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第201話「一騎打ちを見守る」

 ──トール視点──




「これが『カースド・スマホ』か」


 俺は、地面に落ちていた『スマホ』を拾い上げた。

 リカルド皇子が持っていたものだ。ディアス皇子との戦いの最中に、吹き飛ばされてきた。


 皇太子ディアスの攻撃は(はげ)しかった。

 対するリカルド皇子も、スマホをかばったまま戦うわけにはいかなかったんだ。


 戦いは今も続いている。

 剣風(けんぷう)は土を巻き上げ、衝撃波(しょうげきは)が木々を叩いてる。

 すごい戦いだ。

 さすがは帝国の皇子同士ってところか。


「とりあえず『カースド・スマホ』は『超小型簡易倉庫』に封印しとこう」


 これは、絶対にいじっちゃいけない奴だ。

 以前は『いじりたい』と思ったけど、『軍勢(ぐんぜい)ノ技』にかかった人たちを見て、気が変わった。

 いくら勇者世界の技術でも、やっちゃいけないことがある。

 人間を軍勢にしてしまう魔術なんか、ない方がましだ。


「『低周波治療器』がなかったら、リカルド皇子を止められなかったかもしれないもんな」

「……ですね」

「……『軍勢』は、本当に強力だったので」


『アルファー波』だけでも『明日の仕事がどうでもよくなるクッション』だけでも、駄目だった。

『軍勢』を止めるには、『低周波治療器』が必要だったんだ。

 本当に……これが『通販カタログ』に()っていてよかったよ……。



────────────────────


『オリジナル低周波治療器』


 デスクワークによるつらい肩こり、腰痛はありませんか?

 仕事の疲れは、気づかずにたまっていくものです。

 家に帰ったあとでも身体の痛みから、仕事のことを思い出しまう……そんなこともあるものです。


 この『オリジナル低周波治療器』で、痛みをすっきりさせましょう!

『オリジナル低周波治療器』は、当社独自のオリジナル・パルスで、筋肉を振動させます。そうすることで、あっという間に筋肉の()りをほぐします!


 皆さまご承知のように、筋肉を動かしているのは『生体電流』です。

 弱い雷のような『生体電流』を、当社は長年分析してきました。

 その結果、『オリジナル・パルス』の開発に成功したのです! 効果は通常の『低周波治療器』の64倍 (当社独自の分析です)。極上のマッサージを受けているような感覚を堪能(たんのう)できます!


 筋肉がピクピクするのは、ほぐれていく証拠。

 この『オリジナル低周波治療器』を使って、究極のリラックス体験を。

 明日の仕事も人生の悩みも、()りと一緒に溶かしてしまいましょう!


────────────────────



 このアイテムは弱い雷を発生させることで、筋肉をピクピクさせるものらしい。

 そうすることで身体をほぐして、究極のリラックス体験が得られるそうだ。


 確かに、勇者世界なら、そういうものも必要だろう。

 明日の仕事も人生の悩みも溶かしてしまう……というのもわかる。


 勇者世界は、勇者たちが常に最強をめざしてしのぎを(けず)る場所だからな。

 身体に負担がかかるような大技を使うこともあるだろう。

 というか、それが普通だ。

 怪我は治癒魔術(ちゆまじゅつ)で治せるだろうけど、筋肉の疲労や……精神的な疲労も溜まっていくに違いない。勇者のストレスだ。並大抵のものじゃない。


 それを解消するために『人生と仕事がどうでもよくなるアイテム』が必要だったんだろうな。

 だから、俺はそれを『軍勢ノ技』対策に使うことにしたんだ。


『低周波治療器』のように雷を起こすのは、そんなに難しくない。

 ただ『生体電流』に変化させるのが大変だった。

 結局は『ドラゴンの骨』──『精神感応素材』を使うしかなかったんだ。


 あれは精神に反応して、さまざまな効果を生み出す。

 だから、あの素材を通すことで『手足を動かす精神的な電流』──『生体電流』を生み出すことができたんだ。


 その結果、完成したのが、この世界の『低周波治療器』だ。



────────────────────



『人生と仕事がどうでもよくなる「低周波治療器」』


(属性:水水・火火・風風風風)

