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第113話「番外編:トールとルキエと『1万年記録できるペン』」

 今回は「創造錬金術」書籍版発売 (だいたい)1ヶ月前記念の番外編です。

 発売日の5月8日まで不定期にアップしていく予定です。


 今回、トールはとある筆記用具作ったようですが……。





「勇者世界の『万年筆』というものを作ってみました」


 ある日の午後。

 工房にお茶を飲みに来たルキエに、俺は言った。


「ちなみに『万年筆』とは、勇者世界の筆記用具です」

「興味深いな。どのようなものじゃ?」

「軸の部分にインクを溜めておけるペンですね。この世界では、羽根ペンや金属製のペンにインクをつけて書いてますけど、そういう必要がないものです」

「なるほど。すばらしいものじゃな。それを再現したのか?」

「はい。一応は再現したんですけど……」


 俺はルキエの前に、金属製のペンを置いた。


「軸には濃厚なインクと『水の魔石』を仕込んであります。握りの部分に魔力を注ぐと『水の魔石』から水が出て、希釈したインクをペンに届けるようになっています」

「それで文字が書けるわけじゃな?」


 ルキエは羊皮紙を取り出し、サラサラと『万年筆』を走らせる。


「少し色が薄いが、改良すればなんとかなるじゃろう。問題は『水の魔石』が必要になるため、あまり大量生産には向かぬところじゃろうか。じゃが、悪くない」

「そんなことないです。それは失敗作ですから」

「……失敗作じゃと?」

「はい。まったく、話にもならない欠陥品です」

「いや、待て、普通に文字は書けておるぞ?」

「そうですけど、これは『万年筆』なんです」

「うむうむ。そういうアイテムじゃな?」

「でも、羊皮紙に文字を書いたところで、一万年も保たないんですよ」

「…………?」

「保存状態を良くしても、せいぜい数百年から千年がいいところですね。一万年にはほど遠いです。まったくこれはお話にならない欠陥品で……」

「いやいやいや! 待て、トールよ!」


 ルキエがびっくりしたような顔になる。


「アイテム名が『万年筆』だからと言って、文字が一万年保存できるとは限らぬじゃろう!?」

「ルキエさま。これは勇者世界のアイテムなんですよ?」

「……むむ?」

「勇者が、まったく意味のない名前をつけるわけがないじゃないですか」

「そ、そうかもしれぬが……」

「このペンが一万年保つか、あるいは記録した文字が一万年保つか、どちらかの意味があると、俺は推測しているんです」

「じゃが、文字を一万年保存するのは無理じゃろう?」

「そこで方法を考えました」


 とりあえず俺はルキエから万年筆を受け取った。

 それから『超小型簡易倉庫』を開けて、素材として入れておいた石を取り出す。

 大きさは、こぶし大くらい。表面が平たくなっただけの、どこにでもある石だ。


「ルキエさま。雨だれに石を穿(うが)つ力があるのはご存じですね?」

「知っておる。同じところに水滴を落とし続けると石がくぼんだり、穴が空いたりするのじゃろう?」

「そうですね。つまり、水にはそれだけの力があるということです。で、石に彫った文字というのは、なかなか消えないですよね? 保存状態が良ければ数千年は保つと思うんです。ですから──」

「待て。お主はもしかして……?」

「はい。魔力を注ぐ位置によって『一万年筆記モード』に切り替わるようにしました」


 俺はペンのお尻に魔力を注ぐ。

 それから、石の表面にペン先を当てて、『水の魔石』の魔力を一気に解放すると──



 ボシュッ!



