第213話「魔王ルキエ、観光事業を立ち上げる(1)」
「帝国との国境付近に、温泉が湧き出したそうじゃ」
帝国との国交が結ばれてから、数ヶ月後。
魔王ルキエは高官たちを集めて、そんなことを告げた。
「これは先日、ライゼンガ領より報告があったものじゃ。鉱山の開発中に不審な湯気を発見し、調べてみたら、一気に温泉が湧き出したと。魔力に満ちた温泉なので、周囲の魔物への影響が心配、とのことじゃった」
「その温泉をどう扱うか、皆さまの意見をうかがいたいのです」
ルキエの言葉を、ケルヴさんが引き継いだ。
めずらしく、緊張した表情だ。
温泉が湧くなんて滅多にないことだからな。その扱いに悩んでいるのだろう。
「帝国では温泉が、傷ついた戦士を癒やすのに使われていると聞きます」
最初に手を挙げたのは、魔術部隊のエルフさんだった。
「新たな温泉も、ミノタウロスの皆さまや、火炎巨人の血を引く皆さまの療養のために使うのはどうでしょうか」
「おきづかい、ありがとう、ございます」
ミノタウロスの衛兵隊長さんが頭を下げた。
「でも、最近ミノタウロスの仲間は、誰も怪我、しないです」
「そうなのですか?」
「魔獣を退治するとき、『防犯ブザー』と『飛び出しキッド』を持って、行くからです」
「「「あー」」」
え? なんでみんな俺の方を見るの?
エルフさんにミノタウロスさん、ドワーフさんまで。
「『防犯ブザー』があれば、魔獣の動きを止められますからね……」
「『飛び出しキッド』は、魔獣に向かって、突進して、くれます」
「接近戦をしないなら、怪我をすることもないですよね……」
「なるほど……傷ついた戦士が存在しないわけですね」
宰相のケルヴさんが、ぽつりとつぶやいた。
「ですが、温泉を療養施設にするのは良いアイディアですね。ただ、国境地帯には魔獣が出没しますから、対策が必要でしょう。それでは、他に案はありますか?」
「温泉を料理に使うのはいかがでしょうか」
厨房係のドワーフさんが手を挙げた。
「その地でしか食べられないものなら、名物になりそうな気がするのですが……」
「うむ。面白いな」
ルキエがうなずいた。
「じゃが、せっかくの温泉を、料理だけに使うというのはもったいない。やはり心身を癒やす場所にして、さらに、温泉を利用した料理を出すのがよいじゃろうな」
「そうなりますと、やはり魔獣対策が必要でしょう」
「ケルヴの言う通りじゃ。周囲に魔獣がうろついていては、くつろげぬ」
「……勇者世界ではどうしているのでしょう?」
その言葉を聞いて、みんなが一斉にケルヴさんの方を見た。
ルキエ、エルフさん、ミノタウロスさん、ドワーフさんの視線を受けたケルヴさんは、はっとした顔になる。
ケルヴさんは慌てたように、口を押さえて、
「わ、私は今……なにを口走ったのですか」
「意外じゃな。ケルヴから、そのような言葉が出てくるとは」
「ち、違うのです陛下。先日ライゼンガ将軍と『けん玉』で対戦したせいで、つい『勇者世界』という言葉が出ただけなのです。別に意見を申し上げたわけでは……」
そういえばケルヴさんとライゼンガ将軍、休日は『けん玉バトル』をしてるね。
ケルヴさんの鮮やかな『けん玉』さばきに、ライゼンガ将軍は手も足も出ないみたいだけど。この前はケルヴさんが操る『けん玉』の鎖で手足を拘束されて、じたばたしてたし。
本当にケルヴさんは、勇者世界のアイテムへの適性が高いんだよな……。
「口に出してしまったからには、仕方ありません」
ケルヴさんは俺の方を見て、
「トールどのにうかがいます。勇者世界では、温泉をどのように活用しているのでしょうか」
「観光施設にしているはずです」
少し前に見つかった、先々代魔王の遺産の中に、そんな資料があった。
洞窟内にあったせいで湿っていて、かなりボロボロだったけど。なんとか、内容は読み取れたんだ。
「勇者世界では温泉が見つかると、そのまわりが一大観光地になるそうです」