(追加属性:精神感応)

(レア度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★)



 水属性により、対象の血行の状態を分析する。

 火属性により、対象の体温分布を分析する。

 風属性により、対象の筋肉を激しくピクピクさせる雷を発生させる。


 弱い雷を発生させて、対象の筋肉をピクピクさせるアイテム。

 それによって、凝り固まった身体をほぐすことができる。

 対象を、長い時間温泉に浸かったような、ゆるんだ状態に変化させる。


『アルファー波・リラックスCD』と同時に使うことで、効果は数倍になる。

 対象に貼り付けて使うこともできるし、相手の周囲に配置して『低周波治療結界』を作り出すこともできる。


 内部には『精神感応素材せいしんかんのうそざい』が組み込まれている。

『精神感応素材』を通すことで、通常の雷を『生体電流のような雷』に変化させている。


 また、『精神感応素材』は相手の思考を読み取り、相手が『動かそう』と思った部分に雷を送り込むことができる。


 そのため、相手は『動かそう』と思った筋肉がピクピクしてしまう。

『低周波治療器』の結界に入り込んだ相手は、自分の肉体をコントロールできなくなる。


 無理をすれば動くことができるが、その場合はピクピクしながら歩いたり、剣を振るったりすることになる。とても危ない。


 物理破壊耐性:★★★

(「精神感応素材」のせいで、たまに相手の思考を読んで、攻撃を避けたりする)




────────────────────



「低周波治療器って……すごい効果があるんですね……」


 俺の隣で、メイベルが言った。


「勇者世界じゃないと考えつかないやり方です。弱い雷をぶつけることで、対象の筋肉を強制的にピクピクさせてしまうなんて……」

「発想がすごいよね。弱い雷を使うことで、相手に気づかれないようにして……レジストしたり、『対魔術障壁』を使ったりできないようにしてるんだから」

「わかるので。アグニスも、そんなに弱い雷なら、気づかないと思うので……」


 アグニスも真剣な表情だ。


 ライゼンガ将軍を見てきた彼女にはわかるのだろう。

 強い者は、弱い攻撃をものともしない。

 多少の剣なら筋肉で受け止めてしまうし、弱い攻撃魔術ならレジストできる。逆に強い魔術だったら『対魔術障壁』を展開するか、気合いでなんとかするだろう。


 でも、弱くて、当たると筋肉をピクピクさせる雷の対処は難しい。

 脅威(きょうい)だと認識できないからだ。

 だけど、当たると筋肉は、容赦(ようしゃく)なく、激しくピクピクする。身体が思い通りに動かなくなり、立つことも難しくなる。


低周波治療器ていしゅうはちりょうき』は、強い人間ほど、対処しづらいアイテムなんだ。


「これって、相手の思考を読んで雷を生み出してるんですよね。だとすると……」

「『対魔術障壁』を張っても、読まれるかもしれないので。別方向から飛んで来て、ピクピクさせられるかもしれないの……」

「そうだね。しかも、ピクピクした後はコリが取れて、筋肉がゆるむからね。ゆっくりお風呂に入った後みたいに。反撃は難しいと思うよ」

「「…………すさまじいアイテム (です) (なので)」」


 メイベルとアグニスはため息をついた。


『低周波治療器』の効果は、今も、確認できる。

『飛び出しキッド』の結界は、まだ展開されているからだ。

『軍勢』は、ひとりを除いて眠っちゃったから、『アルファー波』発生装置はオフにしてるけど。

 そうじゃないと、皇太子ディアスとリカルド皇子も眠っちゃうからね。


 ふたりの希望は、直接剣を合わせて、決着をつけること。

 だから、今もふたりは結界の中で、戦いを続けているんだ。




 ぶんっ!