 石に穴が空いた。


「……というわけです。やっぱりこれは欠陥品ですね」

「……」

「出力調整がうまくいかないんです。本当は、石を穿(うが)ちながら、表面に文字を書けるようにしたいんですけど、穴が空いちゃうんですよね……」

「…………」

「大量の水の魔石で水流を作って、風の魔石でむりやり圧縮してますからね。無理があるんですよ。もちろん、安全装置は付けてます。『地の魔石』を利用して、岩以外には『一万年筆記モード』は使えないようになっています」

「………………」

「でも、一瞬で『水の魔石』の魔力を使い果たしてしまうんですよ。こうやって魔石を交換すれば書き続けられますけど、それじゃ効率が悪いですよね? それに、石の材質によっては砕け散ってしまうことも──」

「トールよ」

「はい。ルキエさま」

「お主、もしかして徹夜(てつや)明けか?」

「あれ? どうしてわかったんですか?」

「よく見ると、目の下にくまができておる。しかも身体がフラフラしておる。お主……もしや寝てるときに『万年筆』のことを思い出して、真夜中のテンションのまま、徹夜で一気に仕上げたのではなかろうな?」

「見てたんですか?」

「見てなくともわかるのじゃ! まったく……」


 呆れたようにつぶやくルキエ。

 それから彼女は『認識阻害』の仮面とローブを身につけ、魔王スタイルになってから、


「食堂につれていってやる。まずは熱いミルクを飲んで、それから腹になにか入れよ。そうしたらゆっくり眠れるじゃろう。ついてくるのじゃ」

「いえ……ルキエさまに……ご迷惑をかけるわけには……」

「ふらふらしておるぞ? いいから、ほら、一緒に廊下に出るのじゃ……って、ああ、転んでしもうたか。仕方ない。ミルクはメイベルに言って、部屋に届けさせよう。ベッドまでついていってやるゆえ、眠れ。いいから寝ろ。まったく、ほっとけないやつじゃな。トールは」


 俺は魔王ルキエの手を借りて立ち上がる。

 廊下から部屋に戻って、ベッドに入って──


 その後、メイベルが持って来たミルクを飲んだあと、俺の意識は途切れたのだった。





 ──数分後──




「おや? 見慣れないペンが落ちていますね」


 通りかかった廊下で、宰相ケルヴは金属製のペンを拾い上げた。


「誰かの持ち物でしょうか? それとも、トールどのが作った新アイテムですか? ここは本人に聞いてみた方が……」

「宰相閣下!」

「おや、ライゼンガ将軍の部下の方ですね。どうしましたか?」

「郊外で魔獣ロックリザードが発見されたそうです」

「ロックリザード? 全身を岩で覆われた、素早い巨大トカゲですね?」

「はい。すでに討伐は完了しましたが、宰相閣下に検分をお願いしたいと思いまして」

「承知しました。あれは生命力の強い魔獣です。息の根を止めたかどうかチェックはしましたか?」

「戦ったのは新人の部隊ですが、訓練はしております。問題ないかと」

「わかりました。すぐに行きましょう」


 そうして宰相ケルヴは、武官たちと共に郊外に向かったのだった。




 数時間後。


 武官たちにより、魔獣ロックリザードの死亡が確認された。

 怪我人が出たのは、新人部隊がロックリザードを甘く見ていたことによるものだ。彼らは、あの魔獣の生命力が強く、時に死んだふりをするという習性を忘れていた。

 息絶えたと思われた魔獣が暴れ出し、彼らに攻撃を加えたのだ。


 その時に、ちょうど宰相ケルヴが居合わせていた。

 彼は、記録を取ろうと羊皮紙を取り出し、持っていたペンを振り上げたところだった。


 直後、魔獣ロックリザードは黒いインクに頭部を貫かれ、即死した。

 その場に言わせた武官たちは、後にこう語っている。



「──魔獣の突進に気づいた宰相閣下は、手元に大量の魔力を集中させた」

「──次の瞬間、高圧噴射された黒い水が、ロックリザードの頭部を破壊した」

「──宰相ケルヴさまに、魔獣の爪が刺さる直前だった」

「──胸ポケットに万年筆を入れていなければ死んでいた」



 その後、魔王ルキエと宰相ケルヴによって『一万年筆記モード』使用禁止令が出るのだが、それは武官たちには知るよしもないことなのだった。


 というわけで番外編をお届けしました。

「創造錬金術」書籍版は5月8日発売です!

 書き下ろしエピソードも追加していますので、ぜひ、読んでみてください!

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