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36回目の生存戦略  作者: salt
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0回目の彼の後悔 2

*胸糞表現、死体描写があります。



 死んだはずの彼女の死体が見つかったのは、公爵家の敷地内にある塔の最上階だった。


 それが見つかったのは、ウィレッド公爵の不正を暴いたのが原因だった。

 もうずいぶん前、今の公爵に変わってすぐの頃から公爵家は邪教に手を染めていたらしい。精霊神話を否定するその邪教にとって、魔石産業が活発なかの領地は絶好の場所だったようで、公爵交代でごたついたところを狙われたようだ。


 公爵はすっかり邪教に洗脳されて、その息子であるリカルド・トラン・ウィレッド子息もその邪教に浸食されていた。ついには国家転覆をはかったとして捕縛されたその際に、ぽつりぽつりと供述したのが彼女の死にまつわる偽装の全てだった。


 あの日、馬車ごと流されたはずの彼女は、本当はずっと生きていた。


 あの時、すでに邪教に侵されていた公爵家にとって、月の精霊姫と同じ容姿をした彼女が王家に嫁ぐということはあってはならない事だった。

 本来であれば、自分が卒業した直後に正式な婚約式を行い、その後彼女が卒業してから結婚式を挙げる予定だったのだが、婚約式が行われる前に彼女を亡き者にしようと、ずっと計画を練っていたらしい。

 あの日は絶好の作戦決行日で、彼女が早々に帰宅するということでほんの少し予定は狂ったものの作戦は決行された。


 あの川の近くで馬車は一度止まり、彼女は実の伯父の指示で誘拐され、馬車はそのまま彼女を乗せずに川に突っ込んだ。御者はほんの少しだけ川に入って偽装工作を行ったようだ。

 誘拐された彼女は、そのまま公爵家の隠し塔と呼ばれる場所の最上階に囚われ1年以上幽閉され続けたようだ。


「でんかぁ、きいてください。いちどね、あいつにげようとしたんですよ。どこから知ったのか暇を出した侍女と、あんたんとこの近衛騎士がね、助けに来てくれたからって」


 すっかりやつれた彼女の従兄であるリカルドが、心の壊れた調子でそう言葉を紡ぐ。自分の知っているこの男は、あの家で唯一彼女の味方だったはずだが、今は見る影もない。


「王都に逃げ込んだの……そう、殿下の婚約式の日ですね。あのまま人ごみにまぎれて逃げてればよかったのに、あいつ、あんたとディアナ様の姿見て立ち止まってね、そこを俺の手の者が捕まえたらしいんですよ。傑作でしょう? あいつずっとあんたに操を立てて、俺に足を開かなかったのに、そんな風に現実を突きつけられてさ、……可哀想だから、抱いてやりましたよ。抵抗するかと思ったんですけど、侍女と近衛騎士の首をゲストに持ってきたら大人しくなって……可愛かったなぁリゼット。早くまた抱きたいなぁ……」


 うっとりと夢見心地で、実の従妹を襲ったという話をするこの男を、同じ人間だと思いたくなかった。ケラケラと狂ったように笑う男を、一度だけ殴って俺は全てを憲兵に任せた。


 もう、何も考えたくなかった。


 彼女の遺体は、ディアナにとても見せられるものではなかった。

 声をあげさせないために喉を潰され、凌辱を受けた体は痣だらけ。逃げないためにと、両足の腱を切られ、首には太い首輪が巻かれていた。

 そんな状態にまで追い込んで、それでも生かしていたのは何か利用価値があったのだろう。


 最後には生きたまま心臓をえぐり取ったのか、ベッドの上に赤い血だまりを作って彼女は生を終えていた。美しかった白銀の髪は、傷んだ末に真っ赤な血に染まり、色を失った瞳には絶望が刻まれている。とてもじゃないが、穏やかとは言い難い最期だった。


 あぁ、どうして。


 彼女は確かに生きていた……生きていたのだ。

 ほんの数日前までずっと、生きていたのに、どうしてこんな酷い死を迎えねばならなかったのだろう。


 もっと早く公爵家を調査していれば、救えたはずの命だ。

 何度も夢に描いた、彼女の最後の耐えるような微笑みが、この凄惨な死体に塗りつぶされる。

 あの日失ったと思った彼女を、2度も失った気分だった。

 いや、失ったのだ。

 気が付かなかったという理由で、俺は2度彼女を見殺しにした。

 やり直したい……できることなら最初から。せめてこの1年を……。


『その気持ちは本当かい?』


 鈴の鳴るような、それでいて抑揚のない声が聞こえて、俺は振り返る。

 目の前にいたのはウサギに似た何かだ。ぬいぐるみのようなそのウサギの額には赤い石が輝いていて、一目見てただのうさぎではないことが分かる。


『やぁ、王子様。君にチャンスを与えよう』


 それが、俺と彼女の運命を変えた瞬間だった。




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