 リカルド皇子の剣が空を切る。

 弟の剣を見切った皇太子ディアスは間合いを詰め、剣を振る。


 だが、届かない。

 衝撃波が、周囲の草を揺らしただけ。

 長兄の剣をかわしたリカルド皇子は、あざけるような笑みを浮かべる。


「その程度かディアス (ピクッ)兄!」

「なんだと (ピクッ)!?」

「このリカルドに (ピクッ)(とど)めを刺せないとは (ピクッ)、帝国皇太子の名が泣くぞ (ピクッ! ピクピクピクッ!!)」

「ふざけるなリカルド (ピクッ)! 貴様こそ (ピクッ)、おのれの失敗を (ピクッ)恥じて (ピクッ)、剣を捨てるべきだろう!? (ピクピクッ)」

「この (ピクッ)リカルドは失敗などしていない! (ピクッ) ディアス兄こそ。魔王領に膝を屈するとは (ピクッ)恥を知れ (ピクピクピクピクッ)!!」

「このディアスは敗北を知り、より (ピクッ)強く (ピクッ)なった (ピクピクッ)!! 正しき強さを求める者となったのだ (ピクピクッ)!! 兄として、そのことをお前にわからせるだけだ!! (ピクピクピクッ!!)」


「「うぉおおおおおおっ(ピクピクピクピクピクピクピクッ!!)!!」」




 皇太子ディアスとリカルド皇子は、『低周波治療器』の結界の中で戦ってる。

 決着はつかない。ピクピクしてるからだ。


 筋肉がゆるみはじめているから、動きもふにゃふにゃだ。

 剣を振るたびにピクピクするせいで、間合いも定まらない。

 それでも魔力と力だけはあるから、衝撃波(しょうげきは)が発生したりしている。


 俺もソフィアも、こうなることはわかってた。

 だから一騎打ちに反対しなかったんだ。

 でも、長いな……ふたりとも体力あるからな。早く終わらないかな……。


「私の身体もピクピクしている。う、うむ。筋肉がほぐれていくようだ。拘束(こうそく)されていた身には心地よいな……」

「ご無事でよかった……カロンさま。カロンさまぁ……」 


 大公カロンも解放した。

 あの人は結界の中で、()り固まった筋肉をほぐしてる。

 泣きながら抱きついてるノナさんも一緒だ。


「ありがとうございました。トール・カナンさま」


 いつの間にかソフィア皇女が、俺の側に来ていた。

 彼女は胸を押さえて、安心したように、


「あなたのおかげで、事件は解決いたしました。本当にありがとうございました」

「いえ、俺もアイテムの実験ができてよかったです」


 勇者世界の『人生と仕事がどうでもよくなる3点セット』が、『軍勢ノ技』対策に使えることもわかった。

 これで『カースド・スマホ』対策は完璧だ。

 本当によかった。


「でも『軍勢』になった人たちは、これからどうなるんでしょう」

「兵士たちは連行されて、帝都で事情を聞かれることになるでしょう」


 そう言ってソフィアは、少し考えてから、


「リカルド兄さまは……かつての私と同じように、離宮に幽閉(ゆうへい)されることになると思います。重い処罰を下そうとする者もいるでしょうが、大公さまと、ディアス兄さまが止めるでしょう」

「そうなりますか」

「……トール・カナンさま」

「はい」

「あなたさまは、帝国の弱点について、ご存じですよね」

「と、おっしゃいますと?」

「私は、リカルド兄さまがこのようなことをしたのは、帝国に弱点があるからだと思っています。『カースド・スマホ』と『軍勢ノ技』に取り()かれてしまうような、致命的な弱点が」