「観光地……つまり、温泉を使って人を集めるということか?」
「はい。ルキエさま。温泉に入って楽しんだり、ドワーフさんがおっしゃったように、温泉を使った料理なんかも提供されているようです。特に、自然の中で入る露天風呂は格別だそうですよ」
「「「…………おお」」」
玉座の間に、ため息が満ちた。
エルフさんもミノタウロスさんもドワーフさんも、夢見るような顔をしてる。
みんな、勇者世界の観光地をイメージしているのかもしれない。
「自然の中で温泉に入るとなると……やはり、魔獣に襲われる危険がありますね。勇者世界では、どのような対策がなされているのでしょう?」
「資料には『鹿威し』というアイテムが載っていました」
「『鹿威し』? それは、どのようなものですか?」
「えっと……植物の筒に水を注いで、その重みで前後に傾けるものです。それが限界に達すると筒が動いて、カコーン、という音をさせるらしいです」
資料には『響き渡る鹿威しの音色が、あなたをくつろぎの空間に誘います』と書いてあった。
あれはたぶん、魔獣避けの結界を作るためのアイテムだろう。
「『鹿威し』というからには鹿型の魔獣……おそらく『ジャイアント・クリスタル・ディアー』レベルの敵を排除するものなのでしょう」
「全長5メートルの巨体で高速移動し、硬質の角で鉄の鎧を貫く、あの魔獣を!?」
ケルヴさんが目を見開く。
「危険度としては高位の魔獣ですよ? 勇者は、そんなものが棲息しているエリアで、お風呂に入っているのですか!?」
「そうすることで勇者は心を鍛えているのかもしれません」
もちろん『鹿威し』によって『ジャイアント・クリスタル・ディアー』は排除されていたのだろう。
だけど、温泉が奴らがはびこるエリアにあることは間違いない。
一歩間違えば生命を失う場所で、裸になって風呂に入る……か。
まさに勇者でなければできないことだ。すごいな。
「ただ、温泉の資料には『鹿威し』の詳しい情報が掲載されていないんです。ですから、想像で作るしかないのですが……」
「……難しいものなのですね」
ケルヴさんは首をひねってる。
「じゃが、面白い。ちょうど帝国との友好関係が成立したばかりじゃ。国境地帯に観光地を作るのもよかろう」
話を聞いていたルキエが、ぽん、と、膝を叩いた。
「勇者世界を元にした観光地となれば、帝国の民もやってくるかもしれぬ。友好を深めるのにはぴったりじゃ」
「いいアイディアだと思います」
「わたしたちも、温泉、利用したい、です」
「『勇者温泉』……そんな施設なら、大陸のあちこちからお客が来ると思います!」
みんな乗り気みたいだ。
確かに、『勇者温泉』って言葉にはインパクトがあるよね。
帝国の人たちは喜んで遊びに来そうだ。もちろん、客を選ぶ必要はあるけど。
でも、たくさんの人が来れば、魔王領の財政面でもプラスになるんじゃないかな。
「話は決まったようじゃな。では、ライゼンガ領に、観光施設『勇者温泉』を作ることとする。ケルヴは機材の手配を、他の者は、開発に参加してくれる者を募るのじゃ。これを魔王領最初の観光事業としよう!」
「「「「はい! 魔王陛下!!」」」」
「トールは、『鹿威し』を作るがよい。詳細は任せる。とにかく、魔獣を『勇者温泉』に近づけないようにするのじゃ」
「承知しました!」
こうして魔王領の人々は、観光施設『勇者温泉』を作ることになったのだった。
──数日後──
「完成しました。これが、試作品の露天風呂です」
「……おぉ」
ここは、魔王城の地下にある、ルキエ専用の浴室。
改装後の光景に、ルキエは目を輝かせてる。
浴室の中央には、魔王専用の湯船がある。
それを囲むのは、たくさんの植木だ。
ドワーフの庭師さんとミノタウロスさんが、協力して運んでくれた。
魔王陛下を外でお風呂に入らせるわけにはいかないからね。
露天風呂の雰囲気だけでもと思ったんだけど……すごくいい出来だ。
