0回目の妹の後悔 2
なぜ?
なぜ??
どうして死んでしまったの?
ぐるぐるとずっとその言葉が頭をめぐります。
姉の死体が川に流れて見つからなかったせいでしょうか、いまだに死んだという実感もわきません。
憎んでいたはずの姉が死んだら、私はずっと喜ぶだろうと妄想していた。
けれどどうしてこんなに苦しいのだろう。
リシェルに会いたい……。
私はそう思って学園に向かった。
けれど、終ぞ会えなかった。
それどころか、誰に聞いてもリシェルという名の学生は知らない、いない、聞いたこともないという。最終手段だと先生に聞いても、彼女の存在は確認できなかった。
1年ずっと、あの図書室で会話していたのに……妖精にでも化かされたのかと思うほどリシェルの存在は消されてしまっていた。
「……もしかしたら偽名だったのかもしれませんが……毎週決まった時間に個室を利用していたのでしょう? 利用名簿に残っているのではないでしょうか?」
閲覧許可を出しましょうと提案してくれたのはマルス様だった。
アレックス様と殿下は卒業してしまったので、今この学園には私とマルス様しかいない。
あれから公に調査して、嫌がらせの主犯は別の令嬢だったとはっきりした。
大勢の前で断罪しなかったことが功を奏したおかげか、姉に濡れ衣を着せて婚約破棄をしたという事実はなかったことにされてる。
殿下の名誉も、姉の名誉も、結果として守られた形になっているのが皮肉だった。
ただ、殿下は姉の死がショックだったようで、私と会うたびに姉とよく似たこの顔を見て悲しそうに目を伏せる。きっと姉を思い出して辛いだろうに、それでも私と婚約するために方々手を尽くしてくださっているようだ。
殿下は未だに、姉を想っている。分かっていたことだが、少しだけ傷ついた。
私はと言えば、姉を亡くし、唯一友だったと思っていたリシェルと連絡が取れなくなってやる気を完全に無くしていた。
せめてリシェルのことだけでも分かればと思ってマルス様に相談したところだったのだが、利用名簿の存在はすっかり失念していた。
あぁこれで、リシェルが誰なのか分かる。
そんな思いで許可を頂いた名簿に、マルス様と目を通しました。
「……嘘」
自分が利用した日、時間、どんなに調べても出てくるのは私の名前とリシェルと書かれているはずの名前。
でもそこにはリシェルの名前はなかった。あるのはただ一つ、忘れたくても忘れらないたった一つの名前。
リゼット・ル・アルテミシア・ウィレッド
憎くて憎くてたまらない、世界で唯一だった今はもういない姉の名前がそこにあった。