「……そうかもしれません」

「私と同じく『弱さ』を知っているトール・カナンさまには、それがおわかりになるのではありませんか」

「推測でしたら」

「おっしゃってください」

「帝国の弱点……それは、弱さを、恐れていることでしょうか?」

「やっぱり、わかっていらしたのですね……」


 俺とソフィアは顔を見合わせて、笑った。


 帝国の民はみんな、勇者のような存在になることを目指している。

 皇帝一族や貴族たちは特にそうだ。


 だから、それにそぐわないもの……俺やソフィアを排除し、いないものとした。

 あの国に、弱いものは存在できなかった。


 その結果、弱さへの恐怖が生まれたんだろう。

 強さと弱さなんて、相対的なものだもんな。

『自分』より強い者が現れたら、『自分』は相対的に弱くなるんだ。


 でも、弱くなったら、帝国からは排除されてしまう。

 そういう恐怖が、常にどこかに、存在する。


 だから、皇帝一族や貴族たちは、手段を選ばずに強さを求める。

 かわりに、弱さや敗北感を、異常なくらいに恐れるようになったんだろう。

 だって、弱くなったら排除されちゃうんだから。


「……私はずっと、魔王領の方々がうらやましかったのです」


 ソフィアはふと、そんなことを言った。


「あの国は、勇者に敗北したところから始まっております。だから『人間に学ぶ』というモットーを(かか)げていらっしゃるのでしょう?」

「そうですね。それと、適材適所が魔王陛下の方針です」

「ある者は、ある場所で有能で……別の場所では、別の者が有能ということですね。強さとか、弱さではなく」

「そうです。俺も、錬金術しか取り柄がないです。でも、魔王陛下も魔王領の人たちも、大事にしてくれています。魔王領は、そういうところなんです」

「あら? トール・カナンさまは、他にもすばらしい取り柄がございますよ?」

「なんですか?」

「秘密です。ねぇ、メイベルさま。アグニスさま?」


 ソフィアはメイベルとアグニスに笑いかける。

 メイベルたちは、すごくいい笑顔で、


「はい。トールさまのいいところは、私たちの秘密です」

「秘密なので」

「えー」


 ……あとで、ルキエに聞いてみようかな。

 適材適所がモットーのルキエなら、俺の取り柄を教えてくれるかも。


「でも、トールさま。『カースド・スマホ』は、もうひとつあるのですよね?」

「そうだね。たぶん、すでに誰かの手に渡っていると思う」


『正義の精神感応スマホ』によると、勇者世界からはふたつの『カースド・スマホ』が送り込まれている。

 リカルド皇子が入手したものは回収できた。

 でも、もうひとつが、どこかにあるはずなんだ。


「まぁそれも『軍勢ノ技』が使われなければ問題ないよ」

「でもでも、誰かが『軍勢ノ技』を使ってしまったら……」

「対策は考えてあるから、大丈夫」

「そうなのですか?」

「『軍勢ノ技』を使っている人たちが、どんな精神状態になってるかわかったからね。それに、こっちには『精神感応素材』がある。だから、なんとかなるよ」


 皇太子ディアスも『軍勢ノ技』対策に乗り気だからね。

 帝国内での調査に協力してくれるだろう。


 それで、その皇太子とリカルド皇子は──


「「…………うぅ (ピクピクピクピクピクピクピクピクッ)」」


『低周波治療器』の結界内で、打ち上げられた魚みたいにピクピクしてる。

 ふたりとも、力尽きたみたいだ。


「……『ノーザの町』の『オマワリサン部隊』に告げる」


 手足をピクピクさせながら、皇太子ディアスは言った。


「我が弟リカルドを、拘束(こうそく)せよ。私みずからが、帝都へと連行する」

「「「承知しました!!」」」


 アイザックさんたちが、俺の方を見た。

 あ、はい。今『低周波治療器』を切ります。ちょっと待ってね。





 こうして、リカルド皇子と、彼の兵士たちは連行されていった。

 リカルド皇子は、言い訳も、弁明(べんめい)もしなかった。


 ただ、最後に──


「やはりディアス兄は、次期皇帝にふさわしくはない」


 ディアス皇子を見据えて、そんなことを言った。


「ディアス兄は……このリカルドと戦う必要などなかった。最強を目指すものならば、このリカルドとの一騎打ちなど拒否して……部下に捕らえさせればよかったのだ。ディアス兄は、変わった。このリカルドには、あなたが強そうには見えない。弱くなったのではないか……ディアス兄」