室内なのに、樹木のいい香りがする。
風の魔石が空気を循環させている影響で、樹の枝がさわさわと揺れている。
まるで、外にいるみたいだ。
部屋の隅にあるのは、新作のマジックアイテム『鹿威し』だ。
形は、勇者世界のものと同じ。
竹という植物が手に入らなかったから、木製の筒を使っている。
勇者世界と同じように、水を注いで動かして、一定間隔で音が鳴らす仕組みだ。
「これは……すばらしいものじゃな。勇者世界の者たちは、いつもこんなお風呂に入っておるのか……」
「温泉は再現できなかったので、お湯は『しゅわしゅわ風呂』のものですけど」
「いや、雰囲気だけでも十分じゃ。ありがとう。トール」
ルキエは俺の手を握った。
「さっそく、体験してみるとしよう」
「感想を聞かせてください。ルキエさまの意見が、観光施設『勇者風呂』の元になりますから」
「わかっておる。これも魔王の仕事じゃものな」
「俺は外にいますから、なにかあったら呼んでください」
「いや……脱衣所におるがよい」
こほん、と、咳払いして、ルキエは言った。
「感想を伝えねばならぬからな。声が聞こえる場所におった方がよかろう」
「いいんですか?」
「余が風呂場に入るまでの間は、後ろを向いておるのじゃ」
「は、はい」
「…………し、仕方あるまい。仕事じゃものな」
「…………し、仕方ないです。仕事ですからね」
そんなわけで、ルキエは試作品の『勇者風呂』に入ることになり──
俺は、その感想を聞くことになったのだった。
──ルキエ視点──
「……いい気持ちじゃ。自然の中で入るお風呂が、これほど心地よいとは」
ルキエは浴槽の中で、伸びをした。
『しゅわしゅわ風呂』の生み出す泡が、細い身体を撫でていく。
目を閉じると、木々のざわめきが聞こえる。
頬に触れるのは、『風の魔石』が生み出す、やさしい空気の流れ。
ほっ、と息をつくと、力が抜けていく。
それでルキエは、身体に溜まっていた緊張に気がついた。
魔王は、常に重責を負っている。
常に誰かに見られており、魔王として発する言葉は、他者に影響を与えてしまう。
そんな職責にまつわる緊張が、いつの間にか溜まっていたのだろう。
「…………勇者世界の者は、いつも、このようなお風呂に入っておるのか」
常に戦いが続いているという、勇者世界。
それでも癒しを求めて、勇者は温泉に浸かっていたのだろう。
似たようなお風呂に入っていると、勇者世界に想いをはせてしまう。
魔王として勇者に対して思うところはあるが……それでも彼らは、尊敬に値する相手だ。
こうして勇者世界の温泉に入れるのも、彼らがこの世界に来たからで──
かこぉぉぉぉ────ん
ふと、部屋の隅から、木を打ち鳴らす音が聞こえた。
「……あれが、トールの作った『鹿威し』の音か」
不思議と、落ち着く音色だった。
勇者世界ではあの音で『ジャイアント・クリスタル・ディアー』を追い払っていたのだろう。
あれほど危険な魔獣を追い払えるアイテムが側にあれば、落ち着くのも当然で──
かこぉぉぉ──────ん
…………オマワリサ──────ン
「…………むむ?」
『鹿威し』の音色の後に、奇妙な音が聞こえた。
「…………気のせいじゃろうか」
ため息をついて、ルキエはまた『しゅわしゅわ風呂』に身を委ねる。
やっぱり、心地よい。
トールが作ってくれたものだと思うと、癒し効果も格別で──
かこぉぉぉぉ──────ん
また『鹿威し』が鳴っている。
癒やされる音色だ。ずっと、聞いていたい。
温泉に『鹿威し』。勇者世界とはなんと風流な……。
かっこぉぉぉぉ──────ん
…………タスケテー。オマワリサ────ン。
「…………むむむ?」
かこーん。
……オマワリサーン。
かこーん。かこーん。かこーん。
ピーポーピーポー。タスケテー。コッチデス、オマワリサ────ン。
かこかこかこかこ。
オマワリオマワリオマワリオマワリサ…………。
──トール視点──
ばん!
