呪いの絵"の儀式の話はわからないって。何かの意味があるンだろうけど」
「うーん。あの双子も、ただの変人だったのかしら」
ガチャン!
「何?今の音?」
「外階段に誰かいた?」
「いや逃げられた。踊り場にこんなモノが置いてあった」
常連が、瓶入りの手紙を持って来る。
マドラーで突き回し中の手紙を出す。
「通りすがりの"ヲ・カルト"の犯行と見るべきカナ?」
「さぁ。どぅでしょうか」
「とにかく、読んで」
常連が読み上げる。
「"呪いの絵"の話はハブネ神父に聞け」
第2章 東日楽コーラは絶望の味
瓶入りのメッセージには、ランデブーの場所と日時も指定されている。
翌日、アキバ最大手の御屋敷"@ポエム"本店にミユリさんと御帰宅。
直ぐにミユリさんに気づいた伝説のメイド"ひろみん"が飛んで来る。
「ミユリ!またまた厄介ゴト?貴女待ちって逝う御主人様が御帰宅してルンだけど…」
「ごめんねー、ひろみん。実は私達も何が何だか良くわかってナイの」
「おお!貴方が噂の"メイド長とSF作家のコンビ"ですか?!私はハブネ。青森発の秘儀教団"ヲ・カルト"の神父です」
カウンター席で挙動不審にキョロってたオッサンが立ち上がって僕達を手招き。
残暑厳しい中、長袖のスーツ?アニメに出て来る未来人のスーツみたいな服だ。
NERVかょw
「ハブネ神父。アキバのヲタクでテリィとミユリと申します。昨夜、誰かが御屋敷にコレを投げ込みまして」
「実は、私にも同様の投げ込みがあったのです。私には、誰が投げ込んだかはワカラナイが、誰が関与しているのかは、わかります。お持ちの瓶が、その解答だ。"東日楽コーラ"」
「"東日楽コーラ"?」
な、何?ツガ・ラコラ?ツガラコ・ラ?
「"東日楽コーラ"は、青森県の"地コーラ"です。津軽海峡に舞い落ちる雪にインスパイアされた"透明な絶望感"が売りです。弘前の郊外に製造工場と瓶詰工場があり、積極的な地元雇用を進める割には労働条件が最悪で、組合を作ろうとする労働者が会社側が雇った民間ハンターと対立しています」
え?ハンター?やっと超常現象っぽく…
「ソ、ソレは、つまり組合が出来るより、ハンターを雇った方が安上がり、と逝う"東日楽コーラ"の会社判断ですね?」
「恐らく。先日、弘前の工場でストが呼びかけられましたが、首謀者が数日間、拉致監禁されました。彼女の名はアソベ。聡明で強い女性です。組合結成を願う彼女に、私は在京の清涼飲料水系の労組連合を紹介した。労組結成の支援団体です。そのツテを頼り、彼女は上京したが、直後に失踪してしまった」
「うーん。ソレで"瓶の差出人"は、彼女の失踪が"東日楽コーラ"に雇われたハンターのせいだと疑っていると?」
ハブネ神父はうなずく。
「YES。実は、私も同じ考えです。だが、万世橋の捜査では、アソベ失踪は、ほとんど手がかりナシなのです」
「と、とりあえず"透明な絶望感"ってワードがヤタラ気になりますけど、ナゼ民間のハンターが東京まで"狩り"に出て来るのか教えてください」
「良い質問です。実は"東日楽コーラ"の原料となる"シロップ"は、私達"ヲ・カルト"の聖水がベースになっています。その関係で"東日楽コーラ"には"ヲ・カルト"の信者が多く雇用されている。一方、ハンターの中には、秘儀を執り行う"ヲ・カルト"に対し激しい嫌悪感を持つ者も少なくない。だから、一部のハンターは"ヲ・カルト"教徒を"狩る"コトに特別な意味を感じている。彼等にしてみれば、コレは金をもらって戦う宗教戦争みたいなモノなのです」
ようやく色々なコトがボンヤリ見えて来る。
「神父は、中央通りの"呪いの絵"放火事件は、御存知ですか?」
「モチロンです。スマホTVで見ました。アレは、間違いなく"ヲ・カルト"の秘儀です。教徒の間でも噂になっています。去年、上京したウブな教徒が"絵画商法"にカモられたコトがあって…その報復かもしれません。元は地味で陰気な黒魔術団でしたが…ハンターに刺激されたのか、過激に暴走スル者が増えまして。お恥ずかしい」