「かもしれぬな」


 ディアス皇子は、ほぐれた肩をぐるぐる回しながら、答えた。

 それだけだった。


 ふたりの皇子は、もう、言葉を交わすことはなかったのだった。






「大公さま大公さま。大公さまぁ!」

「落ち着けノナ。私はもう、大丈夫だ」


 大公カロンは無事だった。

 ずっと縛られていたけれど、今は筋肉もほぐれて、ぐったりと地面に座り込んでいる。

 副官のノナさんは、大公カロンに抱きついて、泣きじゃくってる。


錬金術師(れんきんじゅつし)どのにも、世話になったな」


 大公カロンは俺を見て、そう言った。


「貴公には手間をかけさせてしまった。本当なら帝国には……貴公を頼る資格などないのだ。貴公を追放したというのに、今さら、助けを求めるなど……と」

「気にしないでください」


 俺は言った。


「リカルド皇子が使っていた術のことは、魔王陛下も危険視されていました。俺にその調査と対策を命じられていたのです。今回の件は、俺の仕事のうちなんです」

「……そう言ってくれると、気が楽になる」

「それに、大公さまのことは嫌いじゃないですから」

「うれしいことを言ってくれる……すまぬが、ノナよ、手を貸してくれぬか。いつまでも座り込んでいては、錬金術師どのに失礼だからな」

「は、はい。大公さま」


 ノナさんの手を借りて、大公カロンは身体を起こした。

 それから、俺とメイベル、アグニスに向かって深々と頭を提げた。


「今回の件は、帝国の失態である。それに隣国の手を借りてしまったことは、このカロンの不徳のいたすところ。これについては必ずや、謝罪と、お礼をさせてもらおう。この大公カロンの名誉にかけてな」

「ありがとうございます。大公さま」


 俺とメイベルとアグニスは、大公カロンに礼を返した。


「これから私とディアス殿下は帝都に向かい、皇帝陛下に報告を行うこととする。その後は使者を立てて、私と殿下が、魔王領を訪れることとなるだろう」

「それは個人的にですか?」

「いや、国交を開くための、正式な使者としてだ」


 大公カロンは──ノナさんに支えられながら──堂々とした口調で、


「私は皇帝陛下対して、魔王領との対等な国交を開くように進言する。それが実現するように、力を尽くそう」


 魔王領と帝国の、対等の国交。

 これはこれまでの魔王がなしえなかったことだ。


 実現すれば、帝国全土との交易も可能になる。

 魔王領の発展に大いに役立つはずだ。


「ひとつ、よろしいですか。大公さま」

「うむ。うかがおう」

「ここだけの話ですが、リカルド殿下に魔術を伝えたアイテムは、もうひとつ、この世界に落ちていると思われます」

「なんだと!?」

「確かな筋からの情報です。それで、帝国内で活動できる対策部隊を編成したいんです。魔王領と『ノーザの町』の合同部隊を。その結成に大公さまのお力を……」

「承知した! このカロン自らが、調査部隊に参加させていただこう!!」

「……え?」

「帝国の大公さまご自身が!?」

「す、すごいので……」


 予想外すぎた。

 メイベルもアグニスも、びっくりしてる。

 いや、大公カロンの提案は、願ってもないことではあるんだけど。


 大公カロンが参加する部隊なら、帝国内を自由に移動できる。

 元剣聖カロンの顔そのものが通行証のようなものだ。


 部隊の構成員が人間でも亜人でも魔族でも関係ない。

 大公カロンの名前ひとつで自由行動が保証される。

 すごいな……これは。


「私の思いは君たちと同じだ。あの魔術を野放しにするわけにはいかぬ」


 大公カロンは言った。


「それに今回は、ノナに大変な思いをさせてしまったからな。あの魔術には恨みがあるのだ。ノナに心配をかけた反省の意味でも、あの魔術は根絶(こんぜつ)せねばなるまいよ」

