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第159話「ソフィア皇女、帝国部隊についての話を聞く」

 その後、俺たちは小屋を出て、林の中で身を隠した。



「──アグニスさまは、すぐに来てくださるとのことでした」



 伝令から戻ってきた羽妖精(ピクシー)のルネは、そう教えてくれた。


 アグニスはアイザックさんと相談して、部隊を2つに分けていたそうだ。

 半分は球体型『お掃除ロボット』の追跡に、もう半分は距離をあけて、俺たちの後をついてきていた。

 だからアグニスは、意外なほど近くにいた。すでにこっちに来るそうだ。


「アグニスさまの部隊には『オマワリサン部隊』の一部が同行しているそうです。小屋の見張りは彼らに任せましょう」

「首謀者が戻ってきたら、彼らが対応してくださいますわ」


 ソフィーとドロシーさんは言った。

 俺もエルテさんも、その意見に賛成した。


 ここは人間の領土だからね。

 小屋の見張りも、人間の部隊に任せた方がいいだろう。


「あとは『耐火金庫』を持ち帰れば、今回の作戦は終了だな」

「無事に終わってよかったですね。トールさま」

「うん。あとは、帰って戦利品を分けるだけだからね」


 ちなみに『耐火金庫』は、俺の『超小型簡易倉庫』の中にある。

 これはみんなで話し合って決めたことだった。


 これで魔王領側が『耐火金庫』を、『ノーザの町』側が『異世界の手紙と資料』を所持したことになる。

 ソフィーたちは『耐火金庫』を望んでいる。

 俺たち──というか、俺個人として欲しいのは、『異世界の手紙と資料』の方だ。

 今はお互いが、お互いの欲しいものを所持する状態になっている。


 俺たちは友好関係にあるけど、表向きは、互いの勢力の代表でもある。

 だからこうして、バランスを取らなきゃいけないらしい。面倒だけどね。


「では、捕虜(ほりょ)の皆さん。あなた方は『ノーザの町』へ連行いたします」


 ドロシーさんは言った。

 捕虜の男たちは後ろ手に縛られた状態で、数珠(じゅず)つなぎにされている。


 彼らは帝国の砦から『例の箱』を奪った犯人──あるいはその仲間だ。

 そして大公国は帝国から、その砦の調査を任された経緯がある。

 その関連で、砦から箱を奪った連中をと取り調べることになっているんだ。


「町に戻り次第、尋問(じんもん)いたしますわ。あの箱を手に入れた状況。あれでなにをしようとしていたのか。首謀者の正体について、知ってることをすべて話していただきます」

「……う、うぅ」


 捕虜の男たちは、がっくりと肩を落としてる。

 彼らはもう『ノイズキャンセリング・コート』を着ていない。

 外に出る前に、目隠しと一緒に外したからだ。

 だけど──



「……なんでも話す。だから沈黙の世界に放り込むのはやめてくれ」

「……まっくらで、耳鳴りだけが……キーンと続く世界は嫌だ。嫌なんだ……」

「……あんな能力を持っている上に……『ダークウルフ』をあっさり全滅させるなんて、何者なんだ……あんたたちは」



「「「………… (がくがくぶるぶる)」」」




 男たちは膝をがくがく震わせてる。

 目隠しされて、『ノイズキャンセリング・コート』で周囲の音を消されたのが、よっぽど怖かったみたいだ。

 まぁ、しょうがないよね。人里で魔獣を飼ってた連中だからね。


「お疲れさまでした。カナンさま」


 林の木に寄りかかって、ソフィーは大きく伸びをした。

 彼女はフードを被ったまま、俺を見て、


「カナンさまのおかげで調査は成功です。本当に、ありがとうございました」

「お礼はいいですよ。俺も、貴重なアイテムに触れることができましたからね」

「そう言っていただけるとうれしいです。それと……」


 ソフィーはうつむいて、照れくさそうに、


「カナンさまにはこれからも『ソフィー』と呼んでいただけたら……と」

「いいんですか?」

「親しい方には、愛称で呼んでいただきたいのです」

「わかりました」

「リアナのことも『リーナ』と呼んであげてください」

「そっちは本人の許可を得てからの方が」

「あら……それは残念です」


 ソフィーはいたずらっ子みたいな笑みを浮かべて、それから、胸を押さえた。

 彼女の胸元には、『異世界の手紙と紙束』が入っている。

 旅人の服の内側には、貴重品を入れるための隠しポケットがある。

 ソフィーはそこに、例の資料を隠すことにしたんだ。


「これは絶対に落としません。ご安心ください」

「俺も『例の箱』はちゃんと町まで届けます」

「あとで交換いたしましょうね」

「そうですね」

「ちゃんと、お互いに手を伸ばして、必要なものを受け取るということですよ?」

「……? はい。わかってます」

言質(げんち)をいただきました」


 ソフィーは満足そうにうなずいた。


 魔王領と『ノーザの町』側は、手に入れたものを公平に分配することになっている。だから言質を取る必要はないんだけど……?