「コチラこそ。アキバの"絵画商法"の関わり方が何とも残念でなりません」
あっという間に1時間が過ぎて、メイドさんがすまなそうにお出掛けの声をかけてくる。
「最後に…神父は、サミナとディンの双子と御面識は?」
「御注意ください。あの双子は、ハンターです。アソベを追って上京、このアキバでアソベを"狩る"つもりだ」
「ええっ?あの双子がハンター?!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜、双子ハンターが御帰宅w
御屋敷内にピリピリ緊張が走る←
「テリィたん。巷で聞いた噂だと御屋敷に"東日楽コーラ"が投げ込まれたンだって?」
「ええっ?"東日楽コーラ"って、あの傭兵紛いのハンターを雇ってアキバで"ヲタク狩"をしてる会社だっけ?」
「あーら、御挨拶ね?私達は、現代に黒魔術を蘇らせてるオカシな連中を取り締まる正義の自粛警察なのょ?」
双子がアッサリ本性を現す。話が早い。
「君達が御帰宅したのは、失踪したアソベの情報収集のためだょね?」
「え?悪いケド知らないお名前だわー」
「じゃ思い出してもらうために、ココで"呪いの絵"の儀式をやろう。おーい、誰か"プロ仕度"で鶏の頭を買って来て!」
「ああ!わかった、わかったから!テリィたん止めて。迂闊に"呪いの絵"の秘儀を行えば大火事になるわょ?振袖火事の再来だわ!」
「そりゃ大変だ」
「とにかく、私達も彼女の失踪には手を焼いてるの!何か情報があったら私達に教えて頂戴。御礼はハズむから。"東日楽コーラ"が」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「この写真がアソベさん。雪国の人らしく、余り口を開けズにしゃべるので言葉を聞き取るのに苦労したわ」
清涼飲料水系の労組連合を訪ねる。
全国組織なので大手町に出掛ける。
美しいビルに洗練されたオフィス、応対女子も何ちゃらディレクターとか逝うカタカナ系で、こりゃもう気分は海外ドラマのロケだw
「我々が上京を手配したのです。上京翌日に会うハズが現れズ、ホテルにもチェックインしてなかった」
「地方での組合結成を助けるお仕事ナンですか?」
「彼女は、主に戦略面の支援を受けに来ました。確かに"東日楽コーラ"は、労働者を不当に扱っているカモしれない」
「うーん。しかし、中央の団体が地方の団体を助ける絵って新鮮だな」
「おや?なぜ?」
「多くの仕事が地方に流れました」
「失礼だけど、ソレはかなーり古い考えね。地方や外国に流れた仕事は、もう戻っては来ない。ビジネスのグローバル化に対抗するには、労働も負けズにグローバル化しないと。全国の労働条件を改善するの。地方の賃金が上がれば、中央に仕事が戻ってくる。苦しむ人々を助けられるわ。ところで"東日楽コーラ"は、以前も同じ悪事を働いてる」
「ほほぅ。例えば?」
「御存知ナイでしょうけど、青森では去年、市民団体が清涼飲料水に法定外普通税の課税を求めて県議会に働きかけていたの。主に、コロナ患者の治療や回復支援の財源に充てるためだったンだけど。結局、その案は県議会で否決された。でも、課税支持派の人達は、その間、何ヶ月も脅迫電話を受けた。住所を知ってるぞ、子供の学校を知ってるぞ、って。着色ウィンドウの車に尾行されたって人もいた。ナンバーを控えて照合したら誰の車だったと思う?」
「"東日楽コーラ"?」
「モチロン、彼等は車を盗まれたモノだと言い逃れした。青森県警は、彼等のウソを証明出来ず、起訴を断念したわ」
「でも"東日楽コーラ"以外の全ての清涼飲料水メーカーも課税の影響を受けるのに、なぜ過剰な反応を?」
「アソコは、小さな同族経営だから大手より深刻なダメージを受けるの。だから、手を打ったのでしょう。とにかく!アソベが失踪した理由は…本人に聞いて頂戴」
え?アソベの居場所を知ってるの?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホントにいたょw
アレがアソベか?