「……カロンさま」

「すまぬな。ノナ」


 ノナさんの頭を()でる、大公カロン。


「これまで言葉にしたことはないが……私はお前を、実の娘(・・・)のように(・・・・)思っている(・・・・・)。大事な子どもに心配をかけてしまったことを、心苦しく思っているのだよ」

「あの……あのあの、カロンさま?」

「我が娘よ。頼りない父だが、どうか、これからも側にいてくれ」

「…………娘」

「そうだ。血のつながりはなくとも、我らは親子なのだからな」

「…………親子」


 副官ノナさんの目が、どんよりとしていく。

 メイベルとアグニスも……なんだか、気の毒な人を見ているような顔になる。


 そういえば副官ノナさんは、大公カロンに想いを寄せているんだっけ……。

 …………がんばって。ノナさん。


「さてと、それじゃ俺たちは、魔王領に戻ろう」


 事件は、とりあえず片付いた。

 ルキエに報告に行かなきゃいけないからね。


 それに、第2の『カースド・スマホ』探索部隊のこともある。

 大公カロンが協力してくれることを伝えて、部隊の編成もしてもらわないと。


 たぶん、第2の『カースド・スマホ』は、すぐに見つかると思う。

 すでに対策は考えてある。


 さっさと片付けて、のんびりしよう。

 もうすぐルキエの誕生日だからね。それまでに面倒な問題は片付けないと。


「……そういえば誕生日に、ルキエは仮面を外すんだっけ」


 でも、いきなり素顔になると落ち着かないよな。

 仮面の代わりになるものを、作っておいた方がいいな。


「トールさま。なんだか、うれしそうですね」

「うん。ルキエさまの誕生日のことを考えてた」

「そうなんですか」


 メイベルはそう言って、笑った。


「はい。私も楽しみです。陛下とは、誕生日の約束をしてますから」

「約束? どんなの?」

「それは……誕生日までの秘密です」

「そうなの?」

「はい。ないしょです」


 ……そっか。

 じゃあ、しょうがないな。


「わかった。それじゃ、楽しみにしておくよ」

「はい。トールさま!」

「アグニスも、楽しみにしていますので!」


 なるほど。

 誕生日の秘密は、メイベルもアグニスも知っているらしい。


 ……なんだろうな。

 もしかして、正体を明かしたルキエと、メイベルとアグニスが同じフロアで暮らすのかな。

 そうすればルキエも気が楽だし、みんなで夜中まで話もできる。


 ルキエも仮面を外してからしばらくは、落ち着かないだろうからね。

 ふたりが一緒にいれば、安心するだろう。


「そっか。じゃあ、楽しみだね」

「はい。楽しみです!」

「……楽しみ、ですので……」


 それから、なんとなく3人一緒に手を繋いで──

 俺とメイベルとアグニスは、ルキエの元へと帰ったのだった。

【お知らせです】


 書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」4巻が発売になりました!

 今回の表紙はリアナ皇女と、文官のエルテさんです。

 表紙は各書店さまで公開されていますので、ぜひ、見てみてください。


 4巻には『ロボット掃除機』『貴人用しゅわしゅわ風呂』などが登場します。

 書籍版のみのオリジナルアイテムも出てきます。リアナが手に入れた、集団戦を変えるアイテム『ノイズキャンセリングヘッドフォン』とは?

 そしてルキエとの関係にも変化が……。


 WEB版とは少し違うルートに入った、書籍版『創造錬金術師』4巻を、どうか、よろしくお願いします。



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新しいお話を書きはじめました。
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書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」4巻は、2022年7月8日発売です!

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