「落ち着かないのじゃけど!?」
「ルキエさま!?」
浴室のドアが開いて、身体にタオルを巻いたルキエが飛び出してきた。
湿った金髪が、肌に貼り付いてる。
ルキエは目をつり上げて、俺を睨んでる。
「お風呂になにか問題がありましたか?」
「風呂はよい! 風呂はよいのじゃ!! 問題は『鹿威し』なのじゃ!!」
「え? 『鹿威し』の安全性は確認済みですけど……?」
「あの声が問題なのじゃ! なんでたまに『オマワリサーン』の声がするのじゃ!?」
「魔獣避けのためです」
勇者世界の『鹿威し』がどんな構造なのか、わからなかった。
資料が少なすぎたからだ。
だから──
「『鹿威し』が鳴るのに合わせて、時々『防犯ブザー』が発動するようにしたんです。そうすれば魔獣避けになりますから、安心してお風呂に入れますよね?」
「常にオマワリサンが呼ばれておる中で、安心できると思うか?」
「……駄目ですか?」
「……危険を知らせる鐘が、鳴りまくっておるようなものじゃからな」
「わかりました。ちょっと改良してきます」
ルキエの意見はもっともだ。
確かに、常に『オマワリサーン』の声がしてたら落ち着かないよな。
せっかくの『鹿威し』の音もかき消されちゃうし。
……音が鳴らないようにすればいいわけだから……よし、これでいこう。
そうして俺は、『勇者温泉』に改造をほどこしたのだった。
──数分後。ルキエ視点──
「………………」
かこぉぉぉ──────ん
……シュバッ。
「……………………」
かっこぉぉぉ──────ん
……シュバッ。シュババッ!!
「…………………………」
かこかこかこかこかっこーん。
シュバシュバシュバシュバーン!
──トール視点──
「落ち着かないのじゃけど!!」
「ええっ!?」
「なんで『鹿威し』が鳴るたびに、風呂場を『飛び出しキッド』が走り回るのじゃ!?」
「魔獣対策のためです」
「わかる! それはわかるのじゃ! じゃが、くつろいでおる時に、目の前を子どもの看板がよぎるのは……」
「ルキエさま。タオルが落ちかけてます」
「し、仕方ないじゃろ!? 慌てておったのじゃから!!」
「と、とにかく、ルキエさまのお考えはわかりました。改善しましょう」
「う、うむ。頼む」
俺は再び、『勇者風呂』を改造することにしたのだった。
──数分後。ルキエ視点──
「……最初から『三角コーン』を使えばよかったのじゃな」
ルキエは湯船の中で、ため息をついた。
結局、魔獣対策には『三角コーン』を使うことで落ち着いた。
あれは『防犯ブザー』のように、魔獣を威嚇する能力がある。
それで『勇者温泉』を囲めば、魔獣は近づけなくなる。
みんな落ち着いて温泉を楽しめるはずだ。
「…………これでやっと、くつろげるのじゃ」
ルキエはまた、湯船の中で手足を伸ばした。
『三角コーン』は木々の後ろに配置されているため、視界には入らない。
警戒感を誘う『オマワリサーン』の声もしない。
魔獣対策の問題さえ解決すれば、『勇者風呂』はすごぶる快適だ。
「…………『勇者風呂』は本当に、魔王領有数の観光地となるかもしれぬな」
かこぉぉぉ──────ん
「…………帝国との友好。新たな財源となる観光地。民のための施設。まさか余の時代で、魔王領にこれほどの変革がなされるとは」
かこぉぉぉ………………ん
「…………これもトールのおかげじゃな。これから魔王領はどうなっていくのか、楽しみなのじゃが……」
かっこぉぉぉ──────ん
「…………………………」
──トール視点──
「落ち着かないのじゃけど……」
「ええええええっ!?」
「ずっと『鹿威し』の音と、『防犯ブザー』『飛び出しキッド』が連携しておったじゃろ? 『鹿威し』の音を聞くと、それを思い出して、落ち着かなくなるのじゃ……」
「……ごめんなさい」
「まぁよい。これは余だけの問題じゃ。実際の『勇者温泉』には『鹿威し』を設置するのがよいじゃろう。あれは勇者世界の温泉には、必須アイテムのようじゃからの」
