35回目で巻き込まれた異世界転生者 4
そうしてこの1年。俺達は情報をひたすらに集めた。
過去の記憶と照らし合わせながら、いつ、誰が動くのか。なにが証拠になって誰が捕まるのか。彼女を救うために必要とするピースが、いつどこで手に入るのか。その情報の全ては畜生に預けることで、次の世界に持っていける。
そして、運命の日……。
救いたい彼女は、きっと今夜殺される。
死にたいと願った彼女は、父親に心臓を抉られて殺されるのだ。
今駆け付ければ今際の際に間に合うかもしれないが、リゼット嬢が今の段階でもうすでに虫の息で1日も持たず絶命することは34回を経たクリスとディアナ嬢の話で分かっている。
心臓を抉られる直前に飛び込んでも、彼女はそのまま息を引き取るのだ。
「別に……ここに来なくてもよかったんですよ、マルス様」
「いいえ、私が言いだしたことです。せめて自分の罪をちゃんと見ておきたい」
次のために見殺しにしようと言いだしたのは俺だ。35回目の彼女は、まちがいなく俺のせいで死ぬ。クリスとディアナ嬢に残酷で惨い選択をさせたことを、俺は決して忘れてはいけない。
そう魂に刻み込むために、彼女が死ぬこの日……、公爵家を断罪するために組織された隊に特別に加えてもらったのだ。本来なら参加できないはずのディアナ嬢も、34回目となれば慣れたルートでこの隊に加わっている。
周りの兵はクリスの婚約者の遊びだと思っているだろうが、彼女には34回分の執念があって、今35回目を更新するところだろう。
「ディアナ……お願いがあるんだ」
「なんですか殿下」
「36回目に行った時、俺よりも先にお前が思いだしたら、俺が思いだすまでひっぱたいてくれないか?」
「変態ですの?」
「違う」
「……いいですわ。殿下をひっぱたけるなんて、きっと一生ないでしょうから。その代わり不敬罪とかで捕まえないで下さいね。マルス様はいかがいたしますか?」
「いや……俺は遠慮……そうだ畜生。いるか?」
『だから!畜生って呼ぶなって言ってるだろう! にんげん!』
「うるさい畜生。俺達の記憶……もう少し早く戻らないか?」
『は?』
「どういうことだマルス」
「いや……、もし彼女の死に確定のきっかけがあるならそれは言わずもがな、あの時、あのタイミングで馬車に乗る事だろう? あの日の夜……馬車に乗ることを阻止できればそもそもの拉致から守れるんじゃないか?」
『うーん? 飛ばす時間調整はすごく難しいんだよ! だからうまくいくのは約束できないな』
ドヤっという効果音でも出そうな顔で、ギィは胸を張った。その様子を見て、俺がイラっとするよりも早くディアナ嬢が切れたのだろう。精霊とはいえうさぎの耳をぐっともって持ち上げて、凄みの利いた瞳でにっこりと訴える。
『うわぁああん、わかった! がんばる!! がんばるから!! おみみとれちゃうでしょ!!!』
「分かればいいんですの。精いっぱい努力して下さいね」
そう言って怪しく微笑むディアナ嬢を見て、俺は一番敵に回してはいけないのはディアナ嬢だと再確認したのだった。
次回で一応最終回です。
 




