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第79話「魔王ルキエと宰相ケルヴ、報告を受ける」

 ──数日後、魔王城で──




「トールどのが『魔力探知機』を作ったですと──っ!?」


 玉座の間に、宰相ケルヴの声が響いた。

 魔王ルキエは、床に置かれた『羽のついた箱』を眺めながら、


「うむ。魔法陣を探すために作ったようじゃな。ひとつはライゼンガのところにある。もうひとつ作ってこちらに送ってきたのは、使用許可をもらうための配慮(はいりょ)じゃろうな」

「……さ、さすがトールどの。なかなかの心遣いですね」

「ずいぶんと落ち着いておるな、ケルヴよ」

「驚きはすべて、最初に叫ぶことで発散するようにいたしました」


 宰相ケルヴは、冷静な表情でうなずいた。


「トールどのとは、これから長い付き合いになるのです。いちいち驚いていては身が持ちません」

「その成長ぶり、主君としてうれしく思うぞ」

「ありがたき幸せでございます。ところで、箱の隣にあるのは?」

「こちらはライゼンガが送ってきたものじゃな。鉱山の近くで見つけた、銀の鉱石じゃ」

「本格的な採掘を行う前のサンプルですね」

「地図も同封しておる。これから調査して、どこから掘り進めるか決めることになるじゃろう」

「できるだけ効率よく作業を進めたいものですね」

「銀の鉱脈の正確な位置がわかれば楽なのじゃがな」


 魔王ルキエはうなずいた。

 それから、彼女は地図と一緒に送られてきた書簡を手に取った。


「それでこちらが、『魔力探知機』の実験記録か」

「トールどのの方でも、アイテムが稼働するかの実験はされていたのですね」

「『魔力探知機』の能力について詳しく書かれておる。ある者が着ていた服があれば、その魔力をたよりに、本人を探し出すことができるそうじゃ」

「逆に本人が身につけていたものを見つけることもできるようですね。ただ、身につけていたのが短時間の場合は魔力が弱く、近づかないと発見できない。魔力が消えるのも早い……なるほど。犯罪捜査などには使いにくいようですね」

「ずいぶんと熱心に、稼働実験をしていたようじゃな」

「ここには、夜遅くまで実験していたと書いてあります」

「うむ。メイベル、アグニス、それと羽妖精たちと一緒に、夜更けまでかくれんぼをしておったそうじゃ」

「なるほど。そうやって魔力を探知できるか確認したのですね」

「…………いいなぁ」

「陛下?」

「なんでもないのじゃ」

「いえ、なにかおっしゃられたような」

「なんでもないと言っておる! それより『魔力探知機』の実験をするとしよう」


 ルキエは玉座から立ち上がり、床に置かれた『魔力探知機』に近づいた。


「トールは、こちらでも『魔力探知機』の能力を確認して欲しいと書いてきておる。実験用の魔石を送ってきておるようじゃ」

「では、それを入れて稼働実験をするとしましょう……おや?」


 ケルヴが『魔力探知機』を持ち上げると、表面の扉が動いた。

 さらに、中でカラカラと音がした。


「扉がちゃんと閉じていなかったようですね。カラカラ音がするということは……」

「トールが魔石を入れておいたのじゃろうな。ならば、このまま実験をするとしよう」

「承知いたしました」


 宰相ケルヴは『魔力探知機』を背中にかついだ。

 このマジックアイテムは、装備することで効果を発揮するらしい。




 ぴこん。




 さっそく、背中の羽が動き出す。

 4枚の羽が伸びて、縮んで──



 ──床の上に置いた銀の鉱石を、まっすぐに指し示した。




「……おや?」

「どうして銀の鉱石を?」

「『魔力探知機』の中を見てみるのじゃ」


 ルキエはケルヴの背後に回り、『魔力探知機』を開けた。

 入っていたのは、銀色の小石だった。


「なんじゃ、入っていたのは魔石ではなく、鉱石のかけらじゃったのか」

「……え?」

「扉がちゃんと閉まっておらず、移動中に鉱石のかけらが入ってしまったのじゃろう。取り出して、実験のやり直しを……」

「なるほど、『魔力探知機』が反応したのは銀の鉱石で……」

「…………むむ?」

「…………あれ?」


「「………………?」」


「銀が含まれた岩石を探し出すなど……そんなことが可能なのか?」

「確かに鉱石は魔力を含んでおりますが、それは本当に微弱なはずで……」


 銀の鉱石は地中に埋まっていたものだ。

 当然、地の魔力をかすかに含んでいる。

 だが、『魔力探知機』は、床の石や柱には反応していない。

 ということは、このマジックアイテムは、銀が含まれた岩石と、普通の岩石を見分けることができるということで──


「『魔力探知機』で銀の鉱脈のありかを見つけ出せるということか?」

「……」

「確かに、銀を含んだ岩石は、微妙に魔力が変化すると聞いたことがある。じゃが、その変化は羽妖精にも感知できないほど弱いもののはずじゃ。それをこの『魔力探知機』は見つけ出せるというのか……」