「私も魔王領の者として、立ち会ってもいいですか?」


 俺の後ろでは、メイベルが真面目な表情でうなずいてる。


「もちろん。メイベルにはちゃんと見届けてもらわないと」

「はい。魔王領に戻るまでが、私のお仕事です」

「気を引き締めないとね」

「もちろん、油断しないようにいたします」


 俺とメイベルは顔を見合わせて、うなずいた。

 それから、しばらくして──



「お待たせいたしましたので」



 林の向こうから、アグニスがやってきた。

 火炎巨人(イフリート)眷属部隊(けんぞくぶたい)と、『オマワリサン部隊』も一緒だ。


 到着したアグニスは、俺とメイベルに笑いかける。

 それから、エルテさんやドロシーさんと打ち合わせを始めた。


「捜索チームの皆さまが、ご無事でなによりでした」


 アグニスはチームの全員に向かって会釈(えしゃく)した。

 それから、彼女はソフィーの方を見て、


「色々とお話したいことはあるのですけど……まずは、『オマワリサン部隊』の人から、ソフィア皇女さまに緊急の連絡があるそうなので」

「緊急の連絡ですか?」

「──失礼します。殿下」


 護衛部隊から兵士が進み出て、ソフィーの前に膝をついた。


「部隊長アイザック・オマワリサン・ミューラより、殿下にご伝言がございます。直言をお許しいただけますか」

「許します。どうぞ」

「……ここで申し上げてよろしいのですか?」

「構いません」


 ソフィーは言った。

 俺たちは捕虜の男たちに『ノイズキャンセリング・コート』を(かぶ)せた。

 もちろん。裏返しで。

 男たちは真っ青になったけど、短時間だから我慢してもらおう。うん。


「申し上げます。アイザックさまの部隊が、帝国の部隊と遭遇(そうぐう)いたしました。先方は、帝都より極秘任務を受けてきたと言っております。また、隊長らしき人物が、ソフィア殿下との会談を望んでいらっしゃるとのことです」


 ……帝国兵か。

 たぶん、交易所とソフィア皇女のところに来た、侵入者の仲間だな。

 侵入に失敗したから、堂々と話をすることにしたのかな。


 まったく……いさぎよいというか……ずうずうしいというか。


「隊長らしき人物とは?」

「リカルド・ドルガリア殿下……とのことです」


 沈黙が落ちた。

 ドロシーさんも、ミサナさんも、おどろいたような顔をしている。

 俺たちだってそうだ。

 まさか、ここで帝国の皇子の名前が出てくるとは思ってなかった。


「リカルド皇子が会談を希望する理由は?」

「『極秘任務のために、ある者と交渉を行うこととなった。ついては「ノーザの町」に協力願いたい』とのことです」

「わかりました。よーくわかりました」


 何度もうなずくソフィー。

 彼女は俺の方を見て、苦笑いを浮かべている。

 なんとなく、彼女が考えてることがわかった。


 極秘任務というのは『例の箱』の件だろう。

 交渉相手は捕虜の男たちか。それともダリル・ザンノーかな。


 仮にダリル・ザンノーだとしたら、奴が小屋にいなかった理由もわかる。

 帝国の皇子との交渉のため、外で準備をしているんだろう。護衛の魔獣でも集めに行ったのかな。

 あとで捕虜の男たちに聞いてみよう。


「会談に応じましょう」


 ソフィーは言った。


「場所は『ノーザの町』で、日時は……これから私たちも休まなければなりませんから、明後日の正午としましょう。護衛は、それぞれ1名。それに加えて、こちらは記録係を同席させます。この条件を先方に提示してください」

