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36回目の生存戦略  作者: salt
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神様の事情



『いやね、そもそものはじまりは創造主側の事情だったんですよ』


 うさぎによく似たその生き物が、慣れた手つきでフォークを持ちながら用意されたケーキを食べつつ話をし始めるのを、私は殿下の膝の上に抱かれたまま聞いておりました。


 あれからどうにか馬車で学園に戻った私と殿下は、そのまま先ほどの生徒会室へと戻りました。

 扉が開いた瞬間、私の存在を認めたディアナに「おねええさまぁあああ!! いきてる!! おねえさまいきてる!!」

 と号泣され困惑し通しだったのですが、ここにきてまさかの精霊様を名乗る喋るうさぎさんの登場にいい加減心の容量が限界です。


『リゼット、君はですね、創造主が愛した聖女なんです』

「聖女???」

『はい、覚醒しない予定の聖女です。あなたの子孫が100年後の未来で覚醒するのですよ!』


 まったくもって意味が分からないと顔を顰めていると、隣でマルス様がコホンと咳払いしてそれから要領よく説明してくださいました。

 まとめるとこうです。



 この世界は創造主様という神様が作った世界で、そういった世界は他にいくつもあり、神様同士で自分が作った世界を比べ合っているのだそうですが、その世界を比べる基準というものに聖女・又は聖人の魂の幸福度というものがあるそうなのです。


 定期的に生まれ落ちたその聖女又は聖人が、生まれてから死ぬまでの間に幸福だとどれだけ思っていられたかで競うそうなのですが、この世界の今代の聖女に選ばれたのが私、リゼット・ル・アルテミシア・ウィレッドだったそうなのです。


 私のセカンドネームであるアルテミシア、母がつけてくれたと聞いていたのですが、このアルテミシア、月の精霊姫の御名だったそうで、聖女には必ずこの名がつくそうなのです。


 本来では、管理する創造主様の元、正しく幸せになれる場所に生まれ落ちるはずで、そもそもの話では殿下の妹としてこの世に生を受ける予定だったようなのです。ですが、不幸な事故で生まれることができず、私の魂はこの世にあぶれてしまったそうなのです。


 慌てた創造主様は、私の魂を保護すると人間界に変装して忍び込みました。

 母となってくれる、より良き母体を求めて夜会をさまよった結果、出会ったのが、公爵令嬢で今はディアナの母でもある母でした。

 一夜の恋に落ちてしまった創造主様と母は駆け落ちし、自身を父としてあぶれた魂である私を母に身ごもらせました(……つまるところ、私の父は創造主様だという衝撃に、頭がくらくらしますが藪蛇はつつかないでおきましょう)。


 身ごもった母を置いて、創造主様はほんのひとときの間だけと自身がいた世界にお戻りになられました。創造主様は本当にひとときの間だけだと思っていたようなのですが、そうは問屋が卸しません。創造主様を待っていたのは、100年後にどこかの世界が滅ぶという予言でした。


 創造主という存在は世界があって初めて存在することができる神様らしく、創造主様の世界はその事件でてんやわんやしていたそうです。

 それはこの世界の創造主様も例外ではなく対応に追われ、ようやく世界を滅ぼさない方法が「今代の聖女の子孫が覚醒した後、世界の脅威を浄化するだろう」というありがたい予言に辿り着き、これ幸いにと意気揚々と母のもとに帰れば、あれから5年が経過し私は既にこの世に生まれ、母は男爵と結婚しディアナが生まれている有様でした。


『創造主の敗因は、人の時間感覚と神の時間感覚の相違だと思うんだよね。可哀想に』と、うさぎの妖精様(……お名前はお教えできないそうで、殿下やディアナ様があだ名でギィと呼ばれてることを教えてくれました)が、何とも楽し気にケーキを食べながら言っていました。ギィ様……その小さな体に一体いくつケーキを放り込むのでしょう……。


 さて、妻を失った創造主様は深い喪失感に襲われましたが、娘であり世界を救うカギである私のことを気にかけました。慌ててその様子を見れば、月の姫君の再来の容姿を与えたにもかかわらず、物置に放り込まれ虐待されている始末。