目の前でゴミを捨ててる!
第3章 僕のメイドを泣かすな
遠くヨドバシが見える浅草橋の雑居ビル。
中はヤタラとアジアンなミニ九龍城砦だ。
その窓のない1室にアソベはいる。
「津軽から上京した女性5人と、ココに住んでいるの。津軽弁は直ぐに直すし、その内に仕事も見つかるわ」
「なぜ失踪したの?」
「2ヶ月前に妊娠がわかり、子供のためには青森を出るのが1番と決めた。青森では常に脅迫され、追われていたから…ハンターに拉致されるのは時間の問題だと思い、計画を立てた。とりあえず上京し、アキバに着いたら即失踪。そうすれば"東日楽コーラ"もハンターも私の消息を知りようがナイ」
「そうやって、君が自ら失踪するから、コーラ屋さん達は、大喜びだ。以後の色々面倒な段取りを全部省けるからな。まぁ何を何処までスルつもりだったかは知らないが」
「私だって、労働争議や組合の問題なんか、もうウンザリだったの。コレで私が2度と青森に帰らないと決心すれば、全てウィンウィンのハズだった」
「ところが、ソレを許さない奴等が現れた。奴等は、君を炙り出すために"呪いの絵"の秘儀を演出して"絵画商法"の店に放火した。未だ"狩り"は続いている、とのメッセージを出したワケだ。恐ろしくなった君は、御屋敷に瓶を投げ込み、僕達に助けを求めた…のか?」
ミユリさんが口を挟む。
「私達をハブネ神父に会わせたのは、神父が"東日楽コーラ"やハンターのコトを話すと思ったからょね?ソコから辿って、今日、こうやって貴女に辿り着いた私達に、貴女は何を望むの?」
「貴方達コンビが、力のある人達だと逝うコトが良くわかった。だから、私のボディガードになって!ね?助けて、テリィたん。貴方だけが頼りですぅ」
「げ、またまたスターウォーズのレイア姫パターンかょ?最近コレでリクエストされるの激増中だけど、流行ってるの?しかも、妊婦バージョンって激レアだw」
ところが、話の途中で施錠したハズの背後のドアが開く!
そして、拳銃型のスタンガンを手に飛び込んで来たのは…
げ!双子のハンターだw
尾行されたか?マズい!
「やっと見つけたわ、アソベ。こんなトコロに隠れてたのね。さぁ青森に帰りましょう。貴女の首には賞金がかかってるの」
「おい、双子!アソベは身重だぞ!ソレに、今のアソベは、もう"東日楽コーラ"の労働争議とは無縁の存在ナンだ」
「あらあら。アソベの首に賞金をかける人はコーラ屋さんだけじゃナイの。"ヲ・カルト"の秘儀を嫌う人って意外に多いのょ。実は、私達双子もその1人…いや2人かしら」
身重のアソベにテーサーガンを突きつけるw
運動音痴の僕はともかく、サスガのミユリさんも手が出せない。
双子は、余計にテーサーガンを振り回してアソベを引っ立てる。
僕達はジリジリ間合いを詰め、狭いEVも呉越同舟で一緒に乗り、表に出ると黒いSUV。
さすがにSUVには乗せてくれズ双子がアソベを連れ込み発車スルのを歯軋りして見送る。
狭い路地を猛スピードで直進、福井町通りに出たトコロで…中型箱トラックに激突スルw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大惨事だっ!