「記録係ですか?」

「交渉の内容は一字一句違えることなく、記録しなければなりません。仮に『例の箱』に関わる件なら、魔王領の皆さまにも関係があります」


 ひと呼吸おいて、ため息をつくソフィー。


「ですから、誰でもわかるような記録を残す必要があるのです。言質をとる……いえ、言った言わないの問題にならないように」

「承知いたしました!」

「リカルド皇子の部隊には監視をつけてください。私たちが戻るルートと、彼らがいる場所がかぶらないようにしましょう」

「はい。殿下!」


 そう言って、『オマワリサン部隊』の兵士さんは走り出した。


「……まさか、リカルド殿下がこちらにいらしているなんて」


 ドロシーさんは、ぽつり、とつぶやいた。


「ソフィア殿下は、リカルド殿下がなにを望んでいるのかおわかりなのですか?」

「想像はつきます。また、それに対しても一案がございます。こんなに早く使うことになるとは思いませんでしたが」


 そう言って、ソフィーは俺の方を見た。


「ことは急を要するようです。『ノーザの町』まで『耐火金庫』を運んでいただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです」


 俺はうなずいた。


「ただ、その場で戦利品を交換するとなると、魔王陛下の許可が必要になりますが」

「そのために交渉を2日後としました。その間に、魔王さまにお話を通していただけますか?」

「わかりました。すぐに伝令を出します」


『ノーザの町』に箱本体を渡して、魔王領は中の資料を得る──これについて、ルキエは許可をくれると思う。俺たちは箱の説明書を手に入れているからね。

『鑑定把握』で素材についても調べてある。


 研究を進めれば、いつか、箱のコピーを作ることもできるだろう。

 ここでオリジナルの『耐火金庫』を渡しても、問題はないと思う。

 もちろん、ルキエの許可を得られればの話だけど。


 箱そのものはそれでいいとして、問題は異世界の資料をどうするかだ。


『異世界の手紙と紙束』を読めるのは俺しかいない。

 だから俺が翻訳(ほんやく)して、コピーを作ることになる。


『ハード・クリーチャー』と勇者世界の情報は、広く皆に知らせるべきだと思う。

 その上で、帝国に『勇者召喚の禁止』を明言させないと。

 勇者世界に新種の魔獣がうろついていることは確定した。勇者召喚を行っても、来るのは勇者じゃなくてそいつらだ。

 勇者召喚は絶対に禁止しなきゃいけない。


 ただ、どこまで情報をオープンにするかは、ルキエの判断次第だ。

 手紙には、勇者世界の兵器についても書かれている。

 それを読んだ帝国が『資料もよこせ』なんて言ったら、めんどくさいことになるからね。


 あの資料は危険だ。

 手紙に『様々な武器を提案してきた』とあったように、いくつかの束に分かれていた。たぶん、それぞれ別の武器について書かれているんだろう。

 ひとつ目の表紙をちらっと見たけど、剣のようなものが書かれていた。

『超高振動ブレード』って……一体なんなんだろう?


「魔王領文官のエルテさまに、ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」


 そんなことを考えていたら、不意に、ソフィーが声をあげた。


「今回の捜索チームですが、魔王領側はエルテさまがリーダーなのですね」

「は、はい。間違いありません」

「では、お願いいたします。交渉の場での記録係として、カナンさまに立ち会っていただくことはできますでしょうか?」


 ……俺を? 皇子との交渉の場に?


「『例の箱』の事件は、魔王領の皆さまと共に解決したものです。ですから、交渉の内容は魔王領の皆さまにもお伝えするつもりです。ならばいっそ、最初から魔王領の方に立ち会っていただいた方がよいでしょう」


 理にかなってた。

 さすがソフィーだ……と思って見たら、彼女は、不安そうな表情だった。


 ……そっか。これから会う相手は皇子だもんな。

 しかも、ソフィーのところに調査兵を送り込んだ可能性もある奴だ。

 不安になるのも当然だよな。


「──皇女殿下のご配慮に感謝いたします」


 エルテさんは軽く頭を下げた。


「記録係についてですが……私個人としては構いません。錬金術師さまは──?」

「俺を記録係として、会談に立ち会わせてください」


 俺は言った。


「魔王陛下には書状で許可を取ります。この件が魔王領にとって価値のあることだと、言葉を尽くして説明します。だから、同席させてください」


 交渉についてソフィーに入れ知恵したのは俺だからね。

 その結果を見届ける義務があるんだ。


「ありがとうございます。カナンさま。それでは、町に戻りましょう」


 ソフィーは俺たちを見回して、そう言った。


「魔王領の皆さまにも宿舎を用意いたします。『ノーザの町』で休んでいってください。心ばかりのおもてなしをいたしましょう」


 そうして、俺たちは『ノーザの町』に向かうことになり──


 俺はルキエに、事情説明のための書状を出すことになるのだった。



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