「……」

「トール。お主はまた、なんというものを。いや、確かに鉱山の開発は楽になるじゃろうが……」

「そんなレベルではございません、陛下!」


 ごんっ。


「大きな音を立てるでない。ケルヴよ。びっくりするではないか」

「びっくりしたのはこっちです! 銀の鉱脈の位置がわかるということは、埋蔵量も測定できるということですよ!? 計画的に採掘することができて、掘り尽くさないように、10年、20年先を見越して作業ができるということです! 銀貨の流通量もコントロールできます! これがどういうことかおわかりですか!?」


 ごんごんっ、ごんっ!


「さらに、応用すれば金の鉱脈を見つけることができるかもしれません!」

「いや、金の鉱石がいるじゃろ?」

「金貨に反応するかもしれないではないですか!?」


 ごんごん! ごごんっ!


「極秘です! このことは極秘といたします! 魔法陣を見つけたあと、このアイテムは封印いたします! 陛下の名の元に、鉱脈を探すときのみ使用可能といたしましょう!」

「わかったから落ち着け、ケルヴ。柱が砕けたら皆が駆けつけてくるぞ。それでは極秘にはならぬじゃろうが」

「……は、はい」


 思いをぶつけた柱から、宰相ケルヴは身を離した。

 ルキエは彼を落ち着かせるように。


「トールとライゼンガには余から書状を出す。このアイテムについては極秘とし、魔法陣の調査だけに使うように伝えよう。鉱脈の調査に使えることは、余と……トールとその助手たち、ケルヴと鉱山開発担当のライゼンガのみの秘密とする。羽妖精たちには、トールから口止めしてもらうとしよう」

「賢明なご判断と考えます」

「時間が出来たら、余はトールの工房を訪ねることにする。あやつには、直接釘を刺した方が良いじゃろうからな。とんでもないアイテムを作るときは、前もって相談せよと」

「心の底から賛成いたします」

「特にこのアイテムは、帝国に対して極秘とせねばならぬ。ソフィア皇女は信頼できるが、これほどのアイテムの情報を明かすのは危険じゃ。どこから秘密が漏れるかわからぬからな」

「御意」


 宰相ケルヴはうなずいた。

 その後、結界の探索についてと、『魔力探知機』の扱いについて詳しく話し合い──それで、今日の謁見(えっけん)は終わりとなった。





「今日決まったことを、トールとライゼンガに伝えておかねばならぬな」


 自室に戻ったルキエは、トールとライゼンガに書状を書き始めた。

 魔王としての指示書だった。


『魔力探知機』は慎重に扱うようにという注意。

 決してその存在を、帝国に知られないようにという警告。

 さらにアイテムを使うべき場合と、使ってはいけない場合について。

 最後に──



(次に会ったときには、余も『かくれんぼ』に混ぜるように!)



 ──と書いてから、ルキエはあわてて羊皮紙を握りつぶした。

 誰にも読まれないように、念入りに、闇属性の炎で消滅させる。


(余は……公式の書状になにを書いておるのじゃ!?)


 ルキエは机の上に置いた『認識阻害』の仮面を着け、ペンを取る。

 深呼吸して、また、書状を書き始める。

 失敗だった。

 魔王としての仕事をしている間は、仮面をつけたままにするべきだったのだ。


 最近は仮面を外すと……時々、普通の女の子のようになってしまうのだ。

 トールのせいだ。

 初めて『簡易倉庫』に入ったとき、仮面とローブを奪われたルキエは、トールに正体をさらしてしまった。トールと……メイベルの前では、弱い自分をさらけだせるようになった。

 そのせいか、仮面を外した状態だと、どうしてもトールのことを考えてしまうのだ。


(トールめ、覚悟しておれ。余を変えた責任は……ちゃんと取ってもらうからの!)


 魔王ルキエは、薬指に着けた『スペシャル開運リング』を見つめて、にやりと笑う。

 そうして、書状の続きを書き始めるのだった。


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