「いえ、ルキエさまが落ち着けるように、『鹿威し』を改良します!」
ルキエが『勇者温泉』を楽しめないなんてあんまりだ。
これは俺のミスだ。
『鹿威し』の音を変えるか……形を変えれば解決できるはず。
やってみよう。ルキエのためなんだから。
「ちょっと待っていてください。今すぐ改良しますから」
俺はお風呂場に向かって歩き出す。
でも、ルキエが扉の前に立ちはだかる。彼女は、両手で俺を押さえながら、
「落ち着けトールよ。余は別に気にしておらぬのじゃから」
「そういうわけにはいきません! 俺はルキエさまにも『勇者温泉』を楽しんで欲しいんです!」
「気持ちはうれしい。じゃが、まずは落ち着くのじゃ!」
「ルキエさまこそ、そこをどいてください!」
「トールこそ、少し頭を冷やして…………わ、わわっ」
つるり。
お風呂上がりのルキエの、足が滑った。
押し合いをしていた俺たちは、そのまま床に倒れ……って、まずい。
ルキエが床に頭をぶつけたら大変だ。なんとかしないと……。
俺はルキエの身体をつかんで引き寄せる。
そのまま、自分の身体を回して……俺が下になるように…………。
ばたん。
…………ふぅ。
よかった。なんとか、間に合った。
俺が下になって、ルキエを抱き留めることができた……本当に、よかった。
被害は、俺が背中を打っただけ。身体を丸めてたせいか、頭はぶつけずに済んだ。
危ないところだった……。
「…………トールよ」
「…………はい。ルキエさま」
「………………この状態は、落ち着かないのじゃけど」
「え?」
目の前には、ルキエの上気した顔がある。
その下には細い首があって、鎖骨があって……あれ? タオルはどこに…………?
ルキエの背中に回した俺の手が触れてるのは……むき出しの肌。
えっと、もしかして、抱き留めたときにタオルが脱げて…………。
ばたん。
「陛下。トールさま。『勇者風呂』はどのような感じに…………」
メイベルの声がした。
そういえば、後で様子を見に来るって言ってたっけ。
「…………失礼しました」
ぱたん。
メイベルはドアを閉めた。
「ち、違うのじゃメイベル! 戻ってこい!!」
「え、でもでも。その……」
「これは事故じゃ。ただの事故じゃから! いいからこっちに来るのじゃ!!」
「で、ですが……陛下」
「なんじゃ、メイベルよ」
「トールさまに見せていただいた勇者世界の温泉には、さまざまな種類があったのです。冷え性に効く温泉や、肩こりに効く温泉や、皮膚の病に効く温泉などがありました」
「そ、それがどうしたのじゃ?」
「その中に……『子宝の湯』というものがありましたので……トールさまはそれを再現されたのかと。その結果、おふたりはそのような状態になる運命へと、導かれたのではないかと……?」
「そうなのか、トールよ!?」
「いえいえ、さすがにそれは無理ですから!!」
あったけど。確かに勇者世界の資料にはあったけど。
さすがにそれを再現するのは無理だから。
というか、勇者世界の温泉はすごすぎだから。
「違うそうじゃ。だから、入って来てもよいぞ。メイベルよ」
「わかりました、ですが陛下……本当によろしいのですか?」
「良いと言っておろう。まったく」
「わかりました。それではひとつ、お願いがあります」
「なんじゃ?」
「あとで私も同じような『勇者温泉』を体験させていただいてもいいですか? できれば……トールさまの立ち合いの元で……」
「なにか企んでおるような気がするから駄目じゃ!!」
色々あったけど『勇者温泉』の開発は進められることとなり──
ルキエが立ち上げた『観光地新設計画』は、魔王領の新規事業としてスタートしたのだった。
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トールやメイベルと一緒に水遊びをする少女の正体は……。
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