 天を仰ぎ見て、「そもそもこれじゃあ幸福度がマイナス過ぎてあかん」と嘆いたそうです。


 そこで、せめて王家に嫁がせようと画策し、殿下に娘を救ってもらおうと色々試行錯誤を繰り返した末、婚約者という形で救うことに成功しました。

 一番の後ろ盾であった王妃様に、もしかしたら生まれるはずだった我が子だと感じてくれていたのも大きかったようです。事実、その通りでしたし創造主様はあの不幸な事故で奪ってしまった娘をどうにか王妃様の娘にしたいという思いを持っていたと聞きます。


 母の愛情を感じたことがない私にとって、王妃様はお母様のように感じていましたから、それは少し気恥しくも嬉しい事実でありました。

 でそれがまさか10年後、王子の心変わりから婚約破棄になるとは夢にも思ってなかったようです。しかもその後拉致監禁。「今頃幸せになっていてくれてるだろうかと確認したら、まさか塔に監禁されてるとは思わないじゃん!!!」と創造主様、盛大に泣き喚いたそうです。


 頼りにしたかった殿下は、妹と婚約を進め、どうにかお告げという形で近衛騎士だったフランシス様(……その当時、フランシス様は私を護衛しなかったという責任を取られていて、自ら除隊をしていたそうなのですが)に私が生きていることを伝え、侍女のリシェルと共に救い出すように力を貸したそうなのですが失敗。しかも2人の亡骸を首謀者が私に見せたことで、更に幸福度が下がりもうどうにも手遅れになってしまったそう。


 足の腱を切られ、辱められ(……この辺りはあまり詳しく教えてはくれませんでしたが)衰弱してもう生きているのが不思議なくらいだった今際の際、創造主様は私が願った「死にたい」という願いを叶えてしまったそうです。


 そう、仮にも創造主の娘として生まれた、聖女である私を、この世界に住む人間がここまで追い詰める扱いをしたことに、創造主様は病んで狂ってしまっていたのです。


 創造主様は、私の不幸に満ちた魂を心臓ごと取り出すと、そのまま100年眠りにつきました。

 眠りについた創造主様は、100年その不幸な魂を温め、力を増幅させたかと思うと目覚めた瞬間自身の世界を滅ぼしました。

 そう、100年後に世界を滅ぼした脅威とは、自分の作った世界に絶望した創造主様のことだったのです。


 創造主様は怒りのまま他の創造主様の世界も壊し、唯一救いがあるはずの私の子孫もいなかったので、世界は全滅してしまったそうです。


『いや、それでね。さすがにそれはマズいってなった創造主たちの祈りが結晶化して、問題になったこの世界の過去へ送り込まれたのが僕なんだよ』


 そう言ってギィ様が胸を張りますが、私はその言葉をちゃんと飲み込めません。あまりにも情報量が多くて簡単には頷くことができないのです。


「つまりですね、このギィは過去に戻って自分が望む世界になるまで、つまり最低限あなたの子孫が100年後残る未来を得るまで時を繰り返す使命を帯びた畜生なんですよ」

『畜生っていうな! 僕はとっても偉い精霊なんだぞ!』

「うるさい、きゅう〇えみたいな見た目の自称妖精には騙されるなって、オタクの教科書に書いてあるんだ」

『だからぼくはそのインチキ妖精とは違うって言ってるだろ!』

「うるせぇ、これでも食ってろ」

『うわぁいイチゴだ!イチゴ!』


 普段のマルス様から想像もつかない会話に、私が目を瞬かせているとマルス様はにっこりと笑いました。


「リゼット様、殿下とディアナ嬢はこの畜生に願われた時間遡行者なのですが、私は他の世界に生きた記憶を持つ異世界転生者なのですよ」


 もう、私には理解が追い付かないので、どうか休ませてほしいです。




お察しいただければ幸いですが、このお話はこのあたりからシリアスクラッシュします。

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