路地から飛び出したSUVに横腹へ突っ込まれた箱トラックは横転ギリギリに傾いている。
突っ込んだSUVは前席はトラックに激しくメリ込み跡形も無くひしゃげて中から絶叫がw
箱トラックの運転手は軽傷だが、傾いた運転席から飛び降りるや一目散に走って逃げる。
「バカ野郎が突っ込みやがってwコッチの積荷は"液体水素"だっ!温度が上がると爆発するっ!(浅草橋の)4丁目一帯が吹き飛ぶ
ぞっ!逃げろっ!」
何だって?"液体水素"?何ソレ?
やがて、神田消防ハシゴ車、ポンプ車、救急車、レスキュー、指揮車が続々駆けつける。
誰に教えて良いかわからズ目についたハシゴ小隊長に箱トラの逃げた運転手の話をスル。
すると、ヤニワに彼は腕時計を外して僕に押し付け"コレをつぼみちゃんに"とか逝う。
そして、いつもの彼と同一人物とはトテモ思えヌ精悍さで部下にテキパキ指示を飛ばすw
先ずレスキューと協力して負傷者を救出。
SUV後部座席のアソベは奇跡的に軽傷w
続いて、大きなバールで箱トラの鍵を飛ばしシャッターを開けたら、木枠にハマった円筒形のタンク…から白い霧?が噴き出てるw
コ、コレが液体水素?…がガス化してイル?
「くそっ!バルブにヒビが入ってる。ガス化が止まらない!」
「おいおいおい!全量が温まったら即爆発だぞ!」
「ガスが吹き出す音が消えればドカンだ!」
ココから先、彼の動きに躊躇いがナイ。
ハシゴ小隊長は、周囲を見回して軽トラを見つけるや、ポケットから出したラジオペンチ1本でウィンドウを割りエンジンをかける!
同じハシゴ小隊なのだろう、誰に命じられるでもなく、消防士数名がガスを噴く液体水素タンクを担ぎ上げて、軽トラの荷台へ移す。
大型消火器を担いだ消防士達が荷台に上がりタンクに消化液を吹きかけながら軽トラの屋根を思い切り叩き、運転席の小隊長に叫ぶ。
「コレで少しでもタンクの温度が下がります!」
「万世橋が和泉公園までの交通整理と人払いをしてくれてますよ!」
「逝ってくださいっ!お供しますっ!小隊長っ!」
ハシゴ氏がアクセルを踏み込む。ソコへ…
「ハシゴたん!ハシゴたーん!」
つぼみん?出勤途中?私服のつぼみん。
その鼻先を掠めて軽トラは急発進、交通を遮断スル警官達がグルグル腕を回す先を左折、そのママ猛スピードで和泉公園へ突っ込む!
第4章 勇者の御帰宅
結局、爆発は起きない。
人気の消えた和泉公園の真ん中に軽トラを乗り上げ、消防士達が四方八方へ飛び降りる。
アクション映画お約束の爆発シーンとか無いママ、何となく間の抜けたラストシーンだw
しかし、大入り満員のアキバ映画館の観客は総立ちになりスタンディングオベーション!
頭を守りながらユックリ匍匐で戻る消防士の勇気を讃える拍手は遅くまで鳴り止まない…
使命感に萌える彼等の熱い絆が今日、聖地を救ったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、今回もジグソーパズルのピースが出揃って、何となく、全体の絵が見えて来る。
先ず、驚いたのは、双子の妹が"ヲ・カルト"の教徒だったコト。双子ではなく妹だ。
青森駅前新町通りを歩いていた妹は、イケメンに勧誘されて教徒となり上京、憧れのアキバでイケメンが"絵画商法"の餌食となるw
騙されるママにカップルでカードローンを組まされ借金を背負わされた妹に双子が激怒。
姉妹全員で復讐を誓い合う矢先に"東日楽コーラ"を経由しハンターの仕事が舞い込む。
コレ幸いと"絵画商法"に放火して溜飲を下げた双子は、妹をハメた"ヲ・カルト"の教徒を残りの全人生を賭けて"狩る"コトに…
後で聞いた話だと、その妹もイケメンと揃って改宗?してしまい、双子の"狩り"も今では目的の無いモノとなってしまったようだ。
結局、交通事故で揃いも揃って瀕死の重傷を負った双子だが、一命は取り止めたらしい。
だから、誘拐(+交通事故)を償ったら今も何処かで"狩り"を続けているかもしれない。
だから、偽物っぽい警察手帳を振り回す双子がいたなら気をつけろ。
サムナとディンはハンターだ。"狩り"のためなら手段を選ばない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あと"東日楽コーラ"の"シロップ"のベースが"ヲ・カルト"の"聖水"だった件。
どうやら"東日楽コーラ"自体が"ヲ・カルト"のドリンク部門から始まったようだ。
同じ青森県の不老不死温泉を飲むと不老不死になると思ってる人は全国に沢山いるが、同じ発想の"霊験あらたか系コーラ"が原点。
何となく"透明な絶望感"とか聞いた辺りから匂ってたケド、ヤッパリねって感じだょ。
だから"東日楽コーラ"は確かにブラックだったカモしれナイが労働争議にはならない。
何しろ信心深い教徒が自ら進んで"無償奉仕"をスルのが前提のビジネスモデルなのだ。
中央から見ると、良くある?地方のブラック企業問題にしか見えナイが、実際には、ソレだけで割り切るコトが出来ナイ事情がアル。
実際、青森県議会で法定外普通税が議論された時は彼等も影に日向に活動したようだ。
何しろ課税となれば、ほとんど家族経営の"東日楽コーラ"は大打撃を被りかねない。
だから、アソベのコトはソッとしておこう。
今、シングルマザーとして頑張ってるしね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そうそう。最後に例のあのタンクが爆発しなかった理由だ。
まぁ純粋な水素じゃなかったとか、気温がとか色々アルが…
僕が"あ、そうか"って思ったのは"呪いの絵"の話だょ。
つまり、現場には"泣いたメイドの絵"が無かったワケさ。
だって、ホラ、つぼみんは泣かなかったろ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アソベがドアを開けると、ミユリさんとつぼみんの笑顔。
彼女達は、両手に抱え切れないほどの贈り物を抱えてる。
「あら?明日ぐらい、御帰宅しようと思っていたのに」
「最近ベビー用品を色々と調べてるの。必要になりそうなモノを選んだわ。受け取って」
「そんな…悪いわ」
「お願いょ。ぜひ受け取って」
「ヲタクの気持ちです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今宵も、外階段を登ろうとしたら、上からエラい勢いでハシゴ小隊長が降りて来るw
やや?ま、まさか….
ココは先制攻撃だ!
「あのさ!青森には古事記や日本書記に登場しない超古代王朝があって、地球共振場を用いたグリッド文明が栄え…」
「テリィたん!"マチガイダ・サンドウィッチズ"の新メニューを食って帰るンだけど、一緒にどう?」
「あ、あの"激辛ポッパー"か、な?」
「そうそう!ハラペーニョとチーズを緑のパン粉で揚げた奴だ。好きだろ?」
「緑のパン粉ってカビだょね?チーズ?とにかく!辛いのダメだし」
「来いよ。1本目はおごる。でも、急がなくて良いょ。俺達には、たっぷり時間がアルからな」
「…でも小隊長、時計してナイだろ?」
すると、彼は心底感心したって顔をスルw
「テリィたん。ホントによく見てるな」
おしまい
今回は海外ドラマでよくモチーフになる"消防士"をネタに、勇敢なハシゴ小隊長と部下、地コーラをめぐる労働争議の首謀者と、彼女を追う会社側のハンターなどが登場しました。
海外ドラマで見かけるChicagoの都市風景を、残暑に焼かれる秋葉原に当てはめて